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いざ出陣

長くなりそうだったから分けることにしました。ていうかまとめて書いてたら一週間じゃ投稿できなさそうだったから……。筆がもう少し早ければなあ。

 深夜の会合から3日後の早朝。貴明たちが出発する時が来た。


 集合場所である帝都西門から街道沿いに少し歩いたところにある軍の集結地点に貴明たちが向かうと、そこにはすでに今回貴明たちと任務を共にする帝都守備隊派遣分隊であるコーウェン大隊の姿があった。


「さすがに精鋭だな。雰囲気が普通の軍とは一味違うぜ」


「ああ、戦闘要員だけじゃなく輜重隊まで顔つきが違う。これが国軍最精鋭の帝都守備隊か……」


 貴明やユリウスとともに今回の任務に携わるほかの6名も、普段ではなかなか見られない彼らの勇姿を見て感嘆の声を漏らす。


 そうこうするうちに大隊のもとにたどり着いた一行は、ひとまず代表の貴明が挨拶をすることにした。


「失礼!今回貴軍とともに魔獣討伐の任に当たる冒険者8名、全員到着した!指揮官殿にご挨拶したいのだがよいだろうか?」


 全員に聞こえるように声を張り上げる貴明に対し、一人の武人が歩み出てきた。


「よく参られた。小官はこのたび諸君とともにアルザス地方へと赴く帝都守備隊第3大隊長のアルバート・コーウェン大佐である。コーウェンと呼んでくれ。そなたが代表のタカアキ・オカモト殿だろうか?」


 コーウェンはそう言って貴明に握手を求める。見た目は貴明よりも若干低く、頭も白髪がかなり目立つが全身からにじみ出るオーラと貴明の手を握り締める力強さが、彼が非凡な武人であることを知らしめている。


「私が岡本貴明です。貴明と呼んでください。ご一緒できて光栄です、コーウェン隊長」


「よろしく頼む、貴明殿。此度の依頼に関してだが、皇帝陛下からいくつか伝言を賜っている。出発前に伝えておこう」


 そういうとコーウェンは背後の部下からいくつかの書類を受け取り、貴明たちへと向き直る。


「今回わが軍とともに行動するBランク冒険者である貴殿らには、今作戦下においてのみ中尉、代表の貴明殿に関しては中佐の権限を与えるものとする。これは貴殿らがわが軍とともに魔獣の討伐に当たる際の発言力を与えるための処置であり、貴明殿に関しては定例軍議に参加してもらうための資格を与えるものである。なお、貴殿らには相談役としての役割を果たしてもらう予定のため、現段階では部隊行動の決定権は与えられないものとする。また貴明殿あてに陛下から書状をお預かりしている。これを」


 コーウェンから書状を受け取って読んでみると、貴明のレベルをコーウェン隊長以下数名の幹部に伝えてあること、会合の際に話したことをコーウェンに伝えてあるので、サポートは彼が行うこと、マンドラン辺境伯との交渉は貴明、コーウェン両名で相談し対応すること、仮に緊急事態が発生し必要があると貴明、コーウェン両名が判断した場合は、派遣部隊、および国境警備隊などの現地軍の指揮権を貴明に預ける旨が記されていた。


「皇帝陛下からの書状、確かに賜りました。謹んで拝命させていただきます」


「うむ。これから長い付き合いになる、よろしく頼みますぞ」


 貴明とコーウェンは再び堅い握手をした。




「では移動を開始しよう。貴明殿たちは指定された馬車に乗ってもらう。現地ではそれぞれ小隊単位で動いてもらう予定だ。ともに動く予定の部隊幹部がすでに乗っているから、それぞれ今のうちに自己紹介や意見交換を済ませ円滑な行動がとれるようにしておいてくれ。今日の予定ではトパスの町の郊外で野営するが、そのときまでに現地での行動計画の説明を受けてほしい。貴明殿には毎晩のミーティングに参加してもらう予定だからそのつもりで頼む」


 コーウェンの指示に従い馬車へと移動する。自分に割り振られた馬車 (軍用大型、天蓋付き6人乗り、思いのほか広い)に乗り込んだ貴明を出迎えたのは、いずれも高レベルと思しき男女4名の士官だった。


「お待ちしておりました中佐殿!ご一緒できて光栄であります!」


 いきなり元気のいい声をかけられる。発言したのは4人の中でもっとも高齢で40歳後半と思われる男性。ほかに貴明と同じ位の世代の男性仕官2人と20歳半ばほどの女性仕官1人が同乗していた。


「はじめましてみなさん。特任中佐の貴明と申します。みなさんが現地で私とともに動く部隊の方々ですね?しばらくの間よろしくお願いします。皆さんのお名前を伺っても?」


「失礼しました。小官は中佐殿と作戦行動を共にする小隊の隊長を務めますアレクシス・ガリソン少佐であります。後ろに控えるのは副隊長のカーラ、そして分隊長のフランツとクーガーです」


「はじめまして中佐殿、カーラ大尉であります。小官が中佐殿の副官として作戦行動中、およびそれ以外のサポートを任されておりますので、御用の際は何なりとお申し付けください」


 赤みがかった金髪を肩口で切りそろえた快活そうな印象のカーラはそういって貴明にウィンクをする。


「小官はフランツ少尉であります!レベルは112、ガリソン小隊の分隊長で小隊のナンバー3であります。戦闘の際はぜひとも小官の働きにご期待ください!」


「中佐殿、小官はクーガー少尉であります。フランツの戯言ざれごとは聞き流してください、こやつは何かにつけて寝言をほざくのです。ガリソン小隊のナンバー3はレベル113のこのわたし、クーガーであることをお忘れなく」


 カーラの後に競うように自己紹介をするフランツとクーガー。フランツの方が若干背が高く筋肉が程よくついているのに対し、クーガーは眼鏡をかけており背も170cm程度、見るからに肉弾戦にはむいてません、というような風貌である。


「ああ!?てめぇ何が戯言だこらぁ!たった1レベルオレよか上なだけの癖に調子に乗ってんじゃねぇぞ!?」


「はっ、その1レベルが明確に俺との差をあらわしてると言うのがわからないのか?だから貴様は駄目なのだ」


「てめえ表出ろやぁ!」


「やめんか馬鹿共が!」


 突如貴明の目の前で殴りあいを始めそうなフランツとクーガーの脳天にガリソンの拳骨が直撃する。馬車の外では「あぁ、またガリソン小隊か」といった生暖かい目や、「ああ!またうちの分隊長が制裁を!?」といった目が兵士たちから向けられていた。


「ぐお、ぐぁぁ!たいちょー、手加減してくださいよ……」


「ぐっ、な、なぜ俺もなのですか……!?」


 頭を抱えながら抗議する2人。しかしガリソンはそれを歯牙にもかけず貴明に謝罪する。


「部下が大変失礼いたしました、こいつらは同期で何かと張り合うのです。ですが2人とも力量は確かなのでご安心を。フランツは優れた魔術師ですし、クーガーは一流のランサーです」


「え、フランツさんが魔術師でクーガーさんが戦士職なんですか!?てっきり逆かと思ってました」


 2人の体格を改めて観察する。どこからどう見てもフランツが脳筋、クーガーが頭脳派といった風貌だ。


「ええ、初めて会うものはみなそう思うのです。わが小隊最大の謎ですな。あと中佐殿、こやつらにさん付けは不要であります」


 貴明の示した反応に慣れているのか、ガリソンがため息をつきながら説明した。




「失礼します!コーウェン大隊長より出発命令が下されました。第1中隊より順次進発しますので準備をお願いします!」


 その後カーラも混ざり作戦行動の大まかな予定や小隊の雰囲気、各々の得意な武器や魔法の話をしていると、本隊から伝令兵が出発を伝えに来た。


「伝令ご苦労。貴明中佐、これより我々は隊を率いるため外に出ますがカーラをここに残します。何か御用の際は彼女に申し付けください」


 伝令を受けてガリソンとフランツ、クーガーが馬車を降りる。広い馬車のなかに妙齢の女性と2人きり、というシチュエーションはどうにも気まずくユリウスかグレンがいる馬車に遊びに行こうかと考えた貴明だったが、ここでわがままを言うことにためらいを持つあたり貴明も日本人である。


「了解しました。カーラ大尉、退屈でしょうがしばらくお相手願いますね」


「あら、男女が個室に2人きりという状況下で退屈させるほど小官は無粋ではないですよ?」


 貴明の言葉にいたずらっぽく笑いながら答えるカーラ。それを聞いたフランツが「あんた既婚者でしょうに……」とぼやくと、ガリソンも「そのセリフは旦那に言ってやれ」とあきれ顔で去って行った。







 コーウェン大隊は帝都出発後、特に障害や異常に見舞われることなく順調に行軍を続け、日が落ちる前には予定通りトパス郊外の野営地に到着することができた。


 その間貴明はというと、カーラが軍に入ってからの話や貴明の冒険者生活の話、そのほかカーラの旦那さんとのなれ初めというのろけ話を聞かされたりと、思いのほかにぎやかな時間を過ごした。昼食時にユリウスとユリウス付きの武官 (15、6歳ほどの少年士官)と合流し、午後は同じ馬車に乗りまた雑談、という行軍にしては少々ゆるく感じるほど和やかな時間であった。


 しかしそこは軍隊。大隊の周辺には常に斥侯がはなたれ、定期的に『サーチ』や『ディテクション』といった魔法も使いながらの行軍である。『ディテクション』は『サーチ』のように詳細に相手の情報を得られない反面、広範囲にわたり生体反応のような目標を発見できる探知専用の魔術だが、MP消費が激しいため、あくまで軍隊のような大規模集団で使うのが基本の上級魔術だ。


 貴明もただのんびりと馬車で雑談していたわけではなくそれとなく周囲に怪しい気配がないか警戒していたし、カーラもにこやかに話しながら馬車の周囲から聞こえる音などには注意を払っていた。




 そうした努力の積み重ね (?)によって問題なく目的地に到着した一行だったが、トパスの野営地についたときに問題が発生した。


「ジャイアントラットの死骸だと?」


「はい、それもものすごい数です。おそらくは200はあるかと。ジャイアントラット以外にも、ヤングコボルトの群れやダイアウルフの死骸まであります。調べたところ刀傷のようなものはなく、巨大な爪で引き裂かれたものや強い力で押しつぶされたものが大半でした。あとわずかですが、魔術による攻撃で死んだと思われる魔獣も何体か。現在第2偵察班に調査を引き継いでおりますがいかがいたしますか?」


 各部隊が野営準備に取り掛かる中、コーウェンに呼ばれ部隊長クラスのミーティングに参加することになっていた貴明はガリソンとともにコーウェンと合流していたのだが、周囲の偵察に出ていた偵察班から異常の知らせがあったのだ。


 概要は、野営地からほど近い場所にある森の中におびただしい数の魔獣の死骸が転がっていた、というものだった。斥侯が報告した魔獣はどれもレベル15から45、冒険者なら最低のFランク冒険者が肩慣らしに倒す敵であり、一般的な兵士でも問題なく倒せる弱敵だ。


 だが問題は、町からさほど離れてない森でそれほど多くの魔獣が発見され、しかも皆殺しにあっているということ。さらに刀傷ではないということから町の狩人や警備隊、冒険者の仕業である可能性も低くなった。


 報告を聞いたコーウェンは、数瞬で考えをまとめ指示を出す。


「森に派遣する斥侯を倍にしろ。小さな異常も残らず発見し報告するのだ。大隊は野営準備をしつつも警戒態勢をとれ。魔獣がいきなり襲撃してくる恐れがある、即応できるよう注意しろ。トパスの町にも状況を報告、町の門を閉じ警戒するよう呼びかけろ。各部隊長はこれより緊急会議を行う。申し訳ないが貴明殿以外の冒険者にも参加してもらうから彼らも呼ぶよう伝えてくれ」


「は!森の斥侯を倍に。各隊は警戒を厳にしつつ、即応体制をとりながら野営準備を。トパスの町にも警戒を呼びかけ、部隊長会議にはすべての冒険者に参加要請。行ってまいります!」


 内容を復唱し伝令が去っていく。コーウェンはそれを見届けると、今度は貴明へと視線を移す。


「貴明殿、今の状況をどう思われる」


「俺は……、失礼。私はこの付近に依頼できたことはありませんが、トパス周辺に弱いとはいえ数百の魔獣を駆逐する、というような魔獣がいたという話は聞いたことがありません。少なくとも昨日までの段階ではノールの冒険者ギルドには伝わってませんでした。しかし気になるのは魔術による攻撃の形跡がある、という点ですね。もし仮に魔獣が使ったのだとしたら、必然的にBランク以上ということになる」


 人やエルフなどが好んで使う魔術だが、これは必ずしも魔獣が使えないわけではない。もとは動物などが突然変異で進化したといわれている魔獣だが、高レベルの魔獣であればあるほど魔術を使った攻撃が可能になる。その魔術が使える、使えないの境目になるのがレベル110から120。つまりBランク魔獣ということだ。


「やはりそうか。となると兵士だけでは負傷する危険性が高いな。必ず小隊規模、最悪でも分隊単位で当たるよう徹底させよう。それと貴明殿」


「なんです?」


「貴殿は冒険者だ。別に正規の軍人ではないのだからそこまで口調に気を付ける必要はないぞ。特に今のような非常時にはな」


 そう言って貴明の肩をたたき、指揮所となる大型テントの中へと入るコーウェン。


「……お気遣いありがとうございます」


 そこはかとなくこそばゆい気持ちになった貴明と、一部始終を見ており背伸びをする息子を見るような眼をしているガリソンが後に続いた。




そろそろ人物名や国家の設定集を投稿しようかと思う今日この頃。

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