春の嵐 3
「え?何?どういう事?」
なぜそんな話を彩香がするのかわからない涼は
確認しようと再び彩香に問いかける。
「私も教団の一員なの」
「えぇ・・・?」
その答えを聞き、彼の心の中で彩香とは距離を置こうと決めた。
勘の良い彩香はそれを察して
「あんただってもう仲間なんだよ」
と言いながら、涼の肩をポンポンする。
これには彼も後ずさりし、実際に距離を取ってしまう。
どうやら彼女は夢の国へ旅立ってしまったようだ。
そう判断した彼は、ここは穏便に話を合わせ
彩香に帰ってもらおうと考えていた。
「いや-、立派な住まいですねー、細部まできっちり作りこまれている
彩香さんが推薦するのもわかりますー」
突然の発言は彩香の隣に座る男のものだった。
いつの間にか、彩香の隣に座っている彼に涼は
「どちらさま?」
と、丁寧に確認した。
「私は・・・」
その問いに答えるべく口を開いた彼を遮って、彩香が
「彼は、ぼんと言って教団の導師よ
今日は貴方を導く為に来てもらったの」
「ちょっと意味が・・・」
「では、皆で少し散歩しましょうかー」
促されて渋々付いていく。
そうしなければ、いつまでも帰ってくれそうになかったからだ。
彼らは外に出て、普段は涼が通らない方向へと歩き出す。
そして、曲がり角に差し掛かると
「この角の向こうはどなっているんでしょー?」
「どうなってって、見たらわかるじゃないですか」
ぼんの問いかけに自ら角を曲がる。
そしてそこには、普通の街並みが広がっていた。
それを見たぼんは
「素晴らしい、これほどとは思わなかったですねー」
などと呑気に言ったあと、さらに続けて
「そういえば、彩香さんは夕方に彼の所に来たんじゃなかったですかー?」
そういえば昨日、母親が夕方に彩香が来るから安心して
とか言っていたような記憶がある。
その表情を見て取ったぼんは
「それにしては、日が高いですねー
周りも随分明るいですしー」
その言葉を聞いて太陽が急激に西へと移動し夕暮れになる。
パニックに陥った涼に彩香が声をかける。
「落ち着いて」
その言葉に正気を取り戻した涼がぼんに尋ねる。
「これは、どういう事なんですか?」
その問いに笑顔で答えたのは彩香だった。
「ここはあなたの夢なのよ」
特に驚きもなく平常営業の彼女の隣で
ここはきみの夢なのだー!と、カッコ良くセリフを決めようとしていた
ぼんの言葉が不完全燃焼のまま空中へと消えていった。
何故か少し、落ち込んでいるようにも見える。
涼にとって衝撃だったのは、自分が今
夢の中にいる、と言う事実と中途半端に聞こえたぼんの決め台詞に対して
彩香が何のフォロ-もしない点だった。
「もう一度、さっきの角を曲がってくれるかなー」
そう言われて、改めて街並みを眺めると
道路の右側には柿が実っていたり、クリスマスの装飾がなされている。
そして、左の家には七夕飾りが施されていた。
「恐らくは、昔の記憶から街並みを再現したんだろうねー。
でも、それだけでここまで再現できるなんて凄い事だよー。
僕も優秀な仲間に巡り合えて感動してるよー。
これからもよろしくねー」
先程のダメージから回復したのか
笑顔で握手を求めてくる。
それにつられて、違和感を感じつつ握手を返す。
「では、これから実践の演習に移りたいと思います」
事務的な彩香の発言に反射的に、はい
と返事をしてしまう。
そして、夢の世界は涼の不安に応えるように曇天の空へと変化していった。




