作戦決行 馬車襲撃戦 その2
やったー!ついにヒロイン候補第1陣が登場しますよ!今まで男どもばかりで申し訳ありません(笑)それではどうぞ~。
(おのれ、いったいなぜあの野盗どもにあそこまで強い男がついたのだ…!?)
ジャックは歯噛みしながら馬を走らせた。歩兵と分離したため移動速度は上昇し、うまくいけばあと2時間ほどで森を抜けることができそうだ。そのあと街道に出さえすれば奴らも襲ってはこれまい、そうジャックが考えてたその瞬間、
「行くぞ、突撃!!」
『突撃!!!』
という掛け声とともに、自分たちの騎馬隊の真横から同じく騎馬隊による突撃を受けた。敵の数はおそらく10騎ほど。その騎馬隊の突撃を受け、こちらの騎兵5人、そして直属の精鋭が1人脱落してしまった。
「おのれぇ、ここにも兵を伏せていたか!」
ジャックは即座に計算する。このまま戦ってもおそらく勝つことはできるだろう。こちらはまだ数で勝り、精鋭も引き連れている。この野盗の頭目はおそらく自分より高レベルであろうが、この人数差ならば討ち取れる。
しかしここで手間取っていては、先ほどの集団が追い付いてくるかもしれない。おそらく、いや確実に、先ほどの青年は歩兵隊のみで倒せる相手ではなかった。それを考慮したら、今最善なのはとにかくこの森を抜け、国境警備隊の部隊が駐屯している区画まで逃げ切ることだ。
それらのことを一瞬でまとめ上げると、ジャックは通常の騎兵と精鋭5名、計10名と馬車2台をその場に残し、自分を含めた騎兵4騎と馬車1台でその場を離れた。この際欲はかいていられない。商人とラービア連邦で集めた奴隷の中で特に高く売れそうな子供3人、そして森で見つけた「お宝」を乗せた馬車のみを引き連れ離脱する。残りの奴隷をその場に残せば、野盗どもはもしかしたらそちらに食いつき追跡を断念するかもしれない。そんな希望を抱き、ジャックは貴族の手の者である証として与えられた指輪を懐に感じつつ、急いで逃げるのであった。
「団長どうします!?連中馬車を捨てて逃げていきますよ!?」
「どうやら頭が回るやつらしい。この馬車は囮にして本命の馬車だけでも持ち帰ることにしたんだろう!だがこの中にも子供たちが乗っているのなら無視はできん!」
「それじゃあ予定通りでいいんですね!?」
「ああ、俺たちはここの敵を殲滅した後子供たちを保護、半分は追跡で半分は護衛だ。グレン達と合流したら追跡に加わるように伝えろ!」
「いや、その必要はねえですぜ!今聞きやした」
ガリウスとユリウスが戦いながら状況を分析し、今後の動きを確認しているとグレン隊のメンバーが合流してきた。
「グレン!もう追いついたのか!?」
「ええ、貴明の旦那がもうちぎっちゃ投げちぎっちゃ投げの活躍で連中をあっという間にのしちまいましたから。おそらくもう敵の本命に喰らいついてると思いますぜ」
「うわぁ、ホントですか…」
グレンの話を聞き、若干ユリウスが引く。強いとは思っていたが、ここまで来ると自分と比較するのが馬鹿らしくなってくる。
(1歳しか違わないはずなのになぁ)
ユリウスが一人で落ち込んでいる中、グレン隊の参戦により形成は一気にガリウス側に傾き、敵を殲滅することに成功する。
「敵の全滅を確認。先ほど離脱した者達以外逃げたものもありません」
「よし、馬車の子供たちを救出、保護したのち、我々も追撃に移るぞ!」
ユリウスの報告を聞き、ガリウスが号令を出す。馬車にいたのは2台合わせて11人の子供たちで、うち6名が男の子、5名が女の子だった。またエルフが男の子1名、女の子2名。猫獣人種の女の子が1名いて、残りは人種という構成だ。みな10歳から15歳くらいで見目麗しく、高値で売れることは疑いようがない。
「よし、ユリウスは10人連れて馬車を護衛、アジトまで連れて行け。風呂に入れて飯を食わせてやるんだ。残りは俺と来い。貴明の応援に行く」
『了解!』
(あとは貴明のほうか。ま、あいつならうまくやってるだろう)
仲間に指示を出しつつ、ガリウスは残る馬車のほうに意識を向ける。
「くそ、くそっ!いったいなんだというのだ!50人の一個小隊がたったの4人になるなど…!!」
ジャックは己の不幸を呪うかのように吐き捨てつつ、それでも馬に鞭を入れ続けた。
(だがまだだ!この馬車と契約書、そしてこの指輪さえあればまだどうにでもなる!)
先ほど囮として残した馬車2台の奴隷達など、この馬車の中身に比べたら何の価値もないのだ。とにかく証拠を残しさえしなければ宮廷にばれる心配もなく、商人がいればまた買いあさることができ、今いる奴隷さえ売ってしまえば巨万の富が手に入るのだ。今回は運悪く敵に不覚を取ったが、あの青年もさすがにもう引き離しただろう。そう考えれば心に余裕が出てくる。
そう思い前を向いて馬を走らせるジャックの目に1人の男の姿が飛び込んでくる。
「よう、遅かったな!待ちくたびれたぞ」
(馬鹿な!!)
それは紛れもなく、最初に商隊を襲撃した野盗の中にいたあの青年だった。
(思いのほか敵の数が少ないな。みんなが頑張ってくれたのか)
敵の数は騎兵が4騎、そして馬車が1台だ。おそらく残りの馬車は囮にしたのだろうと貴明は考える。そしてそれはつまり、この馬車だけは何としても確保しなければならない重要なものだということだ。
「さて、隊長さん。ずいぶん慌てているようだがどこに行くんだい?確かガルーダでは奴隷売買は禁止だと思っていたが。これは関与した者をビスマルク5世に報告しなければならないかな?」
とりあえず敵の隊長に話しかけて反応を見てみる。すると全員面白いくらいに過剰に反応した。
「き、貴様!野盗ではなく皇帝の犬だったか!若造の分際でなめよってからに。生きて返すわけにはいかん、ここで死ね!!」
貴明の発言で深読みしてしまった敵の兵士全員が、一斉に突撃をかけてきた。馬というのは実際に見ると意外と大きく、しかもこの騎兵が乗っているのは軍馬だ。その迫力はすさまじいものがある。が、キングライガーとの戦闘をこなした貴明は何とか怯みそうになる心を押さえつけ、宙に飛び上がると敵とすれ違いざまに全員の首を一太刀で斬り飛ばす。
首を亡くした騎兵たちはそのまま馬からずり落ち、乗り手がいなくなった馬たちは所在な下げにその場に立ち止まる。兵士がみなやられたことに恐れをなした商人が悲鳴を上げて逃げようとするが、貴明はそれを手刀で気絶させ、アイテム欄から取り出した荒縄で縛り上げる。
そして隊長の懐から指輪を、商人のカバンから契約書を見つけ出しアイテム欄に放り込むと、残された馬車へと近づき中の子供たちを解放する。
「さあ、みんな出ておいで。君たちを売り払おうとした怖い人たちはみんないなくなったよ」
「…本当ですか?私たち、本当に助かったんですか?」
貴明が馬車の幌を上げ、中を覗き込みながらそう声をかけると、そこには3人の女の子が乗っていた。一人は先ほど貴明の呼びかけに答えた15歳ほどの人種の女の子。そしてその子の陰に隠れるように、10歳を超えたばかりと思しきダークエルフ種とキツネ耳の獣人種の少女がいた。それを見た貴明は、その子たちを安心させるように笑いながら、
「おう、俺達が助けに来たんだ!だからもう大丈夫だよ」
そう語りかけた。
時は少しさかのぼる。
「かかれぇえぇぇ!!」
『うおおおおおぉ!!!』
それは突然聞こえてきた。みな家族と引き離され、もしくは家族に売られて、無理やり馬車に乗せられ故郷を連れ出された私たちの耳に、男性の喊声が響き渡った。そのあとに続く剣戟の音。命が潰える断末魔の叫びを聞きながら私は、
(ああ、盗賊にでも襲われてるのかな)
とぼんやり考えた。どのみち盗賊だろうが自分たちを運んでいる者たちであろうが、おそらくやることは同じだろう。ほかの人間に奴隷として売り払うか、己の欲望を満たすために自分たちに襲い掛かるか。それならばわざわざ気にする必要もないと、それきり外の不快な音を聞かないようにした。
私と同じ馬車に乗せられたダークエルフと狐獣人の子たちが、外の物音に怯えるように抱きついてきた。私はその子たちを抱きしめると、一刻も早くこの騒動が終わることを祈った。
それからどれだけ経ったのだろう。長い時間だった気もするし、たったの数分だった気もする。気が付いたら馬車が止まっており、何やらこの奴隷商隊の隊長と思われる人の声と、若い男性の声が聞こえてきた。
「さて、隊長さん。ずいぶん慌てているようだがどこに行くんだい?確かガルーダでは奴隷売買は禁止だと思っていたが。これは関与した者をビスマルク5世に報告しなければならないかな?」
その人の声はひどく落ち着いていた。なのに私にはその声がとても怒っているように聞こえた。いったい何に怒っているんだろう、私はその人の姿も見ていないのにその人のことが気にかかった。同じことを考えていたのだろうか、ほかの二人も顔を上げて外の様子を気にし始める。
「き、貴様!野盗ではなく皇帝の犬だったか!若造の分際でなめよってからに。生きて返すわけにはいかん、ここで死ね!!」
隊長の声が聞こえた。あの男はこの商隊の中でも断トツでレベルが高く、そしてその周囲にはまだ仲間がいるらしい。集団で突撃する音が聞こえる。それに対して先ほどの男性はどうやら一人のようだ。私はその人が殺される音を聞きたくなくて、思わず耳をふさいだ。
しかしどうも様子がおかしい。馬車の御手席に座っていた商人が情けない悲鳴を上げて飛び出し、そしてその声が唐突にやんだ。
いったい何が起きたのだろう。だんだん不安になってきた私だが、不意に馬車の幌がめくられ一人の若い男性が顔をのぞかせる。その人は体のところどころに血が付着していた。おそらく返り血だろう。でもその姿を見てもなぜか恐ろしくなかった。
「さあ、みんな出ておいで。君たちを売り払おうとした怖い人たちはみんないなくなったよ」
その人はそう語りかけてきた。ほかの二人は私にしがみついていたが、それは恐怖というよりも驚きのためだろう。
「…本当ですか?私たち、本当に助かったんですか?」
私は展開についていけず、思わず聞き返してしまった。そしたら彼は優しく笑いながら、
「おう、俺達が助けに来たんだ!だからもう大丈夫だよ」
と答えてくれた。その笑顔はとても優しそうで、それでいて少し悲しそうだった。
ヒロインはいかがでしたでしょうか。まだ名前は出てきませんでしたが次回に出すつもりです。
誤字脱字、矛盾点、感想等ありましたらお願いします。




