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第1話:ラストダンジョン!?

 気がつくと僕は薄暗い部屋のど真ん中にいた。

 明かりは壁に掛けられた数個のろうそくだけ。あちらこちらに不気味な置物が目に付く。どこだか知らないけど、冒険の始まりに相応しい場所でないことだけは確かだ。

「はっはっは! ついに現れたな勇者よ。あまりに遅いから、もう出番がないのではないかと不安になっておったわ」

 急にそんな声が響いて部屋の奥のほうが明るくなったかと思うと、頭にツノが生えた人が玉座に座っていた。青白い顔と細い体だけに注目すると、ただの病人のようにも見える。左手のワイングラスには血のような色の液体。きっとこの人、魔王だ。僕は熟練の冒険者でも何でもないけど、一瞬でそれを感じ取った。

「さて勇者よ。ここまで来たということは、すでに死ぬ覚悟は出来ているということでよいのだな?」

 よくわからないけど、僕のことを勇者と勘違いしているらしい。

「あの、僕……」

「む? 何か言い残すことがあるのだな? ならば少しだけ時間をやろうではないか」

 魔王はいったい僕のどこを見て勇者と間違ったのだろう。こんな軽装だし、武器は腰につけたショートソードだけ。自分で言いたくはないけど、お世辞にも強そうには見えないはずだ。

「僕、勇者じゃありません」

 すると魔王の高笑いが部屋に響き渡った。

「ふっはっは! 今になって戦うのが怖くなったのであろう。勇者がそんな嘘をつくとはがっかりであるぞ」

 さすが魔王。かなりひねくれてる。そして面倒なことになりそうな予感がする。

「あの……僕、ホントに勇者に見えます? こんな無防備だし、仲間もいないし」

「む?」

 やっと少しは信じてくれる気になったらしい。僕の頭のてっぺんから足の先まで、何度も魔王の視線が行ったり来たりした。

 そして次の瞬間、魔王の手から滑り落ちたグラスが、がしゃん、と音を立てて割れた。

「そんな……やっと現れた勇者がニセモノだったとは……」

 がっくりとうなだれる魔王。きっとよっぽど勇者を倒したかったんだろう。勇者がこんなマヌケな魔王に負けるとは思えないけど。

 それにしてもニセモノって。別に1度も勇者のふりしたつもりはないんだけど、何だか申し訳ないような気持ちになってしまう。神様、僕は何か悪いことしましたか?

「ではお前はいったい何者なのだ?」

 魔王は気を取り直したように言った。少し涙目になっているのを、僕は見なかったことにした。

「アルフ・フォードです」

「……名前を聞いておるのではない。お前がどうしてこんな所へやってきたのかを聞いておるのだ」

 そんなわけで、僕はこの旅のきっかけとか目的を魔王に話すことになった。


 ◇◆◇◆◇


「ふむふむ……つまりお前はディタリア王国の学生で、卒業式までの1年間、世界各地のクリスタルを集める旅をするというのだな?」

 魔王は僕の説明をかなり大雑把にまとめた。

「まぁ、そんなとこですね」

「しかし、いきなりこんな所から旅が始まるとはお前も不幸なやつだな」

 魔王に同情されるのはとても複雑な気分だ。とりあえずあまり嬉しくはなかった。

「あの、いったいここはどこなんですか?」

「ふふふ……実はここ、なんと魔王の城なのだ!!」

 驚かすつもりで言ったみたいだけど、僕はそんなこととっくに知っていた。

「それはわかってます。えっと、ここはどこの国なんですか?」

 魔王はまたもショックを受けた。なんてわかりやすいんだろ。

「あ、あぁそうか。ここは……特に国というわけではないが、魔族の住む島なのだ」

 いつか社会の授業で聞いたことがある。深い霧に覆われていて、侵入を拒むように島の外側を山脈が1周している。まだ謎だらけの島……って教科書に書いてあった。

「じゃあ、島から出るにはどうすればいいんですか?」

 すると魔王は少し考え込んだ。魔王がこの島から出ることなんてないだろうから、悩むのも無理ないんだろう。

「むぅ……と、とりあえず城の外まで見送ろう。どうやって島を出るかは歩きながら考えておいてやろうではないか」

「よろしくお願いします」

 僕は魔王に案内され、城を出ることになった。

 城の中はとても広い。魔王と一緒じゃなかったら確実に迷ってしまうだろう。

「あの……どうしてこんなに扉が多いんですか?」

「勇者を迷わせるために決まっておる」

「でも、早く勇者と戦いたいなら迷わせないほうが……」

「最後のダンジョンが簡単だったら勇者はがっかりするではないか」

 魔王もいろいろ大変なんだな、と僕は子供ながらに思った。

 ペンダントが赤く輝き出したのは、1階まで降りたときだった。

「あ、光ってる!」

 僕はペンダントを顔の前に掲げた。やっぱり光っている。

「む、それは何なのだ?」

 魔王がペンダントを覗き込んできた。

「これは、近くにクリスタルがある証拠なんです」

「うぅむ……ならばおそらく地下迷宮にあるのだな」

 僕は校長先生の話を思い出した。

「クリスタルは先生たちが世界中に隠したらしいんですけど……先生ここに来たんですか?」

「そういえば随分昔に1度来たかもしれん」

 ということは、この城のクリスタルはその時からずっと眠っているのだろう。でも、ちょっとおかしい。

「あの……魔族の島は謎に包まれているって教科書に書いてあったんですけど、ホントに先生来たんですか?」

「そ、それは……」

 魔王は恥ずかしそうに、

「先代の魔王が、その時の校長に頼んだのだ。魔族の島について詳しく書いてあったらカッコ悪いからあまり書かないでくれ、とな」

 そう答えた。あまり深く追究すべきじゃなかった、と僕は思った。

「そ、そうなんですか。あの、探してもいいですか? クリスタル」

 せっかくのチャンスだし、見つけておかなきゃ損だ。

「構わんが…命の保証はしないからな」

 その顔は真剣だった。

「え……どういうことですか?」

 魔王がついていれば危なくないはずじゃ……?

「地下迷宮の魔物は……しばらく会わないうちに野生化してしまった」

 うつむきながらそう言う魔王。やっぱりどこか情けない。

「じゃ、じゃあ魔王さんにも襲い掛かるってこと!?」

 魔王は大きく頷いてから、

「それでも探す勇気があるのなら、ついて行ってやろう」

 低い声でそう言った。

読んでくださって、ありがとうございます!!いきなり魔王がでてきたけど、ほのぼのした感じにしてくて…結局こんなキャラになっちゃっております。まぁ、こんな魔王もアリってことで。笑

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