表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/26

企て 1

1週間更新が開いてしまいました。ちょいと医者から「目の使い過ぎだからケータイ、パソコンの使用を減らしな!」と言われたのでなかなか執筆の時間が取れず……。みなさん目はお大事に!

 コーウェン率いるガルーダ帝国軍が森林探索を開始する半日前のこと。




 トパス近郊の森の奥、およそ人が立ち入ることのないような場所に一軒の小屋が建っていた。中の広さはせいぜい10畳あるかないか、といった程度の大きさの小屋で、その周囲には複数の武装した者たち。そして一立方メートルサイズの檻が二つ置いてある。中の様子は全く見えないが、中からは時折獣と思しき生き物の鳴き声が聞こえてくる。


 小屋の中には人影はなく、代わりに地下へと続く階段が設置してあった。その階段を下りた先にある、大きめの部屋にその者達はいた。


 服装はバラバラ。科学者のような白衣を着た者や、どこかの国の軍服と思われる服を着た者、冒険者のような簡素なレザーアーマーを着た者といった具合だ。全員同じ形をした奇妙な仮面で顔を覆い隠している、という一点のみがこの集団の共通点である。


 彼らは一つのテーブルにつき、今回の自らの成果を互いに称えあっていた。


「どうやらわれらの実験は成功だったようだな」


「まこと、喜ばしい限りですな。これで我らの功績は証明され、悲願は達成される」


「みな気が早いことだな。これはまだ計画の第一歩、通過点に過ぎぬというのに」


「そう言うな。これほどの偉業、大陸の歴史を見ても我らが初めてなのは疑いようもないのだから」


 彼らは自らが生み出した『研究成果』の実証結果にいたく満足し、小屋の内部は興奮に満ちていた。しかし一方で、場の騒ぎを冷やかな目で見据える者が一人。


「皆さん、喜ばしいのはわかりますが、まずは状況の確認を済ませ、今後の予定を決めることが先ではありませんか?」


 その言葉を発したものは明らかに他の者たちとは雰囲気が違った。服の上からでもわかる鍛えられた体、仮面から除く冷徹な瞳。そして他者を圧倒する強烈な風格をその者は持っていた。


 すると先ほどまで熱狂の渦にのまれていた者たちは冷水を浴びせられたかのように静かになった。まるでその者は決して怒らせてはならない、と言わんばかりに。


「こ、これは失礼しました。確かに今我らが為すべきは、結果に喜ぶことではありませんでしたな。申し訳ありませぬ、『青侯爵』殿」


 白衣を着た男が代表して謝罪する。青侯爵と呼ばれた男は、声の印象からおそらく20代と思われるのに対し、残りの者たちは頭髪や皮膚のしわなどから明らかに高齢、老人といっても差し支えない見た目をしている。しかしこの場における立場は年齢とは無縁のようだ。


「かまいませんよ。それでは報告を始めましょうか。みなさんお願いいたします」


「は、では我々から始めさせていただきますかな」


 青侯爵の言葉を受け、2名の男が立ち上がる。


「今回、我ら連合が極秘に研究、開発した『被験体185』ですが、当初の目標項目すべてを達成しました。もともと魔獣ですらない動物に特殊な加工を施した魔石を移植し、魔術の使用を可能にすることに成功。また、平常時は魔石の活動を抑えることで魔獣と判断されぬようにし、都市間の行き来にも支障がないことが確認されております。現段階では風属性魔石のみですが、今後は他の属性の移植を行う予定です」


「また魔石の魔力供給に関してですが、一定の魔力を持つ人間や魔獣を殺すことによってその魔力を吸収、再充填することに成功しています。一度魔石に属性が刻みこまれていますので、どのようなものを殺しても充填される際に魔石と同じ属性に変換されることも確認しました。なお、体内にある魔石をこちらが操作しているため、本能的に移植された対象はこちらの指示には忠実に従います。従わない場合は、こちらの命令ひとつで体内の魔石の全魔力を開放し、強制的に死亡させるという安全装置も取り付けました」


 そう言って男二人は席に着く。それに合わせ今度は別の男たちが報告を始めた。


「次に『正統派』の報告ですが、こちらも実験に成功しました。人間、魔獣を問わず、投与した対象の身体能力、魔術的能力を数倍から十数倍に引き上げる強化薬です。副作用としましては、投与された対象は理性の大半を失い、本能に従順になること。現段階では症状を打ち消す薬の開発が完了していないため、死ぬまでその状態が続くことが挙げられます。しかし理性は激しく減退しますが知能は上昇する傾向が見受けられました」


「魔獣に投与した結果、実験に使ったすべての魔獣の体格が数倍に肥大し、骨格も強化されていることが確認されました。また生命活動を停止すると、通常のサイズに戻ることも確認しています。人間に使った場合ですと、男性は体の一部が異常発達する傾向にあるのに対し、女性に使った場合は見た目の変化はない代わりに男性以上に本能に従順になる傾向があることがわかりました。死んだ場合投与前と同じ姿に戻る点は魔獣と共通です」


「制御に関してですが、雛鳥が最初に見たものを親だと認識する刷り込みを利用し、投与後最初に目にした生物の命令を聞くよう改良を重ねた結果、ほぼ確実に命令を聞くようになりました。問題点として、本能に忠実な分自らを打倒した対象を主として認め、そちらの命令に従うようになるという事例が数件確認されましたが、投与対象を強力な個体に絞ってしまえば生け捕りは不可能ですので問題はありません」


 二つの報告を聞いた青侯爵は、満足そうにうなずくと自らの報告を始める。


「双方ともに完璧な仕事ぶりですね。最後に私の報告ですが、数百年前に滅んだゼフィロア王国の遺跡から発掘した、『キメラ計画』を基にした実験体の製造に成功しました」


『おおっ!』


 その場にいた者すべてが歓声を上げる。

 

「やはり歴史にあるように、別個体の魔獣同士を合成することは困難を極めました。ですので方向性を変え、『結合』ではなく『吸収』を追求してみたのです」


「吸収……ですかな?」


白衣の男が疑問の声を上げる。


「つまりはこういうことです。無理やり二つの生き物を合わせるのではなく、一方の魔獣にもう一方の魔獣を喰わせることで、その能力を受け継がせる。これにより、元の見た目形はさほど変わらずともその身体能力や魔力は敵を喰えば喰うほどより強力になり、魔術の継投もより多彩なものになりました。我々はこれを『ネオ・キメラ』と呼んでいます。なお制御については、連合から提供された技術を使い心臓のすぐ近くに雷属性の魔石を移植し、命令に従わない場合は強烈な電撃を浴びせるなどして徹底的に調教してあります。安全対策についても連合と同様です」


「素晴らしい!」


 貴族風の服を着た男が歓声を上げる。それに続いて他の者たちも次々に青侯爵を褒め称える。


「まさか儂が生きているうちにキメラの完成形を目にする日がこようとは……!」


「奇跡、まさに奇跡だ!」


「青侯爵、貴国はやはり違いますな!さすがはかの『賢王子』がおわすお国だ」


 数々の賞賛を笑顔で受け止めていた青侯爵だが、最後の言葉を聞きその笑みは冷笑へと変わる。


(愚か者どもめ。何がさすがは賢王子、だ。貴様ら風情にあのお方の素晴らしさなど理解できようはずもないだろう)


 彼らに対する侮蔑を内心に押しとどめ、青侯爵は次の段階へと進むことを決めた。


「皆さんありがとうございます。次に今後の計画についてですが、その前に皆さんに確認しておきたいことが。我々は各々の国にそれぞれ拠点を作り密かに研究を重ねてきたわけですが、その内容が漏れた、という可能性はありませんか?ことがことです、もしもこの情報が漏洩ろうえいしていた場合、我らは破滅です。間違いなく機密は守られていますか?」


 確かめるようにそれぞれの目を見る。


「ご心配なく。こちらは研究結果どころか人一人研究施設から出てはおりません。情報の交換や施設の警備は一人残らず青侯爵、あなたの部下が担当しておりましたので、裏切りの可能性もありますまい」


「こちらも同じですよ。間違いなく機密は守られております」


 その答えを聞き、青侯爵は内心悪魔のように嗤った。


「そうですか、それは結構です。ところで皆さん、先ほど森の入り口付近で『実証実験』を行っておりましたが、首尾はいかがでしたか?先ほどの報告で聞くのを忘れておりました」


「おお、そうでしたな。いや、素晴らしいの一言です!我らが開発した強化薬を一匹のダイアウルフに投与し、『可能な限り多くの生き物を殺せ』と命じたのですが、そいつときたら群れのダイアウルフをけしかけて森に住む魔獣を町の近くまで追い立て始めたのです。町の近くなら人間がいるかもしれない、と考えたのかもしれませんな」


「大量のジャイアントラットを集めることによって、それを餌とするヤングコボルトの群れもおびき寄せると、投薬対象は他のダイアウルフもろとも虐殺を始めました。薬により体高が3メートルほどに肥大化しておりましたので一方的な殺戮でしたな」


「狩り尽くした後は、騒ぎにするわけにも参りませんので被験体185を使って処分しました。実戦訓練も兼ねたのですが、あそこまで強力になったダイアウルフをものともせずに短時間で処分できました。おそらくですが、強化されたダイアウルフはBランク、被験体185はAランク相当ではないかと思います。なお死んだ投薬対象は元の状態に戻ったため、もし町の住人が発見しても何が起きたかなどわからないでしょう」


 彼らは興奮気味に検証結果を説明した。自らの研究結果が期待通り、いや期待以上の結果を出したのだから当然といえる。


「なるほど、確かに素晴らしいですね。これならば今後の計画も滞りなく進められそうです」


「おお、では!?」


「ええ。情報が正しければ、今日の夕方にはアルザス地方へ向かう帝都守備隊の派遣分隊がトパスの野営地に到着するはずです。となると森の入り口にある大量の魔獣の死体に気が付き、森の探索を行うはず。そこに私たちの『成果』をお見せして差し上げましょう」


 青侯爵がそう告げるとその場にいた誰もが暗い笑みを浮かべた。彼らはみな神聖ガルーダ帝国に恨みがあるか、帝国の存在が邪魔な者ばかり。国軍の最精鋭に痛撃を与えるのが自分たちであるということが嬉しくてたまらないのだ。


「それではみなさんには宴が始まる前に、我が国の成果をご覧いただきましょう。正統派の皆さんが作られた強化薬を投与してしまえば、檻から出しても問題ありませんし」


 そう言って青侯爵は仮面の男たちを連れて階段を上った。自らの仮面の下で今度こそ悪魔のような笑みを浮かべて。




 青侯爵は一行とともに外に出ると、近辺の警護をしている部下たちに指示してネオ・キメラを閉じ込める檻を一部開放させた。


「投薬は私が行うとして、どのように投与すればよいのでしょうか?」


 青侯爵が正統派の人間に質問すると、小さいクロスボウを手渡してきた。矢の先端には金属製の鏃がついているが、よく見ると先端に小さな穴が開いてある。


「魔獣の中には皮膚が頑丈なタイプが多いですのでこちらを使います。対象にあたると、鏃の中にある薬の入ったカプセルが割れ、体内に注入される仕組みとなっております」


「なるほど、よくできていますね。ストックは今ここにはどれほど?」


「今から使う分も合わせて2本です。外さないよう願いますよ?」


 正統派の男が茶化すのに対し笑って答えると、青侯爵はネオ・キメラにクロスボウを向ける。


 今回連れてこられたものは、ガルーダの国境を越えることや移動を考えてさほど大きくない中級魔獣、ランドリザードを基にしたキメラであった。見た目はトカゲというよりずんぐりしたワニのようであり、水辺ではなく森林に生息。体高は50センチメートル位で体長は1メートル。皮膚は頑丈で迷彩柄、四足歩行で速度は速いが体力がないというCランク魔獣である。


 青侯爵はランドリザードに矢を放った。するとその体はみるみる大型になり、一分後には体高は2メートルほど、体長は5メートル近くまで巨大化した。


 ネオ・キメラは矢を放った青侯爵を見ると前足を折り頭を下げる。服従の証だ。


「どうやら成功したようですね。このランドリザードですが、今まで100を超える魔獣、人間を喰らうことによってAランク相当の強さを持っていましたが、はてさて。今はどれほどの力を誇るのやら。皆さんも気になりませんかな?」


 青侯爵は男たちへと振り返る。彼らは巨大化したランドリザードに圧倒されつつも、肯定の意を示した。


 そこで青侯爵は被験体185との模擬戦闘を提案。戦闘といっても被験体185の風魔術をランドリザードに放ち、どれほど体が頑丈になったかを確かめるものだと説明し連合の許可を得た。


 その結果、強化ダイアウルフを瞬殺した風魔法はかろうじてランドリザードの皮膚に切れ目をつけただけで肉には到達せず、むしろランドリザードの戦意を燃やさせるだけであった。


「いやいや、このネオ・キメラはとんでもない個体となりましたな!まさか被験体185の攻撃を直撃させても怪我ひとつ負わぬとは!」


「さすがは青侯爵が陣頭指揮を執っただけのことはありますな!賢王子もお喜びでしょう」


 男たちの賞賛を浴びた青侯爵は彼らに向かって深く一礼すると、仮面を外しさわやかな笑顔で宣言した。


「このたびの成果、決して我が国だけでは成し遂げることはできなかったでしょう。今ここにいるあなた方、そして故国で尽力した方々の力添えの結果がこの成果です。わが主に代わりましてお礼を申し上げます」


 そこで言葉を切り、短く言い放った。





「ネオ・キメラよ。飯だ、喰らえ」




 次の瞬間、巨大な陸蜥蜴は被験体185に喰らい付き、仮面の男たちをその鋭い爪で八つ裂きにした。







「よろしかったのですか?このような奴らでもお抱えの研究者は優秀ですし、仮にも我が君の賛同者ですが……」


 数秒で終わった惨劇を目にしても顔色一つ変えなかった警護班のリーダーが青侯爵に質問する。


「かまわんさ。奴らの研究データさえ手に入れば問題ない。こちらにはさらに優秀なメンバーが数多くいるのだ。それにこれほどの『力』、奴らごときに持たせるなど危なっかしくて我慢ならん。本国に伝令を出せ、研究施設を壊滅し、データをひとつ残らず回収せよ、とな」


「かしこまりました」


 遠ざかる部下の背をぼんやりと見ながら青侯爵と呼ばれる男はつぶやく。




「ランバール公国連合も、都市国家の残党どもも、神聖ガルーダ帝国も、ほかのすべての国々も、みな等しく我が君の前に跪くのだ……!」


被験体の番号に意味などないのだよ。


貴明たちが接触する前に魔獣の正体がばれちゃったわけですが、そこはお心の広い皆様のこと。笑って許してくれますよね!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ