勧誘
目覚ましの音が鳴り響いている。
涼はけだるい表情で目覚ましを止め、ぼんやりとしながら
夢の中での出来事を思い返していた。
結局、涼の夢に戻ってきた二人はどちらの言い分を信じるか?
という点で、遥は当然のようにモルペウスを押し
涼のしばらく様子を見たい、という考えに否定的だった。
その結果、この日はこのまま物別れとなっている。
そんな夢の中での出来事に話だったのに
目が覚めてみると、精神的疲労感が残っているようだ。
着替えを済ませてリビングに向かうと、天気予報をやっている所だった。
「夕方から雨が降るでしょう」
お天気お姉さんのさわやかな予報の割には雨なんだな。
などと思いながら朝食をすませ、友人宅に向かう準備をする。
今日は彼と二人で単車の中古車屋巡りをする予定だった。
そこに、チャイムの音が聞こえてくる。
もう既に嫌な予感しかしない彼が、インターホンで対応する。
するとモニターにはスーツ姿の老紳士が移っていた。
「どちら様ですか?」
身なりはそれなりだが、警戒を解かずに問いただす。
すると彼はヒュノプスからの使者だという。
まさか翌朝から返事を聞きに来たのかと丁寧にお断りしようとすると
返事を聞くための予定を聞きに来ている、という。
大人がわざわざそんな事のために足を運んだことに驚き
即答できないことを伝えると、老紳士が次回の訪問日時を確認できれば
今日の所は帰るという。
とりあえず、連絡先だけを聞いておき、その日は帰ってもらった。
そんなやり取りをしている間に、家を出る時間になってしまい
友人宅へ向かうために自転車に乗り、家を出ていった。
20分ほどで友人宅に到着すると、彼の家族が怪我をして
これから病院に向かう所だ、と言われてしまう。
仕方なく、一人で中古車屋を見て回っている時
見覚えのある男性が話しかけて来る。
「やあ、実際に会うのはこれが初めてだね」
それは昨日の夢に出て来た藤原だった。
「今日は君に我々の活動がどんなものかを知ってほしくて
ここまで来てしまったんだけど、時間はあるかな?」
その問いに対して、そのまま断っても何度でもやってきそうな雰囲気に
良いですよ、と返事をして車に乗り込む。
自転車は後で家まで送り届けよう。
というので置いたままにしてきたが、これがもし誘拐だったら?
と車に乗り込んでから怖くなって、身を強張らせていた。
そんな心配をよそに、車は大きな敷地の中に入っていく。
正面玄関で車から降り、ホールを抜けて豪華な部屋に辿り着いた。
ソファーに座るように勧められると、制服を着た女性が
コーヒーを持ってきてくれる。
涼の正面に座った藤原は改めて涼に語りかける。
「どうかな涼君、この施設は?」
そう言われて素直に
「すごいです」
と答える。
「我々の教団は多くの人、それも社会的地位のある人達の寄付で運営している。
それは我々の存在が世間に認められ、求められているからだ。
私たちはモルペウスのように路上で怪しげな勧誘を行ったりしないし
入会の強制もしない。
これは私たちが認めた人間と、その紹介者しか入会することが出来ないからだ。
君が誤った選択をしないように、早い段階でこの事を知ってもらいたかった。
だから、失礼だとは思ったが朝に訪問させたりしてしまった。
これは本当に申し訳なかったと思っている。
しかし、これで分かってもらえたと思うが、君が選ぶ以前に我々が選んでる。
という事、そして常人では望んでも手に入らない切符を君は手にしているんだ。
あとはもう、間違った選択を行わないように祈るしかないんだが」
そう言うと爽やかに笑って名刺を差し出した。
「この名刺を持っている限り、君の入信の門は常に開かれている。
仮に、君が悪夢を私利私欲のために悪用しようとする者達に加わるのなら
残念だが、君と敵対しなくてはならなくなる。
もし君がそうなったとしても、君の心が正しき事に気が付いたのなら
私たちはいつでも君を受け入れるつもりだ」
そこまで言うと藤原は、何か聞きたいことがあるかな?
と言っていたが、プレッシャーに耐えられなくなった涼は
特にないですと返事をして、家まで送ってもらう事にした。
家に着くと自転車はちゃんと戻されていたので
それだけは安心したのだった。




