強制依頼
前回の投稿からだいぶあいてしまいました(汗)今後も学期末試験やバイトなどで時間が取れない日が続きますが頑張って更新します!
リベラ大陸歴1539年6月。神聖ガルーダ帝国西部、ランバール公国連合との国境付近に位置するグラン・ベル要塞にて。
「ユリウス、C-3ブロックにファイアウルフの群れだ!何人か連れて向かえ!」
「わかりました!タラス、ガストン、アレンは俺についてこい!」
「貴明殿、南門、西門付近に接近していた魔獣は殲滅完了した。北門に増援を送れるぞ」
「了解しました。ではコーウェン隊長は西門の第6歩兵中隊を配下の部隊に編入し北門へ向かってください!南門の守備隊はそのまま動かさず防衛陣地の再構築を。俺は第2、第4遊撃隊を連れて東門付近の敵を殲滅した後向かいます!」
「承知した。早く来ないと獲物が残ってないかもしれないぞ!」
コーウェンは貴明にそういうと配下の帝都守備隊第3分隊を連れて魔獣の攻勢が激しい北門へと向かっていった。
(こっちも大分片付いてきたかな。アルザスからの援軍もそろそろ到着する頃か)
「貴明殿!アルザス領主マンドラン卿率いる援軍、ただいま東門に到着いたしました!」
貴明がグラン・ベル周辺の戦況を思い浮かべていると、東門の守備にあたる第3歩兵中隊の隊章を付けた伝令兵が貴明に駆け寄ってきた。
「わかった、アリシア様は何か言っておられたか?」
「はっ、『私の部隊が魔獣を誘導しますのでそれに合わせて動きなさい』とのことです!」
伝令兵にうなずくと、貴明は臨時で指揮をしている遊撃隊へと指示を出す。
「我々はこれより東門前に群がる魔獣の殲滅に向かう!アルザスから来た援軍と挟撃し速やかに殲滅、その後一刻も早く北門の救援に向かうぞ!」
『おう!!』
一斉に動き出す遊撃隊。騎兵でのみ構成された遊撃隊の先頭を駆けながら、貴明は自らが跨る軍馬ほどの大きさの銀狼に声をかける。
「行こうかロド、さっさと片付けよう。」
(承知!)
貴明の呼びかけに応じ、一層速度を上げる銀狼。それに続く遊撃隊の面々。
その視線の先には無数の魔獣と戦う友軍の姿があった。
時は1月ほどさかのぼる。
貴明が冒険者登録をしてから3か月の時が過ぎた。その間、貴明たちは子供たちに訓練を施しつつも勤勉に依頼をこなし、ユリウスやグレンのほか数名はBランクへと昇格を果たす。
貴明も堅実に依頼をこなしてゆき、着実にギルドからの信頼を築き上げていった。サーシャたちも無事冒険者登録を果たし、現在はEランクをめざし各々依頼を受けつつ貴明たちの訓練をこなしていた。
そんな貴明たちに突然ヨハンからの呼び出しがかかった。呼び出されたのは貴明以下Bランクに昇格した面々8人である。
当初Bランクに昇格したことに対し何かしら褒賞でもあるのかとも思われたが、特にそういった様子もなくヨハンの執務室に通された貴明たち。この段階で貴明たちは面倒事の空気を感じ始めたが逃げるわけにもいかず、ヨハンが要件を切り出すのを待つのであった。
「強制依頼、ですか?」
貴明は冒険者ギルドノール会館のギルド長執務室に呼び出されていた。その横にはユリウス以下数名の仲間たちもいる。みな貴明同様怪訝な顔をしていた。
「うむ、お主たちに頼みたい依頼があっての。ビスマルク陛下直々のご指名じゃ」
貴明たちの正面に座ったヨハンがそう告げる。その言葉を聞き貴明は顔をしかめた。
「強制依頼は何かしら問題がある冒険者のみに適用されると聞いていましたが。それに依頼主が皇帝というのはどういうことですか?冒険者ギルドは国家から独立した組織だったのでは?」
ヨハンに疑問を投げかける貴明。冒険者となってまだ3か月、ランクはともかく実績はまだまだ少ない貴明に皇帝自ら依頼をするなど普通は考えられない。
不信感をあらわにする貴明たちの反応が予想通りだったのか、ヨハンも難しい顔で答えた。
「お主らが疑問に思うのももっともじゃ。帝国皇帝としてギルドに協力を求めることはできんから、形としては冒険者の身分で依頼を出しておられる。ま、よくある規則の抜け道というやつじゃ」
軽くため息をついた後、ヨハンは依頼内容、およびその背景の説明を始めた。
表向きの依頼内容は神聖ガルーダ帝国西部、アルザス地方に領地をもつマンドラン辺境伯領にて北のエル山脈から下ってきたと思しき強力な魔獣が確認されたため、Bランク以上の冒険者数名のパーティを派遣し現地の辺境伯軍、および帝都守備隊派遣分隊と協力しつつ討伐することという内容であり、ガルーダ皇宮が正式に依頼した至って普通の内容であった。
しかしその裏ではランバール公国連合に亡命した、現在ガルーダ領となっている旧都市国家王家の残党が連合と結託して何かしらの軍事行動を起こす可能性が確認されたため、国境付近へ赴き現地で情報を収集せよ、というものだった。
「本来なら皇家直属の諜報機関が動くのじゃが、実はほかにも火種があるようでの。今は動かせる人員がいないそうなのじゃ。しかし冒険者を内密で使うのはランバール側も予想しておるからな、今の皇帝とつながりがあるガリウスは他国が警戒しておって動かせんのじゃ」
よってヨハンから信頼されており、必要以上の力量を持つ貴明たちに声がかかったようだ。
「今回お主らが受ける強制依頼は、『表向きの依頼をたまたま引き受けた風を装い国境のグラン・ベル要塞へ赴き、同行する帝国軍らとともに周辺の調査を行う』というものになるの。成功報酬は1人金貨10枚出そうじゃ、大変じゃが頑張ってくれ」
「なかなかの報酬ですが…。あんのヤロウ、いきなり便利使いしてくるか。なめやがって」
貴明の脳裏にニヤついたカールの顔が浮かんだ。さらにその後ろに申し訳なさそうに頭を下げるマードックもいる。
(……なんだろう、すごく容易に想像できる)
同じことを考えたのか、ヨハンも気の毒そうな顔で貴明たちを見ていた。
「まあおそらく国軍同士の戦闘に参加せよ、と言われることはないじゃろうからそこまで気張ることもなかろう。ユリウスたちもBランク昇格後初の任務じゃ、落ち着いていつも通りに頑張ってくれ」
貴明の皇帝に対する発言に驚いていたユリウスたちであったが、ヨハンの呼びかけで我に戻る。
「わかりました。それで依頼の期間はどれくらいになるのですか?」
「まだ不明じゃが大体移動込みで1月から2月かの。食事や物資は同行する守備隊が供給してくれるそうじゃから、そのあたりは心配いらんじゃろう。調査報告は帝都守備隊のコーウェン隊長にしてくれ、だそうじゃ」
出発は3日後の早朝、帝国軍とともにまずはアルザス地方に入りマンドラン辺境伯と協議したのち、現地軍と合同で領内やエル山脈周辺を探索。その動きに紛れつつ貴明たちはグラン・ベル要塞を拠点として情報収集にあたる。以上のことがすでに決定されているらしく、貴明はもはや断るのは不可能であることを悟った。
おそらくカールは貴明が依頼を断ったからといってギルドに圧力をかけるようなことはしないだろうが、貴明がどういう状況だと断りづらいかなどを的確に見抜き先手を打つあたり、やはり1国を率いる政治家なのだと貴明は実感した。
「貸し1つ、と伝えてください。ついでに報酬は1人金貨15枚だ、とも。それで手を打ちましょう」
みんなもそれでいいか?と聞くとみな満面の笑みでうなずいている。異論はなさそうだ。
その様子を呆れながら見つつ、ヨハンがうなずいた。
「……まぁ先方も嫌とは言わんじゃろ。気を付けるんじゃぞ」
久しぶりなのに短くてごめんなさい(汗)