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ちょこれーと・とらっぷ

作者: 山吹混狐

日本に生まれて損したと思うところは、バレンタインデーだけだった。


海外では男女関係なく好きな人渡す。そんな話を同じ部活の優斗君が話してくれた。


なんで女の子の方から渡さなきゃいけないんだろう。


大和撫子はどこへやら。私はそれが悔しくてたまらなかった。


「まあ、男子がチョコつくって持ってくるのもねぇ。みっちゃんはあいつに渡すの」


1番の親友のさっちゃんは興味津々に聞いてきた。


私はあははと笑ってごまかすけど、さっちゃんは「やっぱり渡すんだ!」と勝手に結論付けた。


幼なじみの聡。私の好きな人。


もう、中学2年生になるんだから恋だってする。その相手が聡だとは思わなかったけど。




いつから好きになったか。たぶん中学生に上がってからだ。


それまではただの幼なじみ、でも、同じ美術部に入って繊細な彼の絵を見てすごく好きになった。絵について話してるうちにもっと好きになった。


美術館にいったり、公園にいって写生したり、デートみたいなのはたくさんした。


でもそれはデートではなく、ただの部活の延長線。




バレンタイン本番。


この日のために私は計画を立てた。だいして『チョコレート・トラップ』


ハニートラップとかけてみたんだけど友達からは「どこがトラップ」と笑われた。


計画は単純明快。


第一段階。いつも、帰りは私と聡を合わせて男子二人女子三人の計五人で帰っている。みんな美術部だ。


そのみんなに彼が好きと打ち明けた。みんなに「知ってた」と言われたことは心の片隅にしまっておこう。



第二段階。三人には、今日だけ用事があることにして別々に帰ってもらった。


そして第三段階。あとはこの帰り道、十字路までに私がチョコを渡せばミッションコンプリートだ。もし渡せなければ、聡は別の方向にある家へ帰ってしまう。


......ああだめだ。勇気がでない。


渡すだけじゃないか。簡単なことだ。渡して、好きだっていうだけ。


あと少しで十字路だ。そこで聡とはお別れだ。


......ああ、迫ってる。どうしよう。


ドクンドクンと緊張と切迫のせいで鼓動が早くなり、手は汗ばんでくる。


私は左ポケットに入ってたさっちゃんから貰った友チョコを一つ口に含む。勇気がもらえる気がしたからだ。


これが溶ける前に言おう。溶けたら一生言わない。決意した。


アスファルトは夕日で真っ赤に染まり、二つの影を長く引き伸ばしていた。





......言わないと。頭のの中で何度も叫ぶ。好きだ。好きだ。好きだ。チョコレートはあと半分。







......十字路の手前まで来た。右ポケットの中にある本命のチョコレートはもしかしたら形を留めていないかもしれない。チョコレートはあとすこし。






「目を閉じてくれない」


意を決して言おうとしたその時、聡から先に声がでた。


私はその言葉を理解するよりも早く指示にしたがっていた。


「口開けて」


開ける。







甘い香りが鼻孔をくすぐり、ふわっとした舌触りが私の口内を満たす。


「目を開けて」


「なにこれ」


口の中のフワフワを舌で転がしながら私は聞いた。


「マシュマロ」


ほんとだ。マシュマロだ。


「海外だと男女関係なく好きな人にプレゼントするっていう話を優斗から聞いてな。俺もやってみたんだ」


嵌められた。チョコレートトラップだ。優斗君すごい。





気がつくと、全部溶けていた。


チョコも



緊張も



「私も好きだよ」


決意もなにもかも、


「なんで泣いてるの」


「泣いてないよ、ばか」



溶けて、雫となってこぼれおちていった。


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