作戦決行 馬車襲撃戦 決行直前
ついに強襲作戦決行となります。作戦立案は貴明だったりします。
ガリウス達と出会ってから三日後の深夜、グスタフ大森林の中を走る狭い馬車道を見下ろせる高さの小さな崖の上に貴明はいた。
「全員位置についたな。貴明、お前のほうも問題ないか?必要だったらお前の分の馬だって用意できるんだから遠慮は要らないぞ。幸い近衛どもがいなくなったおかげで一人当たりの物資は潤沢になったからな」
そう言ってガリウスはニヤリと笑った。今までまじめで落ち着きのある面ばかり見てきたので、そのような顔もすることに貴明は軽く親近感を覚えた。どうも貴明は何か企みごとをするときに悪そうな笑みを浮かべることがあったらしく、FOE時代に俺の右腕のような存在だった影月からも「クロードさんまた悪い顔してますよ」と苦笑いされながら注意を受けたことがたびたびあるのだ。
「ああ、俺は以前説明したとおり体術スキルが最大だからな。下手な馬に乗るよりも早く移動できるし、スタミナだって一日中走り続けられる位はあるから問題ない。それよりもそっちこそいいのか?全体の指揮を俺に預けるなんて。レベルが高ければ指揮もうまい、なんてことはないんだから、俺に遠慮する必要はないんだぞ?それに今までリーダーだったお前を差し置いて指揮なんか執ったら、ほかのメンバーとの間に軋轢を生むんじゃないか?」
「それなら心配ない、みんな納得済みさ。この前の宴会のときに、お前が以前傭兵団の団長を務めていたといっていたからな。みんなレベル255の男が指揮を執る戦いに興味津々なんだ。それに俺だって冒険者時代は一人で行動していたから、集団戦闘の指揮を執ったのだって例の依頼を受けたときを含めて数回だけだぞ」
何ならこの件にかたがついたらお前を団長にして傭兵団でも作ってみるか?とガリウスが提案してきたので、考えておく、とだけ返しておく。
あと30分もすれば目標の馬車が姿を現すだろう。そう思い貴明は自分の周りにいるガリウスやグレンを含む7名の仲間を集め、最後の確認をする。
「さて、それじゃ最後に作戦の確認をしよう。今回この作戦に参加するのは俺とガリウス以下15名の冒険者、計16名だ。襲撃目標はラービア連邦から奴隷を乗せて戻ってくるガルーダ貴族の馬車だ。今までみんなが行ってきた偵察活動の結果から推測すると、馬車は3台、護衛は50人前後で、そのうちおよそ20人は騎兵で間違いないな?」
貴明がそう聞くと傍らにいるグレンが首肯した。
「ええ、さすがに大人数で森を移動すると騎士団にばれやすからね。かといって冒険者を雇えない以上それなりの人数をつけないとグスタフの森では危険すぎる。だから基本的に50人くらいの人数になるわけですな」
「逆にそのくらいの人数だからこそ今まで俺たちも輸送の妨害ができていたんだ。やつの屋敷には500人以上の私兵団が常駐しているから、その半分でも回されたら手が出せなかった」
ガリウスが補足する。確かにいくら彼らのほうが私兵団よりもレベルが高いとはいえ、それだけ人数に差があればその数に飲み込まれておしまいだろう。
貴明だって仮に国軍500人くらいならば、装備しだいでは殲滅する自信がある。盾や防具で防いだ攻撃まではダメージにならないからだ。高ランクの武具で身を固めれば、それらが健在なうちは他者を無双することができる。平均レベルが70そこそこの国軍など貴明から見たらその程度のものなのである。
しかしこれが5000人、1万人となればさすがに死を免れない。如何に武具で身を固めても、攻撃を受け続ければそれらは損耗する。そしてその隙間から生身の体に攻撃を受けたなら、どれだけステータスが高くてもダメージが入るのである。ダメージ0が存在しない以上それは必然なのだ。
仮に回復魔法や回復薬でHPを回復しても、相手が膨大であるならばジリ貧でしかない。アイテム欄から新しい防具を取り出そうにも、大量の敵に押しつぶされその操作そのものをさせてもらえないのだ。
高レベルの人間は限りなく強くなるが、決して無敵になることはない。それがFOE,そしてこの世界の常識である。
「よし、それじゃあ予定通りでいいな。まずはグレン率いる5名の部隊とともに俺が馬車に奇襲を仕掛ける。このときメンバーは全員徒歩だ。馬は近くに隠しておく。そしてこの攻撃時に俺がほどほどに大暴れするつもりだ」
「ほどほどに大暴れ…ね。お前のほどほどがどのくらいの規模なのか正直気になるが」
ガリウスが苦笑する。
「ほどほどはほどほどさ。さて、その第一次攻撃で敵の歩兵は全員こちらにひきつけるつもりだ。残りの騎兵とともに馬車は先へと逃げるだろう」
貴明は手元にある地図(ユリウス謹製)に当てた指を動かす。
「そして1000メートル先のこの地点、ユリウスたちが隠れている小高い丘のあたりまで敵が来たら第二次攻撃を仕掛ける。ガリウスはこの後あっちに合流するから、逆落としのタイミングはガリウスに任せるよ」
このあたりには今現在ユリウス以下9名の部隊が騎乗して潜伏している。これにガリウスが加わり、騎兵10名で敵に攻勢をかける。
「可能ならこの段階で敵を殲滅し馬車を押さえたいところだけど…難しいんだよな?」
俺はガリウスに確認する。するとガリウスは難しい顔でうなずいた。
「ああ、俺たちが何度か襲撃をかけたら、連中も輸送時に精鋭をつけるようになったんだ。おそらく貴族直属の護衛部隊の連中だろうが、やつら『サーチ』で確認したらみんなレベル90くらいだったんだ。中でも指揮をとっていたのがレベル125でな。国軍の者を金で抜き取ったんだろう。とにかくその精鋭が騎兵の半数を占めているはずだ」
「となるとやはり、やつらは通常の騎兵でこちらを足止めしつつ残りの精兵で馬車を護衛しつつ離脱を図るだろうな」
貴明がうなずきながらそういうと、グレンがなんとも微妙な顔で貴明に質問してきた。
「しっかし、本当に大丈夫なんですかい?即効で敵歩兵を蹴散らした後、その足で走って敵馬車を補足して精鋭部隊を撃破するなんて」
「ああ、もちろんだ。グレン隊は隠した馬に乗ってガリウス隊に合流、足止めを破った後にこちらに合流してくれ」
そう、貴明の作戦はいたって簡単。敵の足止め要員を力ずくで突破し、ダッシュで追いついて馬車を押さえるというとてもスマートなものだ。マッチョとも言う。
「まあ、いまさら言っても仕方ないだろう。それにグレンだって貴明と模擬戦してみたんだろう?だったら問題ないと思わないか?」
ガリウスがからかうようにグレンに問うと
「いや、まあ。そりゃそうなんですけどね。てかあれを模擬戦と言っていいものかどうか…。正直おりゃあ同じ人間を相手にしている気がしませんでしたよ」
と、また微妙な顔で貴明を見ながらのたまった。見るとガリウス以外のその場にいる全員が同じ顔で貴明を見ている。
例の宴会をした翌日、貴明は彼ら冒険者たちと模擬戦を行った。きっかけはユリウスが「貴明さんの力を見てみたいです」お願いしたために、貴明がそれを呑んで軽く打ち合ってみたのだが、それを見ていたほかのメンバー(ガリウス含む)全員が俺も混ぜろ、と要求。一人ずつはめんどくさいのでむしろ好都合と、貴明はそれを承諾した。結果は今の彼らの顔を見て判断してほしい。
(まったく失礼な)
貴明はそう思いつつも作戦決行時間が近づきつつあることを考え号令を出す。
「さあ、そろそろ目標が見えてくるころだからガリウスも配置についてくれ。何か計画に支障をきたす事態が発生したらさっき渡した念話石で連絡する」
「ああ、わかった。こっちはよろしく頼む」
そう言ってガリウスは騎乗しユリウス達に合流しに行った。
ちなみに先ほど出た念話石だが、これは貴明のオリジナル魔法だ(とはいえ元はFOEで一般的に普及していたものなのだが)。基本は電話のようなもので、通信したい相手を思い浮かべながら石にMPを通すと、相手の念話石が震える。それに相手がMPを通すと通信ができるのだ。
これは基本的に風属性魔法なのだが、その辺の石があればレベル50の魔術師くらいのMP総量分消費することで作ることができる。しかし現実世界の電話を知っていないと概念がわからないらしく、今のところ貴明にしか作れていない。
最初この世界で念話石があるか聞いてみたら存在せず、基本的に遠距離の連絡は早馬か狼煙、もしくはグリフォンや飛竜などを調教して騎獣として活用し、それで手紙を配達するのが当たり前だという。ゆえに最初に念話石を見せたときには大変驚かれた。
ちなみにこの念話石、使い方しだいでは片方をどこかに置いて、もう片方にMPを流し込みながら置いている石そのものに意識を向けると、その石の周囲が見渡せるので索敵やのぞき見に使えるのだが、今のところその使い方を彼らに教える気は貴明にはない。
そんなこんなで時間をつぶしていると、仲間の一人が目標の馬車を発見した。ここから距離は200メートル。徒歩にあわせているので移動は早くない。
「これなら問題ないな。グレン、ガリウスに目標確認の通信を入れろ。総員戦闘態勢に入れ。敵性勢力が目の前を少し通り過ぎたあたりで死角から奇襲を仕掛ける。基本的に俺が派手に立ち回るが、お前たちも遠慮せず存分に暴れてやれ!」
『おう!!』
敵との距離は150メートルほど。開戦のときは刻一刻と近づいていった。
正直もう少しまともに作戦を組み立てるつもりだったんですが、自分にそんな腕がないのと貴明いたら強行突破でいいんじゃね?てことで大変わかりやすい作戦となりました(笑)
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