第2話:魔王のココロ
「ここが地下迷宮の入り口だ」
重そうな扉の前で、魔王が言った。
ペンダントを見ると、さっきより光が強くなっている。
どれだけ長い間使われていなかったのだろうか。うっすらと残った模様が、この扉の古さをかもし出している。よく見てみると、この扉には取っ手がないようだ。
「これ、どうやって開けるんですか?」
すると魔王は急に自信たっぷりの顔つきになった。
「ふふふ、見ておれ。……はぁっ!!」
すると、扉にあてた魔王の両手が輝きだした。
その光は次第に明るさを増し、扉を包んでいく。
僕はそのとき初めて魔王を魔王だって少し認めた気がした。
そして消えていく光とともに扉が……
開いた。ホントに開いた。僕は魔王にばれないように心の中で驚いた。きっと失敗するだろうって思ってたことは言わないでおこう。
「すごいですね!」
「と、当然であろう!」
そう言いながらも、魔王は僕に気づかれないように小さくガッツポーズをしてた。
扉の向こうには、ただただ真っ暗な闇だけがあった。どれだけ覗き込んでいても、奥のほうは見えないままだ。唯一わかるのは、その道があまり広くないということくらい。
「さぁ、行くぞ」
そう言ってすたすた歩き出す魔王。さっきから少しカッコ良くて変な感じだ。
しかし、すぐにまた立ち止まってしまう。
「お前、何か明るくする魔法は使えないのか?」
僕が今まで習ってきたのは主に雷の魔法だ。その応用で、光の魔法も少し習ったことがある。初級のやつだけだけど。
「たぶん……簡単なやつなら」
気を集中して指先に力を込める。学校で教わったことを、僕は忠実に再現した。
「ライト!」
そう叫ぶと、僕の手の平の上に小さな光の球が生まれた。小さいと言っても足元を照らすには充分な明るさだ。
「ふむ……なかなかやるではないか」
魔王は感心しているみたいだけど、僕の友達でもこの程度の魔法が使える人は結構いる。
僕たちは再び歩き出した。少し進むと地下へ続く階段があった。
「そういえば、魔王さんの名前って何ですか?」
階段の途中、僕はふと気になって聞いてみた。
「……聞きたいのか?」
魔王は歩きながら、表情も変えずに言った。
「え……ダメですか?」
すると今度は立ち止まり、ゆっくりと僕のほうを向いた。さっきよりも真剣な顔つきが、薄暗い中にかろうじて見える。
「本当に聞きたいのか? やめておくなら今のうちだぞ?」
何かまずいことでもあるんだろうか。遠回しに……というかほぼ直接的に、聞くなと言っているような気がする。
「やめろって言うならやめますけど」
いったい何なのだろう。名前を知った者は近いうちに良くないことが起こる……とか?
「お前がどうしたいのかを聞いておるのだ」
そう言われたので、僕は勇気を出して聞いてみることにした。
「なら、知りたいです」
それから、少し沈黙が訪れた。魔王は何か考えているような、迷っているような顔をしていたけど、やがて口を開いた。
「……プーチャンというのだ」
「ぷ、ぷーちゃん!?」
「こ、こら! ひらがな表記は禁止だ!!」
「……え、なんですかそれ」
「えぇい何でもない! とにかく先を急ぐぞ!」
プーチャン……というか魔王は、急に早足で歩き出してしまった。大人の事情ってやつなのかな?
長い階段を下りると、すぐに道が右左に分かれていた。どちらも暗闇で奥がどうなっているのかはわからない。
「どっちに行くんですか?」
「うぅむ……とりあえず左に行ってみるか」
僕たちは左の道を進むことにした。
石造りの壁はでところどころ欠けていて、少し背伸びして天井に光を当ててみるとクモの巣がいくつも目につく。空気は埃っぽいし魔物の気配も漂ってる。こんな気味の悪い場所、今まで見たことない。
「うぉっ!!」
魔王が急に僕の視界から消えた。驚いて下を見てみると、そこにはうつぶせになった情けない姿。そして……ちょっと大きめの石ころ。
「だ、大丈夫ですか?」
「く……こんなところに石が落ちているとは。あいつの仕業に違いない」
起き上がったのはとても怖い顔。魔王のプライドってやつだろうか。
「あいつって、誰ですか?」
「ピクシー。……生意気な小妖精だ」
ピクシー……いたずら好きの妖精で、いつも人間を困らせている。でも、その程度。それほど害のある魔物じゃないって先生が言ってた。
「……見つけたらただでは済まさんぞ」
たかがいたずらなのに、あんまり仕返ししたらピクシーがかわいそうだ。でも、この怒った顔を見たらそんなこと言えなかった。
魔王は几帳面すぎるくらいに、服についた埃をはらってから、
「さ、気を取り直して行くぞ」
そう言って、また歩き出した。
奥に進めば進むほど、迷宮は不気味になっていく。無事に帰れるのかと不安になってしまう。
「お前の学校は、どんなところだったのだ?」
急に尋ねられ、少し戸惑ってしまう。
「えっと……緑がいっぱいで、楽しいところでした」
「そうか……」
魔王はそれ以上何も言わなかった。
「どうしたんですか? 急に」
「今まで……周りにいたのは魔物ばかりであったからな。人間の暮らしとはどんなものか、聞いてみたくなった」
少し寂しそうな瞳。僕は必死に、次の言葉を探した。
「あの……来てみませんか? 学校とか、街とか」
「そんなことをしても、怖がられるだけであろう」
余計なことを言ってしまったんだろうか。僕は何だか申し訳ない気持ちになった。
「ご、ごめんなさい」
何て言っていいのかわからなくて、謝ることしかできなかった。
「……そんなことを言っている場合ではないようだぞ」
「え?」
いつの間にか、僕たちの前には大きな黒い影が立ちふさがっていた。
テンポ悪いですねぇ。。ゆっくり進んでいきますので、ゆっくりお付き合いください☆笑