ギュイーズ公爵邸襲撃作戦 作戦会議
投稿時間が少し遅くなりました。難産でしたが投稿します。それではどうぞ!
某日午後1時、帝都内のとある屋敷にて。
「商隊は今どのあたりだろうか?」
1人の男が自室の窓から外を眺めつつ、傍らにいる執事に声をかける。
「そうですな。予定通りならばすでにグスタフ大森林を抜けているでしょうから、おそらく帝都まであと1日の距離までは来ているでしょう」
壮年の執事は主である男に頭を下げながら答える。それを受けて貴族であるその男は口元に薄い笑みを浮かべた。
ギュイーズ公爵。それがこの男の名前だった。神聖ガルーダ帝国内における派閥、「貴族派」に所属する有力者であり、領地に戻れば1万の軍を動員できる力を持ち、帝都内にあるこの屋敷にも常備私設軍500名が常に駐屯することを許可されている大貴族だ。
「くく、今回の商品はかなりの上物だと連絡があったからな。早いところこの目で拝みたいものだ。お前もそう思うだろう?」
ギュイーズ公はそう言い視線を室内へと向ける。
『………』
その先には鎖につながれた奴隷の少女がいた。きれいな身なりをしているが、体のあちこちにある青あざが今までどのような扱いを受けてきたかを物語っている。
その少女はギュイーズを睨みつけていた。もとはすぐに売り払われるはずだった平民奴隷なのだが、あまりの美しさに売り払うのが惜しくなりギュイーズが手元においていたのだ。しかしいくら躾けても一向に従順にはならず、一度は無理やり処女を奪おうとしたがその時思い切り噛みつかれてしまった。
かといって鎖や猿轡で拘束した奴隷を犯すというのも趣味に反するし、初物が何よりも好きという性癖であったため通常の性奴隷調教師(調教術師ではない)に任せることもできず、ギュイーズは手元において1月経つ今となってもいまだ手を出せずにいた。
「ふん、そう睨んでいられるのも今のうちだ。こちらがいつまでもやさしくしていると思うなよ。今夜貴様は調教術師によって洗脳させるのだからな!」
ギュイーズはニヤリといやらしい笑みを満面に浮かべ、手に持っていたワインを飲む。
本来調教術というのは野生の魔獣や、馬や牛といった人の役に立つ動物に対して使われるのだが、調教術のスキルレベルが70を超えた調教術師は奴隷身分の者に対して調教することが可能なのだ。それはやろうと思えば術を掛けられた者の人格を根本から崩し、所有者に都合のいいように変換することまでできる。さすがにそのレベルになると調教術のレベル、熟練度ともに最大でないと不可能だが、それでもおとなしく、従順にさせることは大変容易なのだ。
ではなぜ今までギュイーズがそれを行わなかったかというと、術をかけると体の一部に隷属の契約を結んだことを示す紋章が浮かび上がってしまうためだ。奴隷の体にこれがあると、その所有者は「奴隷ひとり躾けられない小物」として周りから馬鹿にされてしまうのである。
今まではこの少女をほかの貴族に自慢しようと自粛していたが、この際自慢はあきらめ徹底的に屈服させることをこの男は選んだ。
しかしそれを聞いてもその少女は表情を崩さず、気丈にギュイーズを睨み続けた。
「しかしリーナス。本当に馬車の護衛は50人もいったのか?ただでさえ今は兵が必要なのだ。貴重な私兵を1兵たりとも損なうことは許されんのだぞ。やはり危険でも冒険者どもを使ったほうがいいのではないか?どうせばれても以前のようにごまかせるだろう」
部屋を出たギュイーズは背後にいる執事に話しかける。リーナスと呼ばれた執事は相応に年を取っていたが、それでも服の上からでもわかる引き締まった体は彼が相当な実力者であることを物語っていた。事実リーナスはかつて騎士団長を務めていた男であり、レベルも143である。高齢のため引退した後、かねてより懇意にしていたギュイーズ公のもとで護衛兼執事として働いているのである。
「問題はございません。むしろこれ以上冒険者を使うのは危険すぎます。皇帝の傍に送り込んだ間諜の報告では、ビスマルク5世とギルドマスターの間にごく個人的な繋がりがあるのは間違いございません。そうなればどのようなものを護衛として送り込まれるか分かったものではありません」
リーナスはそういってギュイーズをなだめるが、それでも心配らしく食い下がる。
「そうは言うがな。グスタフ大森林の魔獣どもに襲われでもしてみろ。いくら馬車道は比較的安全とはいえあくまで“比較的”でしかないのだぞ?私の直属も付けたとはいえあの森の魔獣は強い。高ランクの冒険者パーティにでも頼まねば撃退は不可能だ!」
ギュイーズはヒステリックに叫ぶ。しかしそれでもリーナスは動じずに返す。
「大丈夫ですよ旦那様。今の構成なら魔獣相手におくれを取ることはありません。それよりも今は雇った傭兵どものほうを注意すべきかと」
そういわれギュイーズは薄く額に浮かんだ汗をぬぐいながら頷く。
「う、うむ。確かにそうだな。やつらとわし等の繋がりは残しておらぬだろうな?」
「もちろんです。あと500人も集めれば十分でしょう。皇宮の連中の驚く姿を見るのももうすぐですよ」
そういってリーナスは冷酷な笑みを浮かべる。ギュイーズも同じ笑みを浮かべ、
「そうだな。皇帝のその姿を見ることができなさそうなのが心残りだが、いまさら四の五の言ってられん。ことが成れば我々の栄華は約束されたも同然なのだ!」
と叫ぶ。彼らの計画は着々と進んでいた。
「おお、よく来たなガリ坊。待っておったぞ」
「…ギルドマスター。俺がAランク冒険者になった時からずっと言っているが「坊」はやめてくれ。あなたに子供のころから世話になっていたのは確かだが、俺だってもういい大人なんだぞ?」
「なーに言っとるんだ若造が。たかがAランクで偉そうなこと言うでないわ。お前さんなんぞワシから見たらいつまでたってもガリ坊で十分じゃ!」
帝都ノールに着いてから1時間後の午後7時。街は火の魔法が込められた魔法石によって明るく照らされ、住民たちは家に帰り家族とともに夕飯を食べる時間だが、降りしきる雨でそういった生活の音は耳に届かない。そんな中貴明達はガリウス先導のもと、冒険者ギルド神聖ガルーダ帝国本部ノール会館の長を勤めるギルドマスター、ヨハン・ベルナルドの屋敷へとたどり着いた。
そこで待っていたのは伝書鳩により事前に連絡を受けていたヨハンの手厚い歓迎であった。貴明が聞いたところによると、ガリウスはとある事情で子供のころからヨハンの屋敷で孫同然のように育てられたらしい。
御年82歳のヨハンだが、かつてはSランク冒険者でありレベルは172。当然ガリウスに戦闘の訓練を行ったのも彼であり、ガリウスは全く頭が上がらないとのこと。
しばらくヨハンにおとなしくいじられていたガリウスだが、仲間にその様子を見られる羞恥に耐え切れずついに爆発する。
「ええいこのくそじじい!いつまでも子ども扱いするな!アンタの元から独り立ちするときに約束しただろうが!!」
日頃の落ち着いた雰囲気は完全になりを潜め、ガリウスががなり立てる。そのあまりのギャップに貴明を含む全員が硬直する中、
「がははは!ようやくいつもの調子に戻りよったわい。外でどのように振る舞おうがお主の勝手じゃが、家にいるときくらい気を張るのはやめぃ」
ヨハンは大笑いしながらガリウスの頭をガシガシ撫でる。ガリウスはおとなしくそれを受け入れながら「気を張ってるわけじゃないんだが…」とぼやいてた。
ガリウスで遊ぶのをようやくやめたヨハンに連れられ、一行は屋敷の大食堂へと入る。この時すでに子供たちは屋敷のメイドによって着替えさせられ、奴隷商人は地下の拘置所へと投げ込まれている。
「さて、まずは挨拶といこうかの。お主ら冒険者組は知っておろうが、ワシは冒険者ギルドガルーダ地区総括ギルドマスター、ヨハン・ベルナルドじゃ。お主らの事情はわかっとるから気軽にして良いぞい」
その後は夕食となり、日頃は食べられない豪華な料理にみんな笑顔になりながら舌鼓を打つ。そんな中貴明は、ガリウス、ユリウス、グレン、ヨハンと今夜の計画について話し合っていた。
「それでは作戦の要はお前さんというわけか。しかしわしが生きている間にレベル255のものに会うことになるとはのぅ。長生きはするもんじゃ」
「ちょっと待てじじい!あんたもしかしてレベル255が存在すること知ってたのか!?」
ヨハンが貴明を見ながらしみじみとつぶやくとガリウスが焦ったように質問する。もはやこの家ではヨハンに対し遠慮することをやめたようだ。
「もちろんじゃとも。わしだけでなくすべての冒険者ギルドマスターはしっとるぞい。なんせ冒険者ギルドの創設者がレベル255だったのだからのう。代々冒険者ギルドのギルドマスターとなるものは、その“到達者”が現れたら全力で支援することを至上の役割としている。ゆえに貴明、お前さんがレベルを隠して登録したいのなら協力するぞい」
極秘事項だがのぅ、とヨハンは付け足す。それも当然だろう。もしレベル255の冒険者が現れたら、国家やいろんな組織が欲しがるに決まっている。それを隠す規則が存在するなど、権力者が知れば圧力をかけるに決まっている。
「今は無理だが、登録が終わったらすべての冒険者ギルドマスターに面会できる紹介状を書いて渡そう。何かあれば頼るといい。じゃが気をつけよ。すべてのものが聖人君子というわけではないからの。中にはお前さんの情報を国家に売り渡すものがおらんとも限らん」
「大丈夫ですよヨハンさん。なんだかんだで身元の怪しい僕らを信用してくれた人ですよ。自分で言うのもなんですが、人を見る目はあると思います」
ヨハンの発言にユリウスがそう返すと、ヨハンは苦い顔でかぶりを振った。
「その判断が間違っていたとは言わんが早計なのも確かじゃ。まあ聞いたところの事情では冷静な判断ができないのもわかるが、お主はまだ若い。己の判断を過信することのないようにの」
そこまで話したところで、グレンが今夜の計画についてに話を戻した。
「それじゃ最後の確認でさぁ。おい!お前らも話聞いとけ!あ、いや。キミタチは気にせず食べてな」
グレンの大声に驚いてそちらを向く子供たち。何人かは涙目である。それに焦ってグレンがぎこちなくフォローを入れる中、貴明が作戦の決定事項を説明する。
「いいかみんな!俺たちは今夜0時、嵐に紛れてギュイーズ公爵の屋敷に潜入する。潜入経路はヨハンさんの部下が調べてくれているから問題ない」
メイドたちが大きな屋敷の見取り図を持ってきてくれたため、壁にそれを広げてもらい説明する。
「館は正門、裏門ともに厳重な警備を敷いているが、どうやらこの一角の警備が甘いようだ。よってここから侵入し、俺が地魔法の重力操作でみんなを屋上まで上げる。その前に俺が見張りの有無を確認するが、もし見張りがいれば速やかに殲滅、絶対に物音を立てさせるな」
貴明は館の5階部分を指でさす。
「館は5階建だ。この屋敷の明かりはすべて火の魔法石で照らされているが、屋敷の魔法石すべてに魔力を供給している装置が最上階のここ、屋上から屋敷に入る階段のすぐそばにある。俺たちはこれを破壊し、暗闇に紛れて目標を確保、および奪取する」
「制服を奪って変装するんじゃなかったんですか?」
仲間の1人が質問をする。
「最初はその予定だったが、どうやらやつら全員の顔と名前を憶えているらしい。変装は不可能だ。よって作戦は、俺とユリウス他3人でこの部屋、ギュイーズ公爵の自室に侵入し、公爵を確保。奴隷となった者たちの居場所と関係書類のありかをしゃべらせる」
そして5階と4階をつなぐ階段を指さし、
「残りはこの階段で敵の増援を待ち受ける。この階の階段は1つしかないから問題はないと思う。おそらく防衛上の理由だろうな。だがもしかしたら秘密の抜け道のようなものがあるかも知れないから常に警戒を怠るな」
と続ける。
「公爵が自室にいなかった場合も想定されるが、事前に貴明がサーチで敵の配置を確認するからそれをもとに探すしかないな。そうでないことを祈ろう」
貴明が口を閉じるとガリウスが引き継ぐ。
「脱出時も同じルートを使うが、この際敵を5階に引き付けるために派手に暴れておく必要がある。撤収時はじじいが用意した馬車を使いここへ戻る。追手が来たら面倒だから、敵の厩舎は魔法で破壊してから逃げよう」
そこでいったん言葉を切り、貴明に視線を送る。それに貴明は頷いて続きを話す。
「公爵は気絶させてからここへ連れ込み拘束しておこう。その間に俺は皇宮に乗り込み皇帝にじかに証拠を渡す。正式に捕縛令が出たら警邏の連中に引き取ってもらおう。ことが明らかになったらみんな冒険者に復帰することができる」
貴明が彼らを見回すと全員力のこもった凛々しい顔つきで見返してきた。子供たちも、ことの趨勢が気になり固唾を飲んで見守っている。
士気は問題ないと判断し、貴明は全員に出撃準備を命じる。ここを出るのは1時間後の午後11時。片道に1時間かかるためその時間となった。
各々が装備を確認しに食堂から出る前に、ヨハンがみんなを呼び止め気になることを伝えてきた。
「今まで公爵の資金の流れを追ってきたが、どうも奴隷売買の利益を公費や私物に使った形跡がないのじゃ。皇帝ににらまれておきながら危険を冒して奴隷の売買をしているのにこれは妙だのう。何かしらワシ等が知らん何かに使っているのやもしれん。ついでにそのあたりも探っておいてくれぬか?」
貴明は少し考えたのち、
「計画に支障が出ない範囲で探ってみます。最悪捕まえた公爵から聞けばいいですからね」
と答えた。
それきり会話は途絶え、貴明は緊張しつつ出撃の時を待った。
いかがでしたでしょうか。次回は屋敷に突撃します。どうぞお楽しみに!
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