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プロローグ2

この回まで説明回です。なかなか人が出てこない…。

「えーっと。つまり俺はあの祠の中に吸い込まれて、気が付いたらこの森の中にいたと」


今のところわかるのはこれくらいか。正直こんな状況になっているのだからもう少し慌ててもよさそうなものだが、あまりにも自分の理解できる範疇を超える事態に陥るとかえって冷静になるというのはどうやら本当らしい。


「とりあえず俺はFOEをしていたわけだから考えられるのはシステム的なバグによって未公開エリアに飛ばされたってところか。大穴で完全に地球とは違う異世界って可能性もあるか?」


確か祠にのまれる直前に異界がどうのと言ってたし。


「んじゃま、とりあえずいろいろ試してみるかな」





それから30分後、森の中で男が一人頭を抱えて蹲っていた。その男の周囲は荒れていた。木々はなぎ倒されており、巨大な肉食獣のような生物の死体もちらほらうかがえる。もちろんこの所業を行ったのは貴明である。


「まさか大穴が正解だったとはなぁ。これだけ状況証拠があればさすがにゲームってことはない…か」


大まかなところは確かにゲームと酷似していた。まず試してみたのはステータスウィンドウの展開。さらにはキャラクターステータスから装備品、はては所持アイテムや所持金に至るまでクロード・ランベルクと完全に一致していた。オリジナルスキルも問題なく発動でき、試しに各種剣技や魔法、複合スキルで周辺の木々を薙ぎ払ってみたが、いともたやすく巨木を切り倒すあたりあの化け物じみたクロードそのものだろう。その音を聞きつけて襲いかかってきた魔獣も難なくなぎ倒し、その皮や肉、爪や牙といったドロップアイテムもアイテム欄に追加された。


だがこの一連の出来事が、ここがゲームの世界ではなく異世界であると貴明に確信させた。まず仮にここがゲームだった場合、木のようなオブジェクトを破壊したならば、根本だけが残り伐られたほうはポリゴンをまき散らしながら消えてしまう。しかしここではそのまま消えることなく倒れており、試しに体術系統のスキルで木を殴り倒してみたが、ものの見事にへし折れた。FOEならば絶対にこのような倒れ方はしない。


次に魔獣のほうだが、そこに現れたのは貴明にとってもなじみ深い「キングライガー」だった。キングライガーとは通称獅子王とも呼ばれており、獣系統魔獣の中では最高クラスの強さを誇っている。FOEに存在した冒険者ギルドでは、冒険者のランクはSS~Fまでランク分けされているのだが、キングライガー討伐依頼の難易度はAクラス以上、一流冒険者でなければならず、レベル200前後の時に大分世話になった(痛い目見せられた)記憶がある。


そのキングライガーを見たとき、威圧感が完全にゲームとはかけ離れていた。確かにFOEのグラフィックは優秀で、魔獣も本当に生きているかのようであったが、それはあくまで「ゲームにしては」というレベルであった。しかしこいつは完全に別物であり、涎を垂らしながらこちらを睨めつける形相など本物の「生」を感じさせた。おかげでやつの初撃に反応できず、二の腕に爪による攻撃を受けてしまった。その時に受けた傷は、クロードの馬鹿げたステータスと最高クラスの防具によってほぼ無傷に近かったが、それでもゲームならば絶対に感じるはずのない痛みを覚え、これが傷を負い続ければ死に至る「現実」であると本能が激しく訴えてきた。そもそもこのゲームは出血表現など皆無であるはずなのに敵も自分もしっかり出血し、死んだ魔獣がいつまでも消えずにその場に残りその匂いにつられてさらに魔獣がやってくるという段階で貴明はここがFOEの中ではなく異世界という現実だと確信した。


そしてとどめと言わんばかりに突き付けられたのが自分の姿である。FOEではプライバシー保護の関係上オリジナルの姿を自作してプレイするため、本来の姿で参加することは不可能でせいぜい似せられる程度である。貴明は180㎝の身長に部活で鍛えた体をしているが、わざわざゲームで似せてまで再現するほど執着があるわけでは当然ないので、実際の体とはかけ離れた西洋人風のアバターで登録していた。しかし今の自分は、180㎝の身長、ある程度筋肉の付いた体、少し寝癖のように跳ねている黒髪で精悍な顔つきをしており、どう見ても本来の貴明本人である。これらのことから、貴明はここが異世界であると認めざるを得なかったのである。


「とにかくこのままここにいても仕方ないな。また魔獣に襲われても面倒だし」


人よりも数倍大きい生き物を殺した直後にしては比較的落ち着いている貴明だが、これはかつて貴明が中学生だったころ目の前で悲惨な交通事故があり、そのとき以来人の死体や大量の血に耐性がついてしまったためである(事故当初はしばらく肉や赤い飲み物といった飲食物はまったく体が受け付けなかった)。


「もしここがFOEと同じ世界であるなら、当然これからもこんな事態になるよな。いや、盗賊や犯罪者ギルドもあるような世界だ。最悪人を殺す覚悟も必要になってくるか…」


貴明個人の考えとしては、日本のように治安が大変良い国ならともかく、自らの命が常に危険であるような状況下で人殺しを忌避するつもりはまったくない。確かに抵抗はあるが、なぜ自分の命を他人に狙われておきながらその狙ってくる相手の命を気遣わなければならないのか。自分の身を危険に晒してまで盗賊や犯罪者の命を奪うのをためらうほど自分はお人よしでもないし、そもそもそんな余裕は今の状況下ではまったくない。


「とりあえずは現在地の確認だな。とにかくこの森を出ないことには話しにならんし。まぁキングライガーがいる時点で大体のめどはついてるんだが」


そう言いながらマップを展開してみると、思っていた通り大陸中央部の覇者神聖ガルーダ帝国と大陸最大の領土を誇るラービア連邦の国境に位置するグスタフ大森林であった。グスタフ大森林は豊富な資源と肥沃な大地によって大変魅力的な土地であり、かつてはラービアが領土獲得のため2個師団を派遣したこともあったが、あまりにも生息している魔獣が強すぎたため断念、現在に至るまでどの国家も所有権を主張していない。




ここで貴明は少し迷う。今貴明がいるのはグスタフ大森林の中心部なのだが、ここからどこへ向かうべきだろうか。


選択肢は三つ。一つはここから北、または東に進みラービア連邦へと向かうルート。二つ目は西へと進み、ラービア連邦同様大陸北部に位置する大陸最大の人口、国力を有する大国、ダイオン帝国へと向かうルート。そして最後に南下して神聖ガルーダ帝国へと向かうルートだ。


だが仮にこの世界がFOEの世界情勢などと完全に等しい場合、ラービア連邦やダイオン帝国へと向かうのは危険すぎる。


ラービア連邦は人間種、獣人種などの多種族によって構成される連邦国家であり、各種族が自分たちの住まう地域を治めつつ共存しあうことを目的として誕生した国家だ。国家として対外的に行動する場合は、各種族代表が集まる首都ライトベルグの中央議会の議決によって方針が決定される。


しかしこのラービア連邦、FOEでは20年前から内戦状態に陥っているのだ。原因は連邦内での主権争いという至って普通の理由である。現在は人間種、エルフ種、獣人種の三勢力に分かれて争っており、対外的にはいまだ単一国家として認識されているが実質古代中国の三国時代の様相を見せているため、いまだ現状把握もできていなければ態勢すら整っていない貴明が向かうのはあまりにも無謀だ。下手をすれば人間種以外の勢力に襲われかねない。


同じ理由でダイオン帝国も除外だ。そもそも今いるグスタフ大森林は東西に長く伸びていて、現在地から西へ向かえば森を突っ切らなければならない。そして肝心のダイオン帝国だが、ラービア同様絶賛内戦中だったりする。


リベラ大陸の二大国家がそろって内戦中のため、大陸中央部、南部の国々は今が好機とばかりに領土的野心を見せ始め、どこを見回しても戦争の火種が転がっており国家間の小競り合いが絶えない、というのが貴明の知るこの世界の情勢だ。




ゆえに貴明がとる道は南。神聖ガルーダ帝国だ。北をグスタフ大森林とエル山脈、南をウォーランド連山に囲まれた土地柄、南北で国境を接する国よりも東西で接する国のほうが交流の機会が多い。


かつては十数の都市国家がひしめいているなかの一国家にすぎなかったガルーダ王国だが、先代のビスマルク4世が瞬く間に他の国家を制圧、国号を神聖ガルーダ帝国とした。現在の皇帝はその息子、カール・ガルーダ・ビスマルク5世で、父譲りの政治手腕と軍事的才覚で国を率いる名君と名高い男だったはずだ。近年隣国のバニス公国をはじめとする近隣諸国の共同体、ランバール公国連合との間で、貿易摩擦により緊張が高まっている。


FOEの常識がどれほど当てはまるかわからない状態で判断を下すのは心もとないが、ほかに判断基準がないため仕方ないだろう。そう腹をくくって貴明は南へと向かうのだった。


何とかまだちゃんと更新していけそうです。次の回から会話、台詞が増えてくるかと…。

誤字脱字、感想等お願いします。

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