新たな訪問者
突然、夢の世界にひずみが生じる。
その違和感に涼は思わず頭を押さえる。
遥も同じように感じていたのだろう、さっきとは別人のように
表情が変わり、辺りを警戒する。
その時、部屋の窓から見える周りの景色がぼやけ真っ暗になっていく。
二人は慌てて窓に近づき、外の様子を確認した。
そこには涼の見慣れた街並みではなく、どこかの高層マンションのような
所から見下ろした夜景が広がっている。
窓を開けてベランダに出てみると少し肌寒い空気を感じる。
格子の上から下をのぞくと足がすくむような高さを感じられた。
「君たちには少し、寒かったかな?」
部屋の中から男の声が聞こえた。
慌てて振り向くと、スーツ姿の男性が立っている。
しかしそこはさっきまでいた涼の部屋とは違い
高層マンションのリビングへと変わっている。
ベランダで感じた冷たい空気のせいか、この状態が夢だと認識しているからか
涼はそれほど混乱していなかったが、一緒にいる遥の方は
男性に対して露骨な警戒心を表していた。
部屋の中に招き入れられると、二人をソファに座らせる。
「初めまして、私は藤原誠、よろしく」
爽やかな笑顔で自己紹介を済ませると、彼は涼と遥に対して
自分の団体への勧誘を始める。
彼曰く、モルペウス教団が行っている悪夢の駆除は、実際には夢の主に対して
悪影響を及ぼすだけだ、と言うのだ。
悪夢は日頃の生活で受けたストレスが原因で、その姿を夢の中に表し
夢の主の精神を蝕んでいく。
ところがモルペウス教団がいくら悪夢を払っても
夢の主が悪夢に悩まされないよう現実を改善しなければ
悪夢は何度でも蘇り、やがて夢の主は白昼夢を見るようになる。
そして、それは現実世界に影響を及ぼす存在となり
さらに他の人々の悪夢を生む呼び水となっている。
これは全てモルペウスがタナトスに捧げる生贄を求めて行っていることだ。
元々、モルペウス教団は藤原のいるヒュノプス教団で悪夢を封じるていた仲間だった。
そんな彼らにタナトス教団の人間が近づき、自分たちの力を世に示そうと
モルペウス教団を立ち上げる。
そして、何も知らない少年たちを使い
悪夢を駆除すると見せかけた負の連鎖を発生させる。
という藤原の話に、遥が反論する。
彼女の話によると、全ての始まりは二クス教団と言う団体で
人々の平和を願っていた。
しかし、その中に自分たちの力を誇示したいと思う人たちが現れ
それによって教団が三つに分かれてしまう。
力を持たない平和を望む二クス。
自分たちの力を誇示しようとするタナトス。
そして、力を以ってタナトスを止めようとするヒュノプス。
ところがヒュノプスの中にもタナトスに影響される者が現れ始めた。
やがてヒュノプスの内部で諍いが起こり、彼らから離脱したのが
モルペウス教団で、彼らはヒュノプスとタナトスが白日夢を使って
この世に混乱をもたらし、自分達の力を見せつけるために
活動している。
二クスとモルペウスは彼らを止めるために戦っている。
「騙されてはダメ」
遥の言葉に少し困った顔で藤原が
「可哀そうに、そこまで洗脳されていたとは」
彼の言葉が終わらないうちに遥が拘束される。
「どうするつもりなんですか?」
藤原の行動に涼の警戒心が一気に強まる。
「ここは私の夢の中だ、彼女に暴れられては困るので
拘束させてもらっただけさ。
ただ、後は君次第だよ、君はまだそこまで洗脳されてはいないようだし
どちらが真実を語っているか、よく考えてから答えを出せばいい」
確かにこの展開で急に結論を求められても答えの出しようがない。
追い詰められて反発をされるよりは良いと思ったのかもしれない。
そんな事を考えていると、いつの間にか再び自分の部屋に戻っている。
側にいたはずの遥の姿を探すと、彼女はベットに横になっている。
状況を確認するにはどうらや彼女を起こすしかないようだ。
優しく遥の体を揺すって起こすと、ベッドの上で
もぞもぞしてから、むくりと体を起こした。
それから一つ、大きな欠伸をして周囲を見回す。
そして一言、おはようございます。
と言ったのだった。




