9/13
白い
「しょうがないな、もう。」
裕也が、牛乳をこぼした。
「にゅうにゅう〜!」
来年小学生なのに、いつもの呼び方で、大好きな牛乳を呼ぶ。
俊彦さんが、呼ばせた呼び方。
「子供らしくてかわいいだろ。」
子供みたいに笑う俊彦さんを思い出す。
そういえば、あの日の朝もこんなだったな。
「よっしゃー!床ににゅうにゅう飲ませてやったな、裕也よくやった!次はお父さんが、タオルににゅうにゅう飲ませてやろう。」
”でも”
と美和子は思う。
”でも裕也は男の子だし、
もう5歳だし…”
「裕也、にゅうにゅうじゃなくて牛乳でしょ!」
強く言って、すぐに自分の胸が締めつけられた気がした。
「ぎゅにゅう…」
裕也は美和子じっと見ていた。
こういう時は褒めてほしいのだ。
「…ちゃんと言えた!えらい、えらい。」
できるだけ笑顔を心がける。
裕也はふたたび美和子をじっと見て、しばらくしてからいつもの様にニッと笑った。
「ママもえらいえらい。」
なんだか、ほっとして胸が温かくなった。
もう少し甘やかしてもいいだろうか。
裕也の事も、自分の事も。