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騒々しいひそかな謁見

ぐあああぁ!週一更新できなかったぁ!

みなさん大変お待たせしました。少々遅くなりましたが投稿です。

 ギュイーズ公爵邸に賊が侵入したとの報告を受けた神聖ガルーダ帝国主城、ガーランド城の一角にて。


「いたか!?」


「いや、こっちにはいない!」


「隊長、3班が東第2区画にて怪しい人影を目撃とのことです!」


「よし、2班と6班は私とともにこい。いいか、何が何でも見つけ出すぞ!このままではわれら親衛隊の面子は丸つぶれだ!」


『おう!』




 ところ変わってガーランド城最上階皇帝私室。30がらみの大男と50過ぎの白髪の老騎士が対面していた。


「申し訳ありません陛下。依然近衛隊と連携しつつ捜索を続けておりますが未だ発見できておりませぬ。やはり陛下のお側に護衛を残さなければ」


「かまわんさマードック。おれの警備はいつも通り衛兵に任せておけばよい、お前は親衛隊総長として一刻も早く賊を捕縛せよ。このままでは皇族近衛隊と皇帝直属親衛隊の名折れだぞ」


「……かしこまりました。何かあればすぐに駆けつけますゆえご安心を」


「ああ、期待しているぞ総長殿」


 マードックと呼ばれた親衛隊総長は一礼すると皇帝の私室から出ていく。それを見届けた後、陛下と呼ばれたその男は城の最上階である自室の窓を見やる。


「ここまで侵入できたのは見事だったが詰めが甘いな、城中大騒ぎだぞ。マードックにすら気配を気づかせなかったのは見事というほかないが」


「あんたが城の警備をがっちがちにかためてなきゃ見つからずにすんだんだよ!ヨハンの爺さんにいつも通りの警備にしておけって言われなかったのか?」


 マードックがいなくなったのを確認してから窓を乗り越え部屋へと入る貴明。予想外の警備の厚さに思わず文句がこぼれる。侵入時は覆面をかぶり魔術や体術、マジックアイテムにものを言わせて全力で侵入したにも関わらず、それでも発見されたことに内心ショックを受けている。


「あえて緩くするな、とは言われたな。そもそも我が家に侵入者が来るとわかっているなら戸締りをするのは当然だろう?この身が皇帝ならばなおさらだ」


「普通の皇帝は自室に侵入者がいるのに親衛隊を部屋から追い出したりしないだろ……」


 貴明が疲れた様子で話す相手こそ、神聖ガルーダ帝国皇帝カール・ガルーダ・ビスマルク5世その人である。ビスマルク家の特徴である赤い髪を短く切りそろえ、その体は長身の貴明よりもさらに高くがっしりしている。


「なに、これでも若いころはヨハン殿の指導を受けた身だ。レベルはもちろん腕にも覚えがあるぞ?」


 そういえば小さかったガリウスと模擬戦したこともあったな、とカールは笑いながら自らの過去を語る。先代皇帝のビスマルク4世が在位中カールはヨハンのもとで指導を受け冒険者として活躍していた。即位した今も指揮官として戦場に出ることもあるため、今ではレベル151、双剣を使わせたらガルーダ随一とも言われている。


「……無駄話をしていたらさっきの親衛隊が戻ってくるな、要件を済ませよう。帝国議会常任議員にして貴族派の重鎮、ギュイーズ公爵の私邸から見つかったものだ。あんたも探してたんじゃないのか?」


「ラービア連邦人違法奴隷の売買に公金の横領、司法関係者に対する賄賂まであるのか。おれががさ入れしたときは全く証拠がなかったのにどうやって見つけたんだ?」


「聞いたら素直に教えてくれたぞ?自分の両手両足がミンチになる様子を見せたら聞いてないことまで話してくれた」


「その発想はなかったな、今度から参考にするとしよう。……うむ、どれも証拠として問題なく使えるな。この件の報酬はヨハン殿の言っていた通り…」


「ああ、ガリウスたちの身の潔白の保障やこの件に関するすべてのアフターケアを頼む。それからこれは公爵の口頭説明だけで物的証拠はないんだが…」


 貴明はギュイーズから聞き出した貴族派の計画について説明する。それは奴隷売買やその他裏ルートで集めた資金で軍備を整え、帝都内で一斉に蜂起するというものだった。


「聞いたところによると高等法院次長に財務卿、バルカン方面軍第5連隊長、帝都守備軍所属第3、第17騎士団長も関与しているらしい。証拠となる連判状は財務卿が持ってるそうだ」


「……思いの外大物が釣れたようだな。しかし物証がそれだけでは少し弱い…。ギュイーズ公爵は今どんな状況だ?」


「ヨハンの家で拘束している。刻んだ体は治癒魔法で回復させたから傷跡ひとつ残ってないよ。やつを使うのか?」


「ほかの連中を捕縛するのに協力することを条件に恩赦を出す。さすがに家の取り潰しは避けられんが身分はく奪の上で国外追放ということにしておこう。……表向きにはな」


 もちろんそれですむはずはない。彼らが計画していたことは国家反逆罪なのだ。ギュイーズは追放されることなく秘密裏に処分されるだろう。


「わかった、3日以内に公爵と話をつけてくれ。ギュイーズ邸襲撃の知らせを受けて先走るやつがいないとも限らない。帝都ではいろいろやりたいことがあるから内乱はごめんだぞ」


「わかってるさ、ここから先はおれの専門分野だ。今週中にけりをつけよう。お前はその間に冒険者登録やら用事を済ませるといい」


「了解した。今話さなければならないことはこれくらいかな。ああそれと、最初にあったとき頼まれたことだけど丁重にお断りさせてもらうよ。そういうのは面倒だ」


「なんだつまらん。別に配下に加われと言ってるわけではないんだ、それくらい融通を利かせろ」


「ほほう、陛下はそこの御仁にどのような頼みごとをされたのですかな?」


「いやなに。おれと一度全力で戦うことを求めただけだ。彼のレベルを見て冒険者としての血が久しぶりに騒いでな。お前とて強者との戦いは楽しいものだろうマードック。……いつからそこにいたのだ、マードック?」


 いつの間にか部屋の中の人数が増えていることに気が付いたカール。そちらを振り返ることはしないが彼が放つ凄まじい怒気には気づいているのだろう、しきりに汗をかいている。ちなみに貴明はマードックの入室に気づいてはいたが、己に敵意が向けられていないことを感じると気にすることなく会話を続けていた。


「『なに、これでも若いころはヨハン殿の指導を受けた身だ』からでございます陛下。いくらなんでも陛下の護衛をつけないわけにもいきますまい。それに今日に限って警備を特1級警戒態勢にしろ、などといきなり言われては何かあると思いまして。……案の定でございましたな、何か言い訳はおありですかな?」


「待てマードック、わが騎士よ。彼は余の協力者であって怪しいものでなく警備も必要ないと思ったまで、いやそもそも余は貴様に侵入者を見つけ出すよう命じたはずだ己が使命を全うしろ親衛隊総長!」


「これは異なこと、その侵入者は陛下の目の前におられるではないですか。わたしは与えられた命令を遂行したまでです。……申し遅れた客人よ、私は皇帝陛下直属親衛隊統括総長を務めるマードックという。名を聞いてもよいか?」


「ギルドマスターのヨハン殿の紹介でこの場に参りました貴明と申します。このたびの主城に侵入するという暴挙、まことに申し訳ありません」


「なんの、あの警備を潜り抜けた猛者だ。それにヨハン殿の推薦と陛下が許可しているのなら問題はあるまい。一応ヨハン殿から内密に使者が来るという話は陛下からうかがっていたしな」


「……なぜおれに使わぬ敬語をマードックに使うのだ?」


 釈然としないカールが1人つぶやいた。




「なるほど、事情は理解しました。ヨハン殿の屋敷には私の部下を向かわせましょう。陛下は…」


「おれは貴族派の連中をけん制しておくさ」


「かしこまりました」


マードックとカールが今後の予定を立てる。今後は貴明にできることはないのでこの場を去ることにした。


「それじゃ俺は帰るよ。あとは頼んだ」


「おう、今回は助かった。ヨハン殿にもよろしく伝えてくれ」


「それでは私も部下に指示を出しに行きましょう。警備体制の見直しもせねばなりませんし。貴明殿はともに来るといい、ヨハン殿の屋敷まで馬車で送ろう」


「……なんかいろいろとすみません」


 厳戒態勢下で侵入を許すというのはさすがに看過できないのだろう。結局馬車につくまで貴明はマードックに今回の侵入経路や警備の穴についていろいろ質問攻めにされた。




「貴明さんお帰りなさい!御無事で何よりです!」


「……出迎えてくれるのはサーシャたちだと思ってたんだがなユリウス君」


「さすがに夜も遅いですからね。メイドさんたちが寝かせたようですよ」


「子供たちも今日は馬車での移動で疲れているからな。それに貴明はまだマシだ、俺たちはじじいに出迎えられたんだぞ」


 ヨハンの自宅に戻った貴明を出迎えたのはユリウスと少し疲れた様子のガリウスだった。ガーランド城ではいろいろと精神的に疲労したため、子供たちの出迎えで癒されようと密かに考えてた貴明の願いはここに潰えたのであった。


「アホなこといっとらんでさっさとギュイーズを引き渡さんかい馬鹿どもが」


 そんな貴明たちのやり取りを見ていたヨハンが呆れながら姿を現す。その背後には貴明とともにここへ来た親衛隊の面々が続いている。


「今回はお世話になりましたヨハンさん。公爵は何かしゃべりましたか?」


「いや、お前さんたちが聞き出した以上のことは何もなかったぞい。今後どうするか、陛下は何か言っておったか?」


「その件は後程説明します。とりあえずこの件に関して俺たちにこれ以上できることはなさそうですね。あとはビスマルク5世からの報告待ちとなりそうです。それはそうと例の女の子のことですが…」


 貴明は公爵邸にいた少女のことを聞く。可能性は低かったが公爵の仲間である恐れもあったため、ここへ運ぶ時も拘束したままだったのだ。


「公爵邸にいたというあの娘じゃな。今は個室で休ませておるよ。どうやら本当に奴らにとらわれた奴隷で間違いなさそうじゃ」


「すでに拘束を解いてこちらの正体、目的も伝えてある。お前にもお礼が言いたいそうだから明日…、いや今日か。とにかく朝になったら挨拶に行くといい」


ヨハンとガリウスが貴明の問いに答えていると、ヨハンの執事と親衛隊員がギュイーズを連れてきた。相変わらず完全に拘束され、尋問が終わるとまた気絶させられた公爵を親衛隊員が護送馬車に乗せる。


「それでは公爵はこちらで引き受けます。ヨハン殿並びに皆様にはこのたびは大変お手数をおかけしました。あとのことはお任せください」


 部隊を連れてきた親衛隊隊長が敬礼する。


「うむ、陛下やマードック殿にもよろしくのう」


 彼らを見送ると、ようやくみんな肩の荷が下りたといわんばかりにみなため息をつく。


「おぬしたちも今日はご苦労だったの。ゆっくり休むがよい」


 ヨハンの言葉に貴明たちはうなずく。こうして彼らの長い夜は終わりを迎えた。


あと2、3話で公爵編も終わりです。やっと冒険者編が始められる!

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