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作戦決行 馬車襲撃戦 その1

ついに序盤最初の山場開始です。それではどうぞお楽しみください!

馬車とその護衛部隊の配置は前方に騎兵20騎(うち精鋭と思しき部隊が半数)、その後方、隊列の中列に馬車が3台あり、その両脇を5名ずつ歩兵が固め、最後尾に歩兵20名が歩いていた。彼らは徒歩のスピードに合わせてはいるがそれなりに早足で、一刻も早くこの森を抜けようとしているようにも見える。ここ最近盗賊じみた者たちに襲撃を繰り返されているからあながちそうなのかもしれない。


(とはいえ、奴らは小勢。我々が今の体制で守っている限り何ら問題はあるまい)


この馬車の護衛隊長、ジャック・トルーマンは内心そうつぶやいた。ジャックは神聖ガルーダ帝国軍第3師団所属の100人隊長を務めていたが、上官である第3師団長が所属する派閥の有力者であるとある貴族に引き抜かれ、私兵軍中隊長に任じられた。今までの給料の倍の報酬を提示されれば迷う道理はなかった。


もともとジャックは軍部の名門、トルーマン家では浮いた存在であり、一族では珍しく精鋭ぞろいの騎士団ではなく国軍のほうに仕官した。30歳半ばになる今も貴族にしては珍しく結婚しておらず、実家も兄がすでに継いでいたため特に何も問題なく転属することとなった。そもそもトルーマン家は派閥に属することを嫌う性質であったため、国軍に入ったジャックは半ば実家とは縁を切っていたのだ。


そして新しい職場で目にしたのは、貴族やそのお抱え商人たちによる奴隷の売買である。内戦中であることに付け入り、年端もいかない子供たちをラービア連邦から連れ去りガルーダで売り払っていたのだ。


最初は驚いたものの他国の子供などにさしたる興味もなく、給料の良い仕事をわざわざ手放す気もなかったジャックは、奴隷を運ぶ商隊の護衛隊長として日々を過ごしていた。


「あと5時間もすれば森を抜けられるだろう。各員、疲れもあるだろうが警戒を怠るな。この辺りは最近頻繁に野盗が現れるからな」


そう言って部下たちの気を引き締める。最近は小規模になってはいるが、それでも襲撃そのものはなくなってはいないため、万が一にも馬車が奪われないようにしなければならない。


しかも今回運んでいるのは奴隷となる子供だけではなく、今自分が通過しているグスタフ大森林で偶然手に入れた「お宝」もあるのだ。この「お宝」はうまく扱えば相当な金になるだろうと、ともに行動している商人と相談し馬車に乗せたのだが、早く森を抜け本国に帰還しなければこちらの身が危なくなる諸刃の剣なのだ。この商隊の中で一番焦っているのは実はジャック本人なのである。


(とにかく今はこの森を無事に抜けることだけを考えよう。なに、最悪の場合は歩兵を囮にしてでも馬車と指輪だけを守り抜けばそれでいい)


部下を捨て石にするようなことを考えつつ馬を進めていると、自分たちの後ろ、少し高いだけの段差のような崖の上からふと何か物音がした。それは本当に小さな音で、現にジャックの両隣にいる部下たちは気づいた様子もない。


妙に気になったが変に気にするのもおかしく思い、ジャックが自分の気のせいだと決めつけ前を向いたその時


「かかれぇえぇぇ!!」


『うおおおおおぉ!!!』


数人の武装した集団が、雄叫びをあげ崖からとびかかってきた。




「よし、ガリウスの報告通りこの中で最もレベルが高いのは馬に乗っているあの男だな。できればあの男を狙いたいが少しここからだと位置が悪い。予定通りに仕掛けよう」


「了解しやした。お前らもわかってんな?」


『はい!』


敵を目視した後、『サーチ』で敵のレベルを確認する。しかしそこで貴明は少し気になるものを発見する。


(うん?馬車に乗ってるのは子供たちや商人だけじゃないのか?あの形は…犬、いや狼か。なぜそんなものを積んでるんだ?)


高レベルのものが『サーチ』を使うと、薄い壁などを透視して敵を索敵することができる。それを応用し、馬車の内部の人数を確認していたのだがその中に狼が一匹混じっていたのである。


「聞いてくれみんな。今馬車を確認したら子供や商人だけでなく狼のような動物がいた。まだ子供のようだし弱っている様子だからおそらく連中の売り物なんだろう。発見しても襲わないようにガリウスにも伝えてくれ」


貴明はグレン隊のメンバーにそう伝え、あとは敵が目標地点を通り過ぎるのを待つ。そしてついに敵が目の前に差し掛かった。気の早いものが飛び出そうとするのを手で押さえ、襲撃のタイミングを計る。


(あと5歩。3、2、1!)


「かかれぇえぇぇ!!」


『うおおおおおぉ!!!』


喊声をあげ、貴明達は敵へと襲い掛かった。




「敵襲、敵襲!」


「ぎゃあぁ!腕が、俺の腕がぁ!」


「くそ!野郎やりやがったな!」


ジャックが後方を確認できる位置に踊り出ると、そこはすでに阿鼻叫喚の渦に飲み込まれていた。何人かはすでにこと切れており、少なくない人数が戦闘不能となるほどの深手を負っていた。


部下の中には治癒魔術が使える部下も何人かいたが、この状況下では正確にけが人の位置を把握し施術するのは難しいだろう。ほかの魔術師も味方を巻き込んでしまうために迂闊に攻撃魔法が使えないでいる。


「うろたえるな!敵はあくまで小勢だ、包んで討ち取れ!」


ジャックは何とか秩序を取り戻そうとする。その声に反応して、4名の部下が敵の先頭で暴れまわっている青年を囲い込み、一斉に槍を突き出す。しかし、


「邪魔だ、どけぇ!!」


鋭い掛け声とともに一閃。その男の持つ長剣が煌めき、槍や防具ごと部下が切り伏せられる。


(馬鹿な、4人同時にだと!?)


その光景を見たジャックは、このままでは危険と判断、騎兵と馬車を促し戦線を離脱することを決める。


「我々は本国に急行する。お前たちは適当に敵をひきつけよ。ある程度時を稼いだのちばらばらに逃げるのだ」


そう言い放ち、20騎の騎兵と3台の馬車はこの場から急いで退避した。




(今のところ予定通りだな)


貴明は11人目の敵を薙ぎ払い、あたりを見渡す。敵騎兵は今しがた離脱しここには歩兵しかいない。グレン隊の面々はみな奮戦しており、援護が必要なものは見当たらない。これは貴明がかなりの速度で敵を切り倒したことで敵の数が減ったことと、残った敵の半数近くが貴明を警戒し取り囲んでいるからである。それにより、グレン隊の面々は1対1の構図に持ち込めているのである。


「いいか、奴を討ち取ったものには金貨5枚を約束する!何があろうとも奴だけは討ち取れ!こいつさえいなければ残りは雑魚どもだ!」


それなりにきれいな格好をした男が怒鳴っている。おそらく歩兵隊の隊長なのだろう。その声に応じて、一人の男が貴明に斬りかかってきた。


「っしゃあ!あんな奴俺が仕留めてやる!『ヴァーティカルスラッシュ』!!」


(おっと、スキルか!)


敵兵のスキルを躱し、その隙を狙って敵を叩き斬る。以前ガリウス達と情報交換した時に聞いたのだが、この世界にもスキルはちゃんとあるらしい。FOEと同じくオリジナルのものを自ら作れるとのことだ。しかし各々が自由にスキルの名前を決めるのもややこしいため、基本的に国ごとに似た系統の剣技や魔法は統一され、それが広く流布されているらしい。


それらのスキルは長年の研究により、最も効率よくスキルを繰り出せるように調節されているため、MP消費も効果もバランスが良く発動しやすい。よってオリジナルスキルを使うのは一部のコアな冒険者のみであるとのことだ。


だがこのスキル、冒険者達はともかく国軍や騎士団の者が戦場で使う機会はほとんどない。なぜなら派手すぎる技は戦列を乱しやすく、統制がとれないためだ。ゆえに魔術師以外で戦場においてスキルを使うのは、一騎打ちのような個人戦の時だけらしい。


そもそも戦場で戦う相手は同じ人間がほとんどである。よほどレベルに差がない限り、わざわざスキルを使う必要がないのだ。これが魔獣のような相手になると、より効率よくダメージを与えるためにスキルが重宝されるのだが、魔獣など大量発生でもしない限り全軍で動くことなどなく、小規模の部隊で行動するために問題なくスキルを使えるとのこと。


(実際FOEでもよほど強い魔獣が相手でない限りスキルなんて使ってなかったからなぁ。そもそも俺日本刀と双剣以外でスキルの登録してなかったし)


ゆえにこの世界でも、強力な魔獣討伐時や一騎打ち以外で魔術スキル、魔法以外のスキルを見るのは本当にまれだという。先ほどの兵士がスキルを使ったのはあくまで1対1だったからだろう。よって貴明も大規模の軍勢に囲まれた時や魔獣討伐以外では複合スキルのような大技は出さないようにしよう、と密かに決めていた。そもそもメイン装備であった日本刀などを持ち出す事態にならない限り元から使う必要がないのだが。


戦闘中にもかかわらずそんなことを考えながら周囲の状況を確認する。


今現在残っている敵の戦力は14名。うち8名が貴明を囲んでいる。この数なら問題ないと判断した貴明は、先行した騎兵隊に追いつくために彼らをさっさと一掃することにする。


「どうしたお前たち!金貨がほしくはないのか!!奴を倒せばお前たちの将来は安泰なんっ!?」


「やかましい。人に命令する暇があるなら自分でかかってこい!」


先ほどからしゃべってばかりの隊長を話の途中で切り伏せ、ほかの敵兵も殺しにかかる。事前に決めていたことだが、この件に自分たちが関与していたことがばれて困るのは貴族たちだけではないのだ。よって、一切の目撃者を出すわけにはいかず、敵兵士は皆殺しにすることで話はまとまっていた。




結果から言うと、戦闘が始まってからわずか5分で敵歩兵隊の殲滅は完了した。


「よし、第一段階はクリアしたな。全員怪我はないか?」


「何人かかすり傷を負いましたがその程度です。戦闘に問題はありませんぜ」


「敵兵全員の死亡を確認しました。数もそろってますから逃亡した者もいないようです」


貴明が仲間たちに確認すると、グレン隊の面々が口々に答えた。


「よし、それではこのまま第二段階へと移行する。俺は道から少し離れたところを走って敵部隊を追い越し待ち伏せする。お前たちは馬に乗ってガリウス隊の援護に回れ」


「了解しやした。こっちはお任せくだせぇ」


「貴明さんお気をつけて!」


「無茶しないで下さいよ!」


先ほどの貴明の暴れっぷりを見ていたグレン隊のメンバーは貴明を止めようとはしなかったが、それでも単騎で先行する貴明を気遣う。それを笑って首肯した後、貴明は気合を入れるようにこぶしを掌に打ち込み駆け出す。


「さあ、それじゃあ仕上げと行きますかね!」




少し時をさかのぼる。


「どうやら交戦を開始したようだな」


「貴明さんやグレン達は大丈夫でしょうか」


ガリウスがつぶやくと、ユリウスが心配そうな顔で道の先を見る。ここから1キロメートルほど北に上ったあたりで彼らは交戦している。かすかに聞こえる怒声がそれを証明していた。いくら貴明がいるとはいえ、たったの6人で50人の部隊を襲うというのはさすがに厳しいのではないか。みんなそう考えているのだろう、ガリウス以外みな浮かない顔をしている。


「なに、あいつらなら問題ないさ。見てみろ、どうやら作戦は順調のようだぞ」


しかしガリウスは軽く笑いながら視線の先を指さす。そこには騎兵とともに全力で走る3台の馬車の姿があった。


「なっ、まさかもう離脱を選択したんですか!?まだ襲撃が始まって5分と経ってませんよ!?」


ユリウスが愕然と呻く。いくらなんでも早すぎるのではないか!?


「どうやらよほどあいつらの圧力が強かったんだろうな。馬車を守りながらの戦闘は不可能と判断したらしい。さて、俺たちも攻撃準備だ。この分だとグレン達はすぐやってきそうだからな。手柄を奪われる前にけりをつけるぞ!」


『了解!!』


敵集団が近づいてくる。こちらの突撃目標は敵騎兵集団のどてっ腹だ。騎兵は横からの突撃には対応することが難しい。


「全員騎乗したな?行くぞ、突撃!!」


『突撃!!!』


作戦の第二段階が始まった。


作戦その1、いかがだったでしょうか。今回説明しているように、よほどの事態にならない限り、今後武器や体術系統のスキルが出ることはありません。期待してた人ごめんなさい(汗)


誤字脱字、矛盾点、感想等ありましたらお願いします。

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