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Schliefe  作者:
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Ⅴ 白星の少女

 これは、たくさんの言葉によって歪められてしまった、とある少女たちの日常のお話です。

 今からお話しするのも、その一部に過ぎません。



 星の卵が、今宵も少女の元に届きました。

 一つも届かない日は、一日としてありません。

 正体をよく見ないうちに、すぐさま白い布で覆います。結び目はまるで今にも飛び立とうとする蝶のようです。


 少女が涙を流します。ここへ来てから、ずっと流し続けています。とめどなく溢れる涙が滝となり、水溜まりとなって、海となります。

 卵をその海へ放流します。

 羽を失くし、溺れかけているものや、塞き止められているもの、怯えるばかりに深いところへ入り込めずにいるものもいます。過去に流した涙では、流れきれなかったものたちです。

 それらすべてをいったん掬い上げて、また一つずつ丁寧に包んであげてから、波の上を歩ませるのです。

 それぞれ流れ着く先が何処であるかは、少女も知りません。


 涙の海の上に浮かぶたくさんの白い蝶は、まるで夜空に描かれた星のようです。

 こんなに綺麗な景色なのですから、きっと、見上げる者が多くいるでしょう。

 それまでにどんな色に染まっていようと、遠くから見える色がすべて同じであるように、少女は、上から白い布をかけてあげていたのです。


 そしていつか、卵は孵り、それらすべてに紛れもなく、次の役目を背負う時が来ます。

 その時はきっと大地の上の誰かの元に、贈り物として届けられるでしょう。


 空や海とは違って、大地を流れる波は、とても激しく辛くあたるのだといいます。

 疑うことや、偽ることや、悔やむことや、恨むことが、あるかもしれません。

 そのうち、同じ色に染まった者や、もしくは互いを染めあう者と出会い、手を取り合うかもしれません。

 忘れないでほしいのは、はじめは皆、白い星だったということです。


 時に、輝き続けることに、孤独を感じることもあるでしょう。

 しかし、背負わされた役目はいつか終わりを迎え、また波にさらわれて、誰もが集まるこの場所へ戻ってくるのです。

 そこに還れば何度でも輝けますので、それまでに幾ら虐げられて闇に染まろうとも、白い星のままでいられるのです。


 暗闇の中で星を独りにはしないように、この場所で、少女は、卵の訪れをずっと待っているのです。



 それでは、その少女は、いつから其処に居たのでしょうか。

 そもそも、其処とは、何処なのでしょうか。

 そして、少女とは、誰なのでしょうか。

 少女自身も覚えていません。ですから、他の誰にも知る由がありません。

 それでも、少女はきっと、少女のまま、いつか自分にリボンをかけてくれる人が現れるのを、涙を流しながら、ずっと願っているのです。

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