事件のその後
今回はいつもと少し毛色が違います。…違うかな?若干短めですがお楽しみください!
ギュイーズ公爵邸が襲撃を受けたことは瞬く間に帝都中に広まった。貴族とはピンきりで、平民にやさしい貴族もいれば搾取の対象としか見ていない者もいるため平民の貴族に対する印象は様々だが、ギュイーズの評判は最悪の部類だった。
そんなギュイーズ公爵の私邸に襲撃があったと知ると帝都は大いに盛り上がった。いったい何者による行いなのか。何が目的なのか。帝都の民は知り合いを見つけると思い思いに自らの推理を披露し、それをたまたま聞いた別の者がそれに反論する。帝都ではこのような光景があちこちで見られるようになった。
公爵邸襲撃事件から2日後の深夜、とある高級宿の一室にて。
「此度は災難でしたな、ギュイーズ公」
「何の、大したことはありませんよ。私財の大半は領地にありますし、奪われたものはごくわずかな宝石の類のみ。見られては困るものは気付かれすらしませんでしたからな」
「おお、それはよかった!例の件に関しては物証はありませんが、それでもあなたの屋敷には『あの』商売に関する書類がありますからな。あれが官吏どもの目に触れれば面倒なことになる」
「左様、今はわれらの悲願を達成するための大事な時期。このようなことですべてを台無しにするわけにはいきませぬからな」
その部屋には10数名の男たちがいた。彼らはほぼすべて貴族派と呼ばれる派閥に属する者たちであり、その中でも帝都での一斉蜂起を画策している面々である。
彼らは今回、ギュイーズ公爵邸の襲撃を受けて急遽会合の場を設けた。仮に彼らの計画がこの事件で明るみになったのであれば早急に動く必要があるためだ。しかし同胞の半分は今現在帝都におらず果たして動いていいものか迷っていたところ、ギュイーズによりこうして招集がかけられ、事実確認が行われたのである。
「それではクロムウェル卿、高等法院への根回しは任せましたぞ」
「うむ、高等法院長は儂が押さえておくから安心されよ。ギュイーズ公も傭兵の件、お願いいたしますぞ」
「エペルノン伯からの支援もあり着実に兵力は整いつつある。ロングヴィル卿とルアン卿のほうはどうなってる?」
ギュイーズが二人の大男のほうへ視線を向ける。この部屋にいる者たちの大半は大きく腹が前へとつき出したるんだ体をしているのに対し、その二人の体は大いに鍛えられていた。
ギュイーズたちは金や権力を駆使し、皇帝とつながりが強い騎士派の中で不満を持っていた彼ら二人を抱き込み兵力の増強を図ったのである。
「わが第3騎士団はすでに準備は整っております。前団長のリーナス殿が計画に賛同していることから全員参加を決めております」
「第17騎士団はもう少し時間が必要ですな。副団長をはじめ数名の幹部がいまだ皇帝に忠誠を誓っているため工作に時間がかかっております。近いうちに処分しますので少々お待ちください」
「うむ、よろしく頼みますぞご両人。国軍派のブルッセン連隊長も準備完了を伝えてきておる。われらの悲願達成の日も近い」
彼らの返事にうなずくクロムウェル。ほかの者たちもみな満足げな顔で笑いあったり、ワインを飲んだりしている。
彼らがその場に突入したのはその瞬間であった。
「全員動くな!国家反逆罪の現行犯で逮捕する!」
「な!親衛隊だと!?」
「そんなばかな!警備の者はどうした!それに何かあれば宿の支配人が連絡を入れるはずではっ!?」
突如室内に突入してきた親衛隊たちにより瞬く間に包囲された彼らは口々に叫び声を上げる。そんな彼らの前に悠然と姿を現すものがいた。
「警備の者は一足先に帰宅したよ。あとお前たちに抱き込まれ賄賂をもらっていた支配人、いや『元』支配人はすでに捕えてある。さて、何か言うことはあるか?」
「な、陛下!?」
「なぜこのようなところへ!?」
慌てふためく貴族たちに満足したのだろう。笑みを浮かべながらカールは答えた。
「いや何。わが友人から今日この部屋で何やら面白いものが見れると聞いてな。マードックとともにきてみたんだ。そうだな?ギュイーズ公爵」
「その通りでございます陛下。お楽しみいただけたでしょうか」
皇帝の問いに手もみをしながら答えるギュイーズ。それを見た貴族派の面々は次々に罵声を浴びせる。
「き、貴様!われらを売ったのか!?」
「馬鹿な!貴様もただでは済まんのだぞ!?」
「ち、違うのです陛下!これはギュイーズめの策略!われらは無実です!」
「高等法院に連絡を!何もこの場で逮捕せずとも高等法院で真偽を明らかにしましょうぞ!」
そんな彼らの主張を笑いながら聞いていたカールは、最後の発言をしたクロムウェルへと視線を向ける。
「つまりお前は高等法院でなら無実を証明できると?高等法院次長殿」
「もちろんですとも!われらは司法をつかさどるもの。決して不正などなく、公正に物事を裁きます。もしこの場に高等法院長がいれば同じことを申すでしょう!」
「だ、そうだが。どうなんだ?エムリよ」
「フム、わしが聞いたところこやつらが反逆を計画していたのは間違いないですな。わざわざ高等法院にかける必要もありますまい」
クロムウェルの必死の主張はその場に現れたエムリ高等法院長の言葉によって打ち消される。カールは念入りに各方面と連絡を取り合い、絶対にこの場を押さえ逃がさないと覚悟を決めてきた。もはや彼らに逃げ場はないのである。
「貴様らの計画はおしまいだ。余並びにガルーダに対する反逆、決して許しはしない。相応の覚悟を決めておくことだ。そうそう、エペルノン財務卿にロングヴィル、ルアン両騎士団長、貴様らは公費横領やその他もろもろの罪が追加されているからな。まず家は取り潰しだと思っておけ。」
厳しい顔でそう言い捨てるカール。連れて行け、とマードックが指示をだし、その場の全員が拘束され連れ出される。そしてギュイーズも例外ではなかった。
「な、何をするお前たち!わしは陛下との取引で此度の罪は無効となったのだぞ。わしまで拘束してどうする!陛下、陛下からもご説明を!」
しかしギュイーズの頼みをカールは鼻で笑い飛ばす。
「はて、マードック。余は何かこの者と取引をしたのだったかな?」
「いえ、陛下はこやつとは何も話しておられませんでした」
「うむ、そうだろう。余も覚えがない。エムリよ、おぬしはどうだ」
「陛下のように清廉潔白な方がこのような下郎と取引などするはずありますまい。ただのたわごとでしょうな」
「なっ!?ビスマルク貴様!裏切るつもりか!?お、おのれぇぇぇ!」
「いい加減貴様の声も聞き飽きたな。連れて行け」
両脇を親衛隊に押さえられながらギュイーズが連れ出される。それをカールたちは見送り、
「何とか未然に防ぐことができたか。よくやってくれたなみんな」
「陛下こそ、此度はお疲れ様でした」
と、互いの労をねぎらいあった。
時を同じくして第3、17騎士団兵舎に近衛隊が突入。一時は全員拘束されたが第17騎士団に関しては団長以外関与が認められず翌日には解放され、第3騎士団は解体が決定。団員たちは鉱山労働に就くことが決まった。
バルカン王国との国境付近に駐留しているバルカン方面軍第5連隊指揮官、ブルッセン伯爵も憲兵隊の手により拘束され帝都へ移送。その後ギュイーズらとともに正式に処刑が決定され、帝都の中央広場にて刑が執行された。
これにより、貴族派の計画は完全に潰えたのである。
貴明が出なかったのは初めてかもしれない……。