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冒険者として

これにて第1章は終了です。


冒険者ギルドの説明は今後加筆があるかもしれません。




前回~今回にかけて、貴明とクロードのギルドカードの設定を変更しました。ご了承ください。

 執務室を出た貴明とイリナは、再び1階のカウンターへと戻ってきた。向かい合って席に座ると、イリナはテーブルの下から1冊の分厚い冊子を取り出し貴明に向かって広げる。


「それでは貴明様に当ギルド、および冒険者についての説明をさせていただきます。まずはランクについてですね、こちらをご覧ください」


 イリナが冊子の一部を指し示す。


「すでにガリウスさんたちから説明を受けておられるようですから簡潔に済ませますが、ランクはF~SS+までの12段階で区別されます。S、SSランクはそれぞれ3つに分かれていますがめったに現れないため、総じてSクラス、SSクラスと呼ばれます。貴明様はレベル140ですので本来Aランクに区分されますが、今回が初めてのご登録となりますので1つ下のBランクとなっております」


 これは貴明の希望とギルドとしての規則にのっとった判断である。冒険者とは何もレベルが高ければ、戦闘に長けていればいいというものではない。冒険者の依頼は輸送護衛や魔法薬の素材調達、身辺警護や都市内での生活における手伝いまで幅広く存在する。レベルが高くとも経験不足の者に任せるには危険な依頼も少なくない。


 よって冒険者ギルドは、登録時から高レベルであったとしてもギルドの判断でランクを1つから2つ下げ、経験を積ませることを規則に入れているのである。


「次に依頼の受け方についてですが、会館の正面玄関から入ってホールの右側、あちらの掲示板に主な依頼は掲示されています」


 イリナは貴明の後ろ、正面玄関から見て1階ホールの右側に大量に設置してある掲示板群を指さす。


「依頼は討伐や護衛といった内容ごとに分けられており、その中でさらにランクごとに区別されております。冒険者はEからCランクが最も人数が多いため、依頼の数もそのあたりが多数を占めています。BランクやAランク向けの依頼もありますが、レベル100を超える冒険者は希少ですのであまりはけ方はよくありません」


 イリナがページをめくる。


「Bランク以上の主な依頼はこちらですね。グレートボアやアサルトバイパーの討伐、夜月草の採集、南のウォーランド連山を突っ切りエルナード王国へ向かう緊急輸送などです。依頼は自身のランクの1つ上までは受けられ、自身のランクより下であれば制限はありません。しかし故意に低ランクの依頼ばかり受け、適正ランクの依頼を受けなかった場合ギルドからの強制依頼を受けていただきます」


 ようは楽ばかりしてサボるなということか、と貴明は理解した。


「ごく稀にSクラス以上の依頼が発生しますが、レベル150超えの冒険者などめったにいないためパーティを組む場合がございます。S-ランクの依頼ならAランク冒険者10名、といった感じですね。ちなみにノールを拠点にしている冒険者でS-ランクは7人、Sランクは3人となっておりますね。それ以上のランクの方は現在わが国にはおりません」


 ノールは大国神聖ガルーダ帝国の首都であり人口も多い。そのノールですらS+以上の冒険者がいないことを考えれば、いかにS、SSクラス冒険者が希少であるかがうかがえる。


 そもそも1国の大将軍や親衛隊総長 (マードックがこれにあたる)、宮廷魔術師団長の平均レベルがレベル160代、つまりS-ランク相当なのだから、S+ランク以上の者がごろごろいるほうがおかしい。


「依頼を受ける際は2階の依頼受注カウンターで受注される依頼の登録番号をおっしゃってください。番号は掲示板の依頼書に書かれています。文字の読み書きができない方は代読、代筆のバイトをしているものが近くに待機しているのでそちらに申し付けください。ただしこちらは有料となっております」


 この世界の言葉や文字は日本語なので貴明がそのバイトとやらに頼ることはなさそうだ。


「依頼達成時はホールの左側、依頼達成カウンターへお越しください。依頼の品や依頼達成の証明書を提示していただくとその場で報酬が支払われます。昼から夕方にかけて込み合いますのでご注意ください」


 その時間帯は引き上げてきたほかの冒険者で込み合うようだ。イリナにうなずきつつ、可能な限りその時間は避けようと貴明は決める。


「次に大規模魔獣や魔獣の群れといった国家規模の対応が求められる事態が発生した場合の対応ですが、冒険者は自身が滞在している国家でそのような事態に陥った場合、国軍や騎士団などに協力してともに対応する義務が発生します」


 これは冒険者の持つ特権に由来する。冒険者は都市へ入場する際支払わなければならない税金が、通常銀貨5枚かかるところを1枚に軽減されている。これは依頼により都市や国家の行き来が激しい冒険者の活動を援助するために各国が共同で定めた規則だ。


 ほかにも滞在先の町で冒険者のギルドカードを提示すれば、ギルドと提携している宿屋や武具店、魔法材店などでの割引といった恩恵が受けられる。その対価として冒険者は魔獣の大規模襲撃といった事態には強制的に対処に当たらなくてはならない。


「最後に国家間の戦争についてですが、冒険者ギルドは完全に国家から独立した組織であるため基本的にギルドとして特定の国に干渉することはありません。仮にどこかの国家に傭兵や義勇兵として参加したい場合は、傭兵ギルドにて登録する必要があります」


「冒険者でも傭兵登録はできるんですか?」


 貴明は首を傾げる。


「可能ですよ。功績次第では教官として国軍や騎士団に迎えられることもあります。現在のガルーダ帝国軍大将軍などは20年前までS-ランク冒険者でしたが、傭兵としてバルカン王国との領土紛争で目覚ましい功績をあげられたために国軍へと迎えられていますね」


 どうやらどこの国も優秀な人材の確保には余念がないようだ。


「基本的な説明は以上ですね。当ギルドに加盟したのちは、会館内の各施設を格安で利用できますのでそちらもご利用ください。何かご質問はありますか?」


 少し考えてみたが思い浮かばない。何かわからないことがあったときにまた聞きに来ることにした。


「それでは説明を終わらせていただきます。貴明様のカードは明日の正午には完成しますので、その時にまたお越しください」


「わかりました、ではまた明日来ますね。ガリウスや子供たちはどこにいるかわかりますか?」


「あの人たちでしたらおそらく3階のギルド食堂にいると思いますよ。階段を上ってすぐ目の前にあります」


 イリナに礼を言い席を立つ。無事登録を終えられたため、貴明はとりあえず合流することにした。




 ガリウスらの姿はすぐに見つかった。というかかなり目立っていた。貴明が食堂へ顔を出すと、中央のスペースに30人近い集団が陣取ってメニューを見ていた。ガリウスたちは貴族との一件で有名だし、子供たちはエルフや獣人である子がいることに加え奴隷として高値がつくほどの容姿であるため、周囲の視線の集まり方が半端ではない。


 貴明がそちらに近づくと、すでに何を注文するか決めていたのか、視線をメニューから外していたサーシャが貴明に気付いた。


「あ!貴明さんこっちです!今からみんなで少し早いですけどお昼ご飯を食べることにしたんですよ。もう登録は終わったんですか?」


 サーシャが素早く自分の横の椅子を引き貴明に勧める。貴明の接近に気付かず出遅れてしまったイリスとナユタは悔しそうにサーシャを見つめ、その様子を見ていたユリウスやフィーネはくすくす笑っていた。


「ありがとうサーシャ。登録は一応終わったよ、あとは明日貴明としてのギルドカードを受け取れば終了だ。そしたら少しずつ依頼をこなしながら、またみんなの訓練をしよう」


 貴明もサーシャたちの水面下での争いに気付き微笑ましく思いながら、椅子を引いてくれたサーシャに礼を言い席に着く。


「こっちも無事復帰手続きが完了した。ようやく活動を再開できるよ」


 ガリウスが嬉しそうに報告してくる。Aランク冒険者として復帰できるということもあるだろうが、やはり婚約者と堂々と会えることが喜ばしいのだろう。


 とりあえず全員が注文をおえ、料理が届くのを待つ。その間に貴明たちは今後の予定について話し合った。


「とりあえずここでの用事は終わったから、この後は武具店や道具屋に行ってみんなの装備を整える、ってことでいいんだよな?」


「ええ、いい加減俺たちの常備品も少なくなってきやしたし、子供たちの装備も揃えてやらなきゃいけやせんからねぇ」


 貴明の言葉にグレンが返す。




 処刑が行われてから今日までの3日間、貴明たちはフィーネやアッシュらに戦闘の基礎を教えていた。その際、どのようにして彼らを育成していくかで少々意見が分かれた。


 貴明とガリウスが主張したのは、ギュイーズのようにほかの者がぎりぎりまで魔獣の体力を削った後にとどめを刺す、というやり方でレベルを30まで上げた後、実際に単独で魔獣と戦わせ実力をつけさせる、という方法だ。


 これはひとまずレベル30まで上げ、冒険者登録をさせてから依頼をこなしつつ実戦経験を積ませるという貴明の考えと、冒険者登録を行うものはほぼすべての者がこのやり方でレベルを30まで上げている、というガリウスの持つ冒険者の常識から出た案だ。


 しかしヨハンがこれに反対。このやり方では通常の半分の経験値しか得られないというのと、他人の力に頼りレベルを上げた者は自力で鍛えた者よりも熟練度値の上昇速度が遅くなり上限そのものも低くなる、というデメリットが存在するため、というのが理由だった。




 そもそもこの世界での熟練度というものはスキルレベル以上に重要なファクターだ。スキルレベルはレベルアップ時に獲得するポイントを振れば誰しも上げることが可能だが、熟練度というのは本人の才能がもろに影響する。


 たとえばレベル、スキルレベルともに同じ数値の長剣使いが、同じだけ戦闘経験を積んだとしても熟練度の上がり方までもが等しくなるわけではない。そもそも常人ではいくら1つの武器や魔術を鍛えようと努力しても、熟練度はせいぜい40から50まで上がればよいほうなのだ。


 ゆえにこの世界でいうところの天才とは、常人より熟練度の上昇速度、限界値が高い者のことを指す。熟練度が5も違えば、レベルが多少上の相手でも倒せてしまうことすらあるのだ。


 そしてヨハンが主張するようにこの世界ではなぜか、楽をして経験値を稼ぎレベルを上げた者は各熟練度の上昇が鈍るという現象が起こる。一説にはこの世界に人や亜人、魔獣を生み出した神々が楽して力を得ようとする者を戒めている、という意見もあるという。その説を裏付ける理由として、戦闘時にまったく攻撃を与えないサポート役の術者でも戦闘に貢献していれば、ラストアタックを決めたとき経験値獲得量に変化がない、というデータがあるらしい。




 以上の理由に加え特に急いで力をつける必要もないことから、子供たちの育成計画は地道に基礎体力をつけさせ、弱い敵を倒しながら少しずつレベルを上げさせる、という方向でまとまった。


 その後貴明たちは帝都周辺の平原へと出向き、冒険者登録が可能となる日までサーシャたちにジャイアントラットやスモールボアといった低レベルの魔獣を狩らせて戦闘のコツをつかませつつ、時には回復や助太刀といったサポートを入れながら彼らのレべリングを行った。


 その甲斐あって、今では全員レベル20を超え、アッシュやフィーネ、イリスなどはあと一歩で30に手が届くところまで成長したのである。レベル30までは意外と簡単に上がるが、元がレベル5~15だったことを考えれば3日でここまで成長するというのは素晴らしい快挙である。


 そこで貴明らはそのご褒美として、彼らが冒険者登録を行った後のことを考え専用の武具をプレゼントすることにした。今まではギルドが所有していた安物の武具を使っていたのだが、これを機に彼らの体に合ったものをそろえることにしたのである。


 その後彼らの前に並べられた料理を食べながら、貴明たち冒険者組は今後受けようと考えている依頼のことを、サーシャたち訓練生組はどのような武器を買ってもらうかを話しつつその時を過ごすのであった。







 同時刻、ノールから遠く離れたとある国のとある城にて。




「なぜです母上!なぜあの方の協力要請を断ったのですか!?」


 1人の女性が母親に詰め寄る。


「落ち着きなさい。あなたも王族ならば、それ相応の振る舞いを心掛けなければなりません」


 そこは女王の私室、プライベート空間であった。その場には護衛もおつきの侍女もおらず、王族である者しかいない。人目がないことを理由に激する娘の行いをたしなめつつ、母親は己の下した判断の理由を説明する。


「確かにかの国とは友好的な関係を結んでいますが、いくらなんでも今回の件は常軌を逸しています。大体今現在ガルーダはビスマルク陛下の元穏やかな統治がなされ民も平和を享受しています。それをなぜ、まったく関係のない我が国の兵を危険にさらしてまで乱さなければならないのです?」


 彼女たちの国に友好国の王太子からもたらされた協力要請。それはとある計画を利用し神聖ガルーダ帝国に対し侵略戦争を仕掛けるというものだった。


「確かに今のガルーダは平穏でしょう。しかしもしガルーダが我が国に牙を剥いたらどうするのですか!?かの大国はこんな小国いとも簡単に併合するでしょう。ガルーダが国内に火種を抱え、ランバール公国連合との間に問題を抱えている今しか好機はないのです!」


 要請に乗り気ではない女王に、それでも彼女は言い募る。国を率いる王族として、また国を愛する者として、今回の打診は彼女の国を救う起死回生の一手に思えた。


 現在大陸各地でさまざまな火種がくすぶり2大強国のラービアとダイオンが内戦中の今、いつ戦争が始まるのかわからないのだ。市井の民は平穏な生活を送っているため大陸を覆うその空気に気づいてはいないが、鼻の利く商人などはすでに感づき始めている。


 いずれ来る戦禍に備え少しでも憂いを断とうと行動してきた彼女は、今回の協力要請は待ちに待ったチャンスなのである。


「落ち着きなさいと言ったでしょう。そもそもこの件、かの王太子はおそらく国王の許可を得ておりません。出なければこのような突拍子のない話、かの国王が許すわけがありません。とにかくこの件はもう終わりです、あなたも下がりなさい」


 話を打ち切り娘に退出を促す母親。それに従いつつも、その女性はまだあきらめた気配を見せてはいなかった。


「あなたはいつもそうだ。あの娘の時だって…」


 出ていく直前彼女がつぶやいた言葉は母親の耳には届かなかった。




 貴明たちを、神聖ガルーダ帝国を包み込むかのように、不穏な空気がリベラ大陸に満ちていった。


貴明は鈍感の子ではありませんでした。

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