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【9】兄さんには秘密

*** 登場人物紹介 ***


荒木(あらき)希美(のぞみ)……訓練校1年。趣味はロリィタ衣装を作ることだが、自分が着ても似合わないのがコンプレックス。都外の専門学校に行き、ファッションブランドを立ち上げるのが夢。


猪狩(いかり)美咲(みさき)……希美のクラスメイト。背が低く、栗色の三つ編みがチャームポイント。煌桜の御使だが、周りには秘密にしており、普通の少女として学校生活を送る。


狩野(かのう)美晴(みはる)……猪狩家で侍従を務める。美咲が5歳の時から面倒を見ている。


*** 用語解説 ***


煌都(こうと)……神木の加護を受けた、日本唯一の特例都。この地に足を踏み入れた者は、身体能力が上昇したり、感覚器官が鋭敏になったりという形で恩恵を授かる。しかし超人的な域に達する者は少なく、大半の都民は「都外の人間より身体が丈夫」程度に収まっている。


◆神木……太古より煌都を守る大樹「煌樹(こうじゅ)」と、煌樹が生み出した、桜に似ている「煌桜(こうおう)」の2柱が存在する。両神とも宝石のような結晶を生み出し、その結晶は高値で取引されている。また、神木は人間の中から「御使(みつかい)」を選び、その者に託宣を与えるとされている。


御使(みつかい)……神木の声を聞ける人物。身の安全を確保するために、正体は極秘である。しかし煌桜の御使は10代の少女であることが判明しており、彼女を「さくら姫」として讃える創作が広まっている。


三閥(さんばつ)……古くから煌都を牛耳る3つの名家。鹿鳴(ろくめい)家、獅戸(ししど)家、猪狩(いかり)家。


美咲が温室を片付けて屋敷へ戻ると、美晴が出迎えた。

「あれっ、もう希美ちゃんを連れて帰ったの?」

「ええ、希美様のお家はさほど遠くありませんでした。毎度お迎えに参上するのも容易いでしょう」

「そうなんだー。良かった!」


胸を撫で下ろす美咲を、美晴はじっと睨む。

「それでお嬢様、申し開きの言葉は無いのでしょうか」

「あっ……えっと、だから反省してるってば〜!」

「お嬢様、常日頃から申し上げていますでしょう。お力を行使なさる前に、まずは私共にお申し付け下さい」

「だって、そしたら事が大きくなっちゃうじゃない……」

「お嬢様のお力は煌都全体に及ぶのですよ。お一人で秘密裏の行動などできません。お力を行使なさったが最後、旦那様の知るところとなってしまうでしょう」


美咲は美晴の言葉を受けて、ようやく兄のことに思い至った。

「あっ、そういえば、兄さん……!」


兄は支部で働いている。美咲が突如として大規模な浄化をしたことは把握しているかもしれない。


「兄さん、何か言ってた?」

「いいえ。旦那様にはお嬢様がお友達と遊びに行ったと伝えてあります」

「そうなの!良かった〜!ありがとう!」

「その代わり、研究室の湊様には、お嬢様が誘拐犯を追い、制圧したことを伝えてあります」

「えぇ〜っ!?なんでよ!」

「湊様から連絡が来たのです。例の桜が異常に輝いていたそうで、お嬢様に何かあったのかと」

「もう、それもごまかしてよぉ!」

「いけません。研究に支障が出るでしょう。明日、ご自分の口から詳細をお話し下さいませ」


***


美咲は兄の部屋へ向かった。

ノックをすると、お入り、と声がした。


「兄さん、ただいま」

「おかえり」


兄・成海は、デスクに向かい、仕事をしていたようだ。

切り上げて、美咲をソファへ誘う。

「遅くまで遊んでいたんだね。心配したよ」

「んー、ごめんなさい」

「まあ、美咲はかわいいからね。友達が引き留めたくなる気持ちも分かるよ」


美咲はソファに腰掛け、成海に報告する。

「あのね、兄さん、今日は新しく友達ができたの!希美ちゃんっていうクラスの子で、かわいいお洋服が作れるの!」

「荒木希美……外部進学の、一般家庭だったかな」

「兄さん、希美ちゃんを知ってるの?」

「もちろん。兄ちゃんは美咲の同学年全員を身辺調査した上で、クラスメイトを選別したからね。外部進学生も、素行に問題の無い生徒を選りすぐっておいたよ」


その言葉に、美咲は俯く。

「……そうなの」

「特別扱いだと思ったかい?大丈夫、美咲の加護は関係ないよ。たとえ美咲が『普通』だったとしても、兄ちゃんはクラス編成に口を出したと思うよ。どこの馬の骨とも知れない有象無象に、かわいい美咲を触れさせる訳にはいかないだろう?」


(兄さん、本当に過保護。私はそういうのが嫌なのに……でも、これを言ったら拗ねちゃうからなぁ……)


成海は顎に手を当て、遠い目をする。

「それにしても、外部進学生か……」

「……ダメなの?」

「いいや。何だか、自分が訓練校に上がった時を思い出してね」


いつもは美咲の話を聞くばかりなのに、今日は珍しい。

「外部進学で入ってきて、猪狩家のお坊ちゃんなら強いはずだって、やたらと僕に戦いを挑んでくる奴がいた。生徒会終わりを待ち伏せしていたり、教室移動の合間に仕掛けてきたり、大変だったよ」

「それって、私も知ってる人?」

「どうだろうね。もう、ずっと昔のことさ……さんざん僕をお坊ちゃん呼ばわりするくせに、全然お坊ちゃんらしい扱いはしてくれなかった。代わりにサボり方を教えるとか言って、休憩中に無理矢理校外へ連れ出されて、人目につかない汚い裏通りをひたすら歩かされて、床が油でギトギトになったラーメン屋を紹介されてね。あの時のラーメンは、美味しかったな」

「うふふっ、その話、初めて聞いたかも。その後はどうなったの?」

「そりゃあ、こっぴどく叱られたよ。僕は優しいから、彼と共犯ということにしてあげたのさ。懲罰として、2人で講義棟の窓を全部磨かされたんだよ。まあ、今となってはいい思い出かな」


成海は美咲の頭を撫でて、微笑む。

「美咲。友達のことは、ずっとずっと大事にするんだよ。僕が言う必要なんて無いだろうけどね」


昔の兄は、いつもこんな柔らかい表情をしていたと思う。

今は滅多に見せなくなったけれど。


成海は立ち上がり、大きく伸びをする。

「さてと、ぼちぼち作業に戻ろうかな」

「兄さん、まだお仕事するの?」

「ああ。立場が上になるほど、書類仕事が多くていけないね。それでいて、机に向かえる時間も少ないんだ」


成海はもう一度美咲の頭を撫で、頬にキスを落とす。

「じゃあ、美咲は早く寝るんだよ」

「うん。兄さん、無理しないでね」


***


しばらくして、成海は扉へ目を向けた。


「お入り、狩野」


美晴がそっと扉を開け、一礼して中に入った。

「旦那様。本当に、ご自分からお嬢様に釘を刺さなくてもよろしいのですか?支部ではかなり気を揉んでいたと聞き及んでおりますが」

「いいんだよ。全てが僕に筒抜けになると分かったら、美咲は君すら頼らなくなってしまうだろう」


成海は作業の手を止め、足を組んだ。

「それにしても、今回はこちらが一杯食わされたね」

「と、申しますと」

「僕らが誘拐犯からのメッセージに気を取られているうちに、結晶の管理庫がひとつ破られたんだ。全部は盗られなかったが、煌桜の結晶が2kgほど持って行かれてしまった」

「では、お嬢様を狙ったのは、あくまでも陽動作戦だとお考えで?」

「ああ。捕まった2人は、管理庫の件を知らされていなかった。彼らは美咲を誘拐させるための捨て駒だった。僕が美咲を助けに向かう間に、管理庫から大量の結晶を持ち去るつもりだったんだろう」


美晴は、飄々と話す成海を見つめていた。

「旦那様は、管理庫の窃盗犯とは遭遇しなかったのですか?」

「ああ。今日こそ確保しようと思っていたのに、逃げられた後だった。全く、勘がいいね」

「その仰り方……やはり、あの方だったのですね」


誘拐犯を目眩しに雇い、管理庫を破った窃盗犯。

成海は支部の監視カメラで、その正体を既に確認していた。


「昔、あんなに僕と戦いたがっていたのに、どうして逃げるのかなぁ……早く僕が捕まえてあげないとね」


袂を分かち、悪事に手を染め続ける旧友に、成海は思いを馳せるのであった。

数ある作品の中から選んで下さり、ありがとうございます。

物語の行く末を、最後まで見守って頂けますと幸いです。

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