第3話:バトル!
僕は今まで、数々のモンスターと戦ってきた。スライムなんて、数え切れないくらい。
でも、こんな大きなやつは見たことない。自分の目でも教科書でも。
僕たちは、いつの間にかその巨大スライムに行く手をはばまれていた。通路をすき間なくふさいでいるそいつに。
「どうやら戦うしかないようだな」
「そうみたいですね」
僕は右手で剣を構えた。隣で魔王は素手のまま腕を組んで、余裕の表情を浮かべている。
「武器とか使わないんですか?」
「魔法のほうが得意だからな」
その言葉を聞いて少し安心したような気がする。魔王の部屋で初めて会ったときとは、まるで別人みたいだ。魔王が人かどうかはよくわからないけど。
「さぁ、ゆくぞ! はぁっ!」
魔王くらいのレベルになると、簡単な魔法なら呪文を叫ばなくても使える。学校の先生たちもそうだった。火の玉が一瞬のうちに襲いかかる。
スライムはあっという間に蒸発していった。でもそれは一部だけ。その巨大スライムはまだまだ奥のほうまで続いているようだ。
「これでは埒が明かんな」
「こんな大きいの、初めてですよ」
「迷宮に潜んでいたたくさんのスライムたちが、長い時間をかけて合体していったのだろうな」
僕は思いきって斬りかかった。
それほど力を込めたつもりはなかったけれど、スライムの体に小さな切れ目が入る。
ところが次の瞬間、その切り口はみるみるうちに消えていってしまった。
「こいつは何度斬っても無駄なようだな。すぐに再生してしまう」
魔王が言った。小さいスライムなら、一刀両断にしてしまえば戻ることなんてない。でもこいつは違う。この巨体を真っ二つにできるような大剣があれば別だけど。
「じゃあ、どうすれば?」
「魔法は使えないのか?」
「やってみます!」
僕は目を閉じて、右手の指先に意識を集めた。
「サンダー!」
雷が、空気を切り裂くようにスライムを襲う。息をする暇もないほどの間にその体を一直線に駆け抜け、貫通した。後に残されたのは体を突き抜けた小さな穴。
しかしやはり、その穴もみるみるうちに消えていった。こんなんじゃ、いくら攻めてもキリがない。
「……ダメかぁ」
自然とため息がこぼれてしまう。
「こいつは諦めて、別の場所を探したほうが良いのではないか?」
「でも……」
僕はペンダントを魔王に見せた。まるで燃えるように輝くそのペンダントを。
「こんなに光が強くなってるってことは、すぐ近くにあるんだと思います。多分、こいつを倒した先に」
「……なるほどな。ならばこいつを消し去る方法を考えなくては」
考え込む魔王。僕はスライムはが徐々に近づいていることに気がついた。動きが遅いから良かったものの、こんなのに取り込まれて窒息死なんてたまったもんじゃない。
「炎とか雷で地道に消してくしかないんじゃないですか?」
僕は一歩ずつ後ずさりしながら言った。
「しかし、そこまで魔力が続くのか?」
魔王の言うとおりだ。僕はもともと魔法が得意なほうじゃないから、きっと途中で力尽きてしまう。
僕たちは一歩ずつ、入り口のほうへと押し戻されていた。
冷静になれ、と自分に言い聞かせながら、今まで授業で習ったことを必死で思い出してみる。何か有効な手段はなかっただろうか。
この巨体に剣で立ち向かっても、無意味だろう。すぐに再生してしまうから。魔法なら少しは減らすことができる。でもそれじゃキリがない。もっと強力な魔法があればなんとかなるんだけど……。
「あ、あの、魔王さん」
考え込んでいた魔王は、驚いた顔でこっちを見た。
「何か思いついたのか?」
「いや、えっと……もっと強い魔法使えないんですか?」
僕は尋ねた。さっき魔法が得意って言ってたはず。
「使えるが……ここで大爆発なんか起こしたら大変なことになるだろう」
僕たちは再び沈黙した。
どうやら魔王は炎の魔法が得意らしい。さっきも火の玉を出してたし。
僕の友達にも、炎が得意な女の子がいた。ルファという名前の子。気が強くて、僕はよくその子に振り回された。
そういえば、こんなことがあった。ルファと2人で森の中で迷っていると、僕たちはモンスターに遭遇してしまった。巨木に魂が宿ったやつ。トレントって呼ばれている。僕や彼女の力では太刀打ちできる相手ではなかったけれど、僕たちはそいつを倒すことができたんだ。どうやって勝ったんだっけ……?
「そうだ! 僕が合図したら一緒に魔法を放ってください!」
僕は叫んだ。
「何かひらめいたのか?」
「はい。うまくいくかはわかりませんけど……」
やってみるしかない。あのときと同じように。
「よし! いきますよ!」
僕は一度目を閉じて、心を落ち着かせた。
「せーの……サンダー!」
「はっ!」
2つの声が重なり、それは2つの魔力となってスライムを襲う。
そして次の瞬間、僕の雷と魔王の炎がぶつかり合い、それは大きな炎の矢となって一直線に飛んでいった。
2つ以上の魔力をぶつけると、それが反応し合って別の魔法になることがある。『合体魔法』という協力技だ。あのとき、僕とルファはこんな風にしてトレントを倒した。
炎の矢は奥へ奥へと進んでいく。スライムを蒸発させながら。
矢が消える頃には、スライムは跡形もなくなっていた。
「や……やった!」
僕は無意識のうちに拳を振り上げていた。
「な……何が起きたんだ?」
魔王は混乱しているようだ。自分の手とスライムのいたほうとを何度も交互に見ている。
「合体魔法っていうんです。初めて見たんですか?」
魔法の得意な魔王が合体魔法をしらないなんて、ちょっと意外だった。
「魔族は協力して戦ったりしないからな。みんな自分の力を出し切るのみだ」
少し寂しそうな顔。魔王は魔族だけど、心は人間に近いみたいだ。
「おい、何か光るものが落ちているようだが……」
魔王にそう言われ、僕はスライムのいた辺りを見た。そこには確かに、光る石……クリスタルがあった。
駆け寄って手にとってみると、その小さな宝石はまるで夜空の星みたいに輝いていた。
「やっと見つけた……」
僕はそれを腰につけた皮袋に入れた。もっと大事に保管すべきだろうけど、今はこれしかないからしかたがない。
ペンダントの光はいつの間にか消えていた。すでに手に入れたクリスタルには反応しないらしい。
「まさかスライムの体内にあったとはな。探す手間が省けたではないか」
僕は笑顔でうなずいた。
そして僕たちは、出口へと歩き出した。
戦闘シーンはとても難しかったのですが、頑張って書いてみました!!上手く伝わると良いのですが…。。






