戦闘、そして…
ついに貴明がこの世界の人間と戦います。貴明の力量はいかに!?
…戦闘って難しいんですね。この回は一人称視点で行ってみます。違和感が強い場合三人称にします。
怒りに支配されると目の前が真っ赤になる、という話をどこかで聞いたことがあるが、どうやらそれは本当だったらしい。怒りのあまりかえって冷静になるということも。
今の俺は落ち着いていた。落ち着いて元近衛騎士の連中を殺すことを考えている。
「はは、いきなり大声出してどうしたってんだ!怖くて頭がおかしくなったぐぎゃぁあ!?」
目の前で呑気におしゃべりしている阿呆を片付ける。どうやら一撃で絶命してしまったらしい。150以上レベルに差があればしょうがない結果ではあるが。
(グレンのおっさんはそんな情けない悲鳴は上げなかったけどな)
そんなことを考えつつ二人、三人と元近衛騎士達を始末していく。そんな俺の様子を見て、ユリウスはいったん態勢を立て直し状況を把握するため仲間とともにグレンの周囲に集まってきた。
「あいつはいったい何者だユリウス!近衛騎士相手に圧倒するなんて、S-ランク冒険者でもないと不可能だぞ!?」
「俺だってわからないよそんなの!とにかく今は彼が奴らの相手をしてくれているんだから、こっちは何としてでもグレンの傷を治すぞ!」
「だが俺たちの治癒魔術じゃどうにもならねぇぞ!せめて団長くらい高レベルで治癒専門の術者じゃねぇと手が出せねえ!せめて団長が持ってる秘薬でもありゃあ何とかなるかもしれないのに…!」
暴走状態となった貴明によって元近衛騎士たちが数を減らす中、一向に有効な対策を打てずにいるユリウスたち。状況は予断を許さず、しかし打開策が見いだせず場が混沌とし始めた彼らだが、
「遅れてすまない皆、状況を教えてくれ」
「団長!」
「ガリウスさん!」
件の団長、ガリウスの登場である程度の落ち着きを取り戻す。ユリウスは元近衛の連中が貴明を逃がそうとしたグレンを攻撃したため、貴明が近衛派に戦闘を仕掛けた経緯を手早く説明する。その間にもガリウスはMP強化薬を治癒術者に渡してグレンの治療にあたらせた。MP強化薬はごく短い間だがMPの消費なしで通常の二倍の効力の術を使えるようになる薬だ。
「呼びに来たやつから聞いていた内容から怪我人が出るんじゃないかと思って秘薬の類を持ってきたが、どうやらかなりまずい状況のようだな」
ガリウスは倒れ伏すグレンのそばに近づき腰のポーチから掌に収まるほどの大きさの瓶を取り出すと、中の液体をグレンの傷口に振りかけた。治癒術者の魔法と相まってグレンの傷はふさがり始め、顔色もだんだん良くなりだす。
「さて、こっちのほうは何とかなったが…。あちらさんはどうしたもんかな」
その視線の先では、貴明が最後の一人である元小隊長と対峙していた。
「なんだってんだ。いったい、こいつはどういうことなんだ…!」
その男は目の前の光景を理解することができなかった。かつては異例の速さでレベル100を突破し、栄えある近衛騎士団に抜擢されたのが21歳の時。そのあと25歳で小隊長に昇進した時は本当に喜んだものだ。
しかしそのあとは宮廷内の派閥争いに巻き込まれていき、気が行けば役人どもと手を組み不正に経費を横領することに腐心する自分がいた。そして半年前に神聖ガルーダ帝国で起きた綱紀粛正の折、今までの所業が白日の下にさらされた者たちはみな等しく皇家から追放を言い渡されることとなり、自分も今までの部下ともども国から追い出されることとなった。
それからしばらくの放浪を経て、かつて貴族の悪行を目撃してしまい国から犯罪者として指定され、冒険者ギルドから除名されてしまったという集団に合流。彼らの悪徳貴族だけを狙う、という行いには全く感銘を覚えなかったが、ガルーダの連中に復讐できるならと協力を申し出た。
しかしこの冒険者崩れのやつらときたら、ほんとに不正にかかわっている貴族や商人以外は襲おうとしない。何度も簡単に狙えそうな連中が縄張りに入っても、全く動こうとしないのだ。しかし副団長のユリウスやほかのやつらはともかく、リーダーのガリウスだけは自分でも手を出すのをためらうほどの強さで元はAランク冒険者だったらしい。そのため表だって反発するわけにもいかず、日に日に鬱憤はたまっていった。
そんなときである。俺たちの縄張りに一人の冒険者が入ってきた。パッと見20歳前後と思わしきその男は装備を見た感じ高くてもレベルは100から110ぐらいだろうと思われた。幸い今はガリウスのやつは近くにおらず、その前にことを済ませてしまえば問題はないと考えた。確かにガリウスは俺たちより強いが、ほかの連中は平均してレベル90前後であり、数もこちらが多いうえにこちらは近衛時代から連携も取れている。ガリウスとてすでにことが終わっていれば、仲間内からも犠牲を出してまでこちらと対立するとは考えにくい。
そう考えていたのに、どこで何を間違えてしまったのか。俺たちの邪魔をしたグレンを斬ったのは確かに想定外だったが、それでもこの男からしたら無関係の相手。それどころか自分を襲った盗賊たちの仲間である。
それなのにどうだ。今目の前では自分の元部下たちが次々と斬り倒されていく。全員がレベル100ほどであり、冒険者としてはCクラス、ベテランといわれる者たちであったのにもかかわらず、全員なすすべもなく一撃で倒されてゆく。なぜだ、おかしい、ありえない。俺はレベル120で元近衛小隊長だったんだ。部下も精鋭と言われた猛者たちだ。そんな俺たちが負けるわけがない。しかもたった一人の、少し強そうなだけの若造に。
そんな益体もないことを考えていると、ついに自分以外の最後の一人を斬り殺した男が目の前に立った。その顔はただただ無表情で、戦闘を始める前に叫んだ時の激情の色はまるでなかった。それが妙に腹立たしい。まるで俺たちを殺すことなど片手間であるといわれている気がしたのだ。それを自覚した途端、気が付けばそいつに斬りかかりながら怒鳴りつけていた。
「てめぇふざけんじゃねぇぞクソがぁ!俺たちは近衛騎士なんだ!おお、俺は隊長だったんだぞ!!怖がれよ!ビビれよ!なんで一人であいつら全滅させてんだよ。近衛だぞ!?そんな簡単に倒せたら意味ねぇじゃねぇか!」
最後の一人である元隊長がそんなことを叫びながら斬りかかってきた。いったい何を言っているんだか。近衛だの隊長だの全く関係ない、強いから俺が勝つ、弱いからお前らが負ける。ただそれだけのことがなぜこいつには理解できないのか。
「馬鹿か貴様。ただ貴様らが弱いだけだろう。だが最後の台詞だけは同感だ。こんなに弱いんじゃ近衛の意味は全くないな。どういう経緯でクビになったかは知らんし興味もないが、まあ当然といえるだろうな」
やつの剣を受けつつそう言い放つ。正直こいつの事情などどうでもいい。ただこいつらを殺す、その一点に集中する。
「こっ、殺す!絶対にぶち殺してやガッ!!」
みなまで言わせず胴を薙ぐ。いつもは日本刀でやる動きだが、長剣でも全く問題ない。
「な、なんで。なんで、勝てねぇんだよ…」
「知るか。お前が弱いからだろう」
そう言い放ち、俺はその男の首を刎ねた。
戦いを始めてからどれだけの時間が経過したのか。ある程度いつもの調子を取り戻しつつ周りを見渡すと、十数人の男たちが皆こちらを見ていた。どうやら冒険者だった者たちのようだ。俺が戦闘を開始してからは退避していたらしい。
そんなことを考えていると、地面に倒れているグレンに気付いた。見たところ傷はふさがっているらしい。最悪俺が治そうと思っていたが、今思うと元近衛隊と戦う前に治療すべきだったと今更ながら気付く。
自分の迂闊さに気づき、やっぱ俺もかなり動揺してたんだなぁ、などと考えていると、20歳半ばほどのガタイのいい男が話しかけてきた。
「どうやら落ち着いたようだな。俺の名はガリウス。この集団の一応まとめ役をしている。今回は俺の身内が大変な迷惑をかけてしまって本当に申し訳ない。俺の監督不行き届きだ」
そう言いながら頭を下げてきた。
「いや、気にしないでくれ。俺も完全に冷静さを欠いていた。正直悪いことをしたとは思ってないが、少なくとも俺には殺さずに制圧することだってできたはずなんだ」
「あいつらを殺してしまったことを後悔しているのか?俺が言うのもなんだが、あいつらは本当にろくでなしだった。一応戦力にはなりそうだったから行動を共にしていたが、正直こちらの方こそ後悔していたところだ」
あいつらの始末をさせてしまって申し訳ない、そう言いながらガリウスは苦い顔で首を振った。
「いや、殺したことそのものは後悔していない。だが、俺は人を殺す覚悟をしていたはずなのに、いざ殺した時の俺は冷静ではなかった。どんな奴が相手でも人の命を奪うのは自分自身の意思で。そう決めていたはずなのに、感情に任せて多くの命を奪ってしまった」
それが悔しく、不甲斐ない。そんな俺の気持ちを察したのだろう、ガリウスが気遣うように話しかけてきた。
「どうやら君は人を殺すのは初めてだったようだな。俺たちもみんな同じ経験をしてきた。むしろ初めての割には君は落ち着いている方さ。君ほどの覚悟があって人を殺める奴はあまりいないだろう」
ところで、とガリウス。
「見たところ君は冒険者のようだがやたらと強いな。正直俺は貴族に嵌められこのような身になる前は、この辺りではそこそこ名の売れた冒険者だったんだがな。君には全くかなう気がしない。そんなやつ今まで聞いたことないが、ここらに来たのは最近なのか?」
「ああ、俺はリベラ大陸の東にある大陸から来たんだ。なぜこの森にいたのかは聞かないでもらえると助かる。実はこの大陸ではまだ冒険者登録してないうえに、こちらの通貨と向こうの通貨が同じかもわからない。この大陸の国家についての知識はあるが、実際の情勢とどれだけ合致しているかもわからないんだ」
事実FOEの世界とこの世界の通貨が同じなのか、レートは等しいのか、そのあたりが全く分からないのだ。俺がそういうと、ガリウスは軽く目を見開いたがすぐに元に戻り、
「何か訳ありのようだな。だが冒険者は基本的に他人の事情には首を突っ込まないのがマナーだからな。詮索はしないさ。どうだ?こうして関わったのも何かの縁だし、俺らのアジトまで来て状況把握といかないか?こちらとしても面倒をかけた侘びと仲間のために戦ってくれた礼がしたいからな」
と言ってくれた。
こちらとしても断る道理はない。お言葉に甘える旨を伝え、一行とともに彼らのアジトへと向かった。
貴明の戦いっぷりはいかがでしたでしょうか。今後も改良を加えながら少しでも戦闘描写がうまくなるようにしますので稚拙な部分はご容赦ください(汗)やっぱり違和感がありますかね、三人称で統一するかなぁ。
誤字脱字、感想等ありましたらよろしくお願いします。