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作戦決行 馬車襲撃戦 その3

この話で一応馬車襲撃戦は終了です。

「それじゃあみんなは、ラービア連邦の貴族だったんだね?」


貴明は馬車の中にいた3人の少女に確認する。みな等しく美少女だったが、その身にまとうぼろぼろの服と汚れきった体がその美しさを曇らせていた。


「はい。私たちの実家は各種族が再び手を取り合いラービア連邦に平穏を取り戻そうと活動してきました。しかしその動きが過激派に伝わってしまい家が襲撃を受けてしまって…。ほかの家族は殺され、私たちは奴隷としてガルーダのもとに向かっている最中でした」


ある程度の事情を聴いてみたが、やはりラービアの人間だったらしい。しかも貴明が思っているよりもよほど深い問題を抱えていた。


(どこの世界でもこの手の過激派はいるもんなんだな。20年も内戦していれば多くの血が流れただろうし、これで終わらせるべきだという人もいれば、絶対に許せない人もいて当然か)


この手の問題はかなり根深い事情があるため、一般論などで迂闊にどちらが悪い、とは言えないのである。


(でもだからと言ってこの子たちみたいな子が生み出され続けるのは何とかしないとだめだろ…)


そこまで考えてから、自分たちがいまだ自己紹介をしていないことに唐突に気付いた貴明は、


「言うのが遅くなってしまったけど、一応自己紹介しておこうか。俺は岡本貴明。19歳の…冒険者未満…かな?」


自分で言っていかに今の己の身分があやふやかに気付く貴明である。


「あ、そういえばそうでした!私はサーシャと申します。つい先月14歳になりました。家が断絶したため名乗る姓はありませんが…。ところで…冒険者、未満ですか?」


サーシャが不思議そうな顔で貴明のほうを見てくる。貴明が見たところ身長は150㎝ほど。腰まで届く長い髪で色は薄い緑。肌は色白で目が灰色だ。髪を除けばロシア人のような見た目だろうか。14歳の割には体のラインがはっきりしており、少し突き出した胸と引き締まった腰が見る者を魅了する。しかし投げかけられた疑問に答えられず軽くテンパっている貴明にその姿を堪能する余裕はない。


「…私はイリス…です。12歳です…」


「わ、私はナユタと申します。同じく12歳です」


貴明がサーシャの問いかけに窮し冷や汗をだらだら流していると、狐獣人のイリスとダークエルフのナユタが名前を告げてきたため、貴明はこれ幸いとそちらに逃げることにした。


「ああ、よろしく。もうじき俺の仲間たちが、ほかの馬車に乗せられていた子供たちを連れてくるだろうから、そっちと合流したらこの森を出よう。この件の首謀者の貴族を捕らえて皇帝の前に引き立てれば、もう君たちに手を出すものもいなくなるだろう。それまでもう少し我慢しててくれ」


改めて貴明は三人を見る。イリスは見たところあまり快活な性格ではないようで、こちらをちらちら見ながら押し黙っている。身長は140㎝ほどで、汚れてはいるが肩まで伸びるきれいな金髪にキツネ耳、碧眼、そしてお尻からはふさふさのしっぽがゆらゆらと揺れていた。体は年相応にほっそりとしていて、成人女性のような起伏は見られない。


ナユタは何となく理知的な雰囲気を出しているが、やはり年相応な幼さを残している。身長はイリスより少し低め、135㎝ほどだろう。短めの銀髪に黒い瞳、ダークエルフ特有の黒い肌と尖った耳をしており、成長したらメガネが似合いそうだなぁ、などと貴明は思った。しかし特別注視したわけではないのだが、どうやらナユタのほうがイリスよりも発育がいいようだ。彼女たちが着せられている薄いぼろ服の下から軽く押し上げる胸が貴明にそう思わせる。


サーシャは優しいお姉さんといった様子でそんな2人の面倒を看ながら貴明に対応する。


その様子を何となく微笑ましく思いながら、「ところで」と貴明。


「少し気になることがあるんだけど、この馬車に狼の子供か何か乗ってないかい?外から『サーチ』したときにそれらしい影が見えたんだけど」


貴明が問うと、サーシャとイリスが答えてくれた。


「あ、はい。ラービア連邦を出るときはいなかったんですが、森に入って3日目の昼ごろに兵隊さんが捕まえてきたんです。なんでも調教術師に渡して人間に従順になるようしつければ、莫大なお金が手に入るとかなんとか」


「…でも兵隊の中にいた調教術師は、なんか普通の魔獣と違うから無理かも、って言ってた。…今は馬車の中の檻に入れられてる」


その答えを聞き、貴明は今の自分たちがどれだけ危険な状況下にあるかに気づき愕然とする。


(グスタフ大森林で見つけた狼系魔獣だと?しかも普通の魔獣とは違うってことは、おそらくユニークモンスターだな。そんなのこの森ではあれしかいないじゃねぇか!)


この状況はまずいと、貴明は急いで馬車の中を捜索する。するとイリスのいう通り、奥のほうに頑丈な檻に入れられた狼の子供がいた。子供とはいえ中型犬ほどの大きさはあり、その毛並みは滑らかな銀色をしていた。


「くそ、やっぱり銀狼シルバーウルフか!ということは今頃親が血眼で探しているはず!」


貴明は檻ごと持って馬車から出る。おそらく中の狼と合わせて400㎏はありそうだったが、全術スキルポイント最大値かつ、カンストしたレベルの圧倒的なステータスの前では全く問題ない。その貴明の姿を見たサーシャたちは目を丸くしていたが。


「みんな俺の話をよく聞いてくれ。この狼はユニークモンスターだから、普通の調教術師じゃ絶対に調教できない強力な個体だ。しかも同族意識が強いから今頃この子供の親が必死になって森中を探している。しかも3日前ならそろそろ俺たちを補足している頃だろう。このままだと子供をさらったのは俺たちだと認識されてしまう」


貴明は檻のカギを長剣で壊してシルバーウルフの子供を外に出し、回復魔法をかけた後アイテム欄から「グレートボア」の干し肉を出して与える。グレートボアはシルバーウルフの大好物であるため、これを与えておくとシルバーウルフの警戒心が多少下がるのだ(あくまでFOEの設定では、だが)。


貴明がそれらの作業をしつつ状況を説明すると、少女3人は顔を真っ青にして貴明にしがみついてくる。


「ユ、ユニークモンスターって、シルバーウルフだったんですかこの狼!?しかもその成体が探してるって、襲われたらひとたまりもないですよ!」


「おお、ナユタよく知ってたなぁ!えらいえらい」


「た、貴明さん!そんな場合じゃないですよ!」


どうやらナユタはシルバーウルフの知識は持っていたらしい。あくまでイメージでしかないが、エルフやダークエルフというのは知識を重んじる傾向にあるのではないだろうか。そう考えながら貴明がナユタの頭を撫でていると、イリスはうらやましそうな目でナユタを見やり、サーシャは貴明の体を揺さぶって話を戻そうとする。あまり力がないのかほとんど揺れていなかったが。


一瞬ほのぼのしてしまったが、サーシャの言う通り今はそれどころではない。正直シルバーウルフ程度なら貴明は問題なく倒せるのだが、この場には戦うすべを持たない子供たちと、ともに戦うことを誓った仲間たちがいる。さすがに彼らにシルバーウルフの相手をしろというのは無理があるだろう。先ほどの彼女たちの反応を見る限り、この世界におけるユニークモンスターの存在はそれほどまでに大変な脅威として認識されているのだ。


改めて気を引き締める貴明たちのところに、ガリウス以下5名の仲間達がやってきた。


「やはりもう片付いていたか。子供達はユリウスに任せてアジトへ連れて行った。念話石で森を抜けたといっていたから心配はないだろう。…その狼はどうした?まさかシルバーウルフか?」


ガリウスは事情を説明した後、貴明の正面にお座りしている狼に気づいた。さすがに元冒険者(じきに「元」はとれるが)だけあってシルバーウルフを知っていたらしい。ほかの仲間たちもシルバーウルフと聞いて驚愕している。


貴明は現在の状況を説明しつつ、サーシャ達にガリウスらのことを紹介した。ガリウス達が自分達のような奴隷となる子供達を助けるために活動していたことを聞き、彼女達は皆彼らにお礼を告げる。ガリウス達はそれに答えつつも、あまりの状況の悪さに顔を顰める。


「あいつら相当面倒なことをしてくれたな。どうする貴明。このままこの子供を残して俺達は森を出るのか、親に引き渡すまで面倒を見るのか。このくらいの子供だと、ほかの魔獣に襲われかねないぞ」


この森は普通の魔獣でもかなり強いからな、とガリウスはいう。事実、このグスタフ大森林は南にある聖域、東にあるガリア砂漠に次いで魔獣のレベルが高く、Aランク冒険者が大規模パーティを組まないと探索するのが難しい場所なのだ。この森に関してはある程度馬車や人が行きかうルートがいくつかあり、それから逸れさえしなければ魔獣に襲われる心配はない。しかしユニークモンスターとはいえその子供を無防備に放置すればその限りではないだろう。


「このまま護衛しておこう。放置するのも危険だし、ある程度事情を説明しないとシルバーウルフがここを通る人間を襲いだすかもしれない。それに、もうお見えになられたみたいだぞ」


貴明がそう言い指差すと、その方向から体高3メートル、体長は5メートル以上ありそうな巨大な銀狼が姿を現した。




『我が名はオーウェンという。一つ聞こう。我が息子を連れだしたのはお前たちか?』


成体のシルバーウルフは念話でそう聞いてきた。FOEではユニークモンスターや強力な魔獣が500年以上の年月を生きると、念話により会話ができる、という設定があった。おそらくこの世界でもそうなのだろう。ちなみにユニークモンスターは話せない段階でも人の言葉を理解できるため、地域によっては神聖な賢獣として崇めている人々もいるという。


貴明はそのことを知っていたから驚きも少なかったが、それ以外のものからしたらたまったものではない。今まで人語を解する魔獣など見たことも聞いたこともないため、ガリウスすら例外なく口をあんぐりとあけて固まってしまった。


こうなることは分かっていたのだろう。1人だけ落ち着いている貴明を興味深げに見やる。


『お前はあまり驚いていないようだな。我らが月日を重ねた結果、人語を解するようになることを知っていたのか?それにお前からは尋常ではないほどの力を感じるな。おそらくレベルも100や200ではきかないのだろう?お主、名を何という』


シルバーウルフ、オーウェンから直接質問をされたため無視するわけにもいかず、貴明は無難に答えることにした。


「岡本貴明と申します。貴明が名、岡本が姓です。確かに俺はあなた方が念話を使われることを知っていました。レベルに関してもおっしゃる通りです。少々事情がありまして。そして最初の問いの答えですが、お子さんを連れ出したのは我々ではなく、そこで死んでいる者たちです」


そう言って奴隷商隊の死体を示し、事の次第を説明する。するとオーウェンはため息をつきながら首を振る。


『犯人を見つけ出したら食い殺そうと思っていたのだが先を越されてしまったな。まあ良い、よく我が息子を助けてくれた。この子はほかの兄弟より遅く生まれたため、まだひとりで生きていくことが難しいのだ。あまり目を離さないようにはしていたのだがな、この子ときたらすぐにどこかへ行ってしまうのだ』


オーウェンがそういい、ジロリと子供をにらみつけると、子供のシルバーウルフが居心地悪そうに貴明の後ろに隠れる。それを見たオーウェンは何かに気づいたような顔をして、貴明だけに聞こえるように念話を飛ばしてきた。


『お主から妙な気配がすると思ったが、聖域に舞い降りる神々の気配だったか。道理で妙に我が子に懐かれていると思った。お主、聖域の邪神を打ち滅ぼし、神々の恩恵を受けた者だな?おそらくその恩恵の中に、我ら太古の血族、お前たちの言うユニークモンスターを従える能力があるのだろう』


オーウェンに自分の秘密を看破された貴明は驚いたように、


「よく御存じですね!その通りです。とはいえ、いまだ一度たりとも仲間にできたことはありませんが」


と白状する。するとオーウェンがうんうん頷きながら説明した。


『おそらくその者達は我同様長く生きた者だったのだろう。お主の力は確かに神々に届くほどで我らよりも強力だが、長い時を生きた者はそれだけ己に強い意志を持っている。如何に強大な相手だろうと屈服はよしとしないだろうな』


そこまで言い切ったところで、だが、と繋ぐ。


『幼い頃より友誼を結んだ者なら話は別だ。確固たる信頼で結ばれた者に対しては、我らは永遠の友情を誓う。そしてお主は我が子を助け、そして我から逃げずに正面から真摯に事情を説明してくれた』


オーウェンは貴明の後ろで怒られるのをビクビクして待つ子供に対し、毅然とした、それでいて優しい顔で語りかけた。


『我が子よ。今回お前はこの者に助けられた。その恩は返さなければならない。この者が真にお前を必要としたとき、銀狼の力を必要としたときにすぐさま駆けつけられるよう、この者と主従の契りをせよ』


それを聞いた子狼は、貴明に向かって頭を下げる。貴明としても、シルバーウルフと友誼を結ぶのは初めてだったのでこれを承諾。名前をイルと名付け、調教術により主従の契約を行う。


『これにより、お主に何か困難があれば我が子に伝わるだろう。その時までこの森で立派になるよう我が躾けておくから安心してくれ』


そう言ってオーウェンはイルを伴い森へと消えていった。姿が見えなくなる直前、2匹の狼の遠吠えが森中に響き渡った。




「あーすまん貴明、結局どういう結果になったのか教えてもらっていいか?」


狼達を見送り、ようやく一息つけると振り返った貴明を待っていたのは、事態についていけず置いてけぼりを食らったガリウス達への説明だった。


ヒロインたちの名前が出てきました!皆さんはどの子がお好みでしょうか?僕はもちろんオーウェいえ何でもありません。

たぶんあと一人ヒロインが出たらしばらくは増えないと思います。まあ先の話ですから分かりませんが(笑)


誤字脱字、矛盾点、感想等ありましたらお願いします。

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