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シクラボ短編集

俺の家に天使が来た

作者: 澄鈴亮

「藪医者」

 俺の評判は最悪。まあ、俺の腕は本当に悪いから仕方がない。

 小さい頃に助けてくれたお医者さんに憧れて医者になったのはいいが、どうも「才能」というものが俺にはないらしい。

 どうせ「ヤブ」だ、と俺は開き直って、半分……と言うかほぼ完全に医者の道は諦めている。

 ……諦めていたのだが。


 「おっす。うち天使。さっさと願い事言えやボケ」


 変人が屋根を突っ切ってきてそれどころじゃなくなった。


 「何なんだお前……」

 「うるせえ。とりあえずうちを助けるか願い事言うかどっちかにしろアホ」


 その自称天使は、何故か電球のコードに引っかかったらしくて、ぶらんぶらんと宙吊りになっていた。

 本当になんだこいつは。

 しぶしぶ自称天使を助ける。


 「ほ!礼は言わないぜ!!」

 「いや、言えよ」

 「うっしゃ!じゃあちゃっちゃと願い事聞こうか!」

 「……」


 突然現れてなんなんだこいつ。屋根ぶっ壊しやがって。クソ。家賃もろくに払えてネェっつうのに。


 「うーし!さっさと言えよな!」

 「そんなん急に言われてもなんもねーぞ」

 「困る!何でもいいから言ってみろ」

 「じゃあ出て行け」

 「それは断る!」


 本当になんなんだこいつ。

 ……あれ、よくみたら羽もあるしあの……天使の輪っていうやつもあるぞ?コスプレかと思ったら本当に飛んでる……?


 「え……お前、本当に天使……なのか?」

 「だからそう言ってるだろ!?」

 「いや、そんな口悪い天使が何処にいるんだ」

 「う……神様からも言われてる……やっぱそのせいで、うち落ちこぼれなのかな?」

 「いや、知らんがな……」


 

 とりあえず、面倒ごとに関わりたくない俺は自称天使を遠ざけまくった。だがしつこいことに、自称天使は一ヶ月経っても俺から離れようとはしなかった。



 「そろそろ出て行ってくれねぇか?」

 

 大通りの信号を待ってる間、俺はすぐ隣を浮いている自称天使に言った。

 また首を振る。

 こういうといつもそうだ。落ちこぼれとは言うが、こいつの根性は大したものだと思う。俺と違って、諦めずに頑張っている。

 信号が変わった。


 「いい加減、俺だって仕事探さなきゃいけねえし、お前がいると集中できないんだよ」


 横断歩道のど真ん中で自称天使を問い詰める。諦めずに頑張っているやつが隣にいるのは、俺が医者を諦めたことへの後ろめたい気持ちが増して、どうにも嫌だった。

 本当は、俺だって。


 「だからお前なんか……」

 「……! 危な……!!!!」

 「……え?」


 全速力で自動車が赤信号を突っ込んできた。

 轢かれる……っ!!

 ドガッ!!


 「!!」


 天使が、俺をかばって自動車にぶつかった。


 「てんし……!!」


 俺は慌てて道路に転がった天使に駆け寄る。何事かと思った人々が、野次馬と化して集まってきた。


 「……無事、か……?」

 

 俺ははっとした。本物の天使のこいつが、怪我なんてするわけがない。俺の家の天井を突き破った時だって、こいつはかすり傷ひとつ付いていなかったのだ。

 しかし、実際は全くの逆だった。


 「ば、馬鹿……おま……天使なのに……なんで、怪我、して……!!」


 強く頭を打ったらしく、出血が酷い。天使にも血が流れているのかと純粋に驚くと同時に、俺は医者として、この怪我では助からないと狼狽えた。


 「下級……てんし、は……にんげんと、変わらない、から……」

 「だったら……余計に……なんでかばって……!!」


 天使は、くすっと笑って言った。


 「ほんとは、分かってた。望み……お医者さんに、なりたいって……でも……」


 好きになっちゃったから、離れたくなくなったんだ。


 「てん、し……?」


 俺は、天使を抱きしめた。


 「……っ! ……だ……やだ!! 死ぬな天使!! ずっと、ずっといてもいいから!! 文句言わねぇから!! 死なないでくれ!! ……お願いだ……死なないで……こんな……」

 「なんてね☆」

 「…………は?」


 天使はむくりと起き上がって、てへっと舌を出して見せた。


 「うちは天使だよ?死ぬわけないじゃん!!! あんたの泣き顔まじでうける!!!」

 「う……うっぜええええええええ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


 天使は腹を抱えてゲラゲラと地面を転げまわる。俺は騙されたと叫んだあと、安堵と恥ずかしさが入り混じった複雑な気持ちでため息をついた。

 そんな俺を見て、天使は再び起き上がると、目を輝かせて言った。


 「ねえねえ、そんなことより、ずっといていいって言ったよね? 本当? 本当?」

 

 うぜえ!!まじで心配して損した!!


 「んな訳ねえだろうが!!なんなんだよったく……」

 「あれ?」


 ムカついて歩き出した俺を追いかけてくる。

 

 「ねえねえ、『死なないで』ってことはさ、あんた、もしかしてうちのこと好きなの?」

 「へ」

 「好きなのぉ~??」


 顔が熱くなった。

 隣では天使がニヤニヤしながら俺の顔を伺っている。


 「顔真っ赤だよぉ?やっぱり……」

 「う、うぜえええええ!!!!! んな訳ねーだろーが!! 馬鹿かお前!?」

 「馬鹿ってなにさ!!」


 最初は、一人だったから。

 でも、こいつと一緒にいるうちに、一人はつまんねって、思うようになったのかもしれん。


 「あー……」


 俺は頭を掻いて、なるべく目線を合わせないように言った。


 「ずっと、いても……いいぞ」

 「うん!」


 天使はその言葉を聞くなり、満面の笑みで、本当に嬉しそうに頷いた。

 俺たちは手を繋いで歩き出した。

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