【6】煌めく桜と共に
*** 登場人物紹介 ***
◆荒木希美……訓練校1年。趣味はロリィタ衣装を作ることだが、自分が着ても似合わないのがコンプレックス。都外の専門学校に行き、ファッションブランドを立ち上げるのが夢。
◆猪狩美咲……希美のクラスメイト。背が低く、栗色の三つ編みがチャームポイント。煌桜の御使だが、周りには秘密にしており、普通の少女として学校生活を送る。
◆狩野美晴……猪狩家で侍従を務める。美咲が5歳の時から面倒を見ている。
*** 用語解説 ***
◆煌都……神木の加護を受けた、日本唯一の特例都。この地に足を踏み入れた者は、身体能力が上昇したり、感覚器官が鋭敏になったりという形で恩恵を授かる。しかし超人的な域に達する者は少なく、大半の都民は「都外の人間より身体が丈夫」程度に収まっている。
◆神木……太古より煌都を守る大樹「煌樹」と、煌樹が生み出した、桜に似ている「煌桜」の2柱が存在する。両神とも宝石のような結晶を生み出し、その結晶は高値で取引されている。また、神木は人間の中から「御使」を選び、その者に託宣を与えるとされている。
◆御使……神木の声を聞ける人物。身の安全を確保するために、正体は極秘である。しかし煌桜の御使は10代の少女であることが判明しており、彼女を「さくら姫」として讃える創作が広まっている。
「かわいい」お披露目会は終わり、参加者はめいめいに紅茶や菓子を楽しんでいた。
そこへ美晴が顔を見せ、美咲に向かって目配せをする。
「私、ちょっと席を外すね。みんな楽しんでね〜!」
美咲は手を振りながら、テラスから屋内に入る。
「美晴さん、希美ちゃん来た!?」
「いいえ、まだ……その件で、清掃の担当者が、気になる物を見つけまして」
美晴は白いレースの日傘を差し出す。
「これが塀の側に、開いた状態で落ちていたそうです。どなたかの落とし物でしょうか」
美咲は日傘を受け取る。
「うーん、みんな車で来てるから、日傘は持ってないと思うけど……もしかして、希美ちゃん?」
この日傘なら、希美のファッションにも合う。
彼女が持っていても不思議はない。
「美晴さん、希美ちゃんの顔は分かるよね?念のため、希美ちゃんが近くで迷っていないか、見てきてくれない?」
「ええ、承知致しました」
美晴が去った後、美咲は日傘を手にしたまま小走りで近くの客室に入り、窓のカーテンを閉め切った。
胸元から、ペンダントを取り出す。煌めく桜の結晶を幾重にも繋ぎ合わせた、世界にひとつしかない宝飾。桜の花の形をした、桃色のペンダントだ。
美咲はペンダントを握り、目を閉じる。
(さくらちゃん、さくらちゃん!美咲よ、聞こえる?)
美咲の頭の中に、声が届いてくる。
『聞こえるよ!美咲、どうしたの〜?』
(これの探知をお願いしたいの。何か辿れない?)
美咲は日傘をギュッと握り締める。
脳裏に、かすかな声が聞こえてくる。
『きゃあっ、やめてっ――』
(希美ちゃんの声!?希美ちゃん、何かあったんだ!)
危ない目に遭っているとしか思えない。
美咲は必死にさくらへ呼びかける。
(さくらちゃん、この子の痕跡を追いたいの?できる?)
『うーん、祈念も加護も弱くって、これだけじゃ辿れないや。もっと祈りが無いとできないよー』
(そっか、分かった。ちょっと待っててね!)
美咲は日傘を客室に残し、テラスへ戻った。
「みんな、ごめんねー!私、急用ができちゃった!お茶とお菓子は全部食べちゃっていいから、好きに過ごして帰ってね!」
歓談していた女子たちは、残念そうな顔をする。
「あら、そうなの?名残惜しいわ……」
「でも忙しいのにこんな会を開いてくれてありがとう、猪狩さん!」
美咲はみんなに手を振り、テラスを後にした。
「うん、ごめんね!また学校で〜!」
慌ただしい美咲の様子に、給仕をしていた侍従が駆け寄る。
「お嬢さま、何かございましたか?」
「ごめんね、ちょっと出てくる!私の代わりにみんなをお送りしておいて、お願い!」
***
美咲は客室に戻り、再びカーテンを入念に引っ張る。
「カーテン、よし!ドア、よし!」
どこからも見えないことを確認して、美咲はペンダントを握り締めた。
「さくらちゃん、行くよ!」
目を閉じて、ペンダントに祈りを込める。
(希美ちゃん、何があったの?どうか無事でいて……!)
手の隙間から、桃色の輝きがこぼれる。
(まだ遠くには行ってないはず。私の祈りよ、広がれ!)
部屋が桃色の光で溢れる中、美咲の頭に、また小さく声が届いてきた。
『お前、ここで大人しくしてろよ!ったく、こっちは猪狩美咲を攫うってんで前金貰ってんだぞ!どうしてくれんだよ!』
『うぅっ、ごめんなさいっ』
(希美ちゃん、私と間違われて攫われちゃったの!?)
美咲は客室を出て、玄関の様子を伺う。
まだ侍従や同級生の姿が見える。
(あそこからは出れない。裏口は厨房に近いから誰かに見られるかも……上だ!)
美咲は階段を駆け上がり、自室へ駆け込む。
(さくらちゃん、手伝って!私が助けに行かないと!)
『美咲から善き祈りが伝わってくる〜!いいよ、さくらが手伝ってあげる!』
美咲は手首の通信機を外し、テーブルに置く。
「美晴さん、ごめんなさい!」
窓を全開にして、窓枠に足をかけ、身を乗り出す。
「さくらちゃんっ、行くよ!」
ペンダントが眩いほどの輝きを放つ。
美咲は窓枠を蹴り、勢いよく飛び出した。その身体は重力を無視して、ふわりと音もなく屋根に降り立った。
「さくらちゃん、希美ちゃんの所へ連れて行って!」
『うんっ!さくらが導いてあげる!』
美咲はふわりふわりと屋根を飛び移り、希美が攫われた拠点を目指すのだった。
***
屋敷に戻った美晴は、一目散に美咲の部屋を目指し、扉を開けた。
全開になった窓から、風が吹き込んでくる。
美晴はため息混じりにテーブルから通信機を拾い上げ、耳のインカムに触れた。
「申し訳ございません、ひと足先に行かれてしまいました……ええ、ペンダントの発信機は動いておりますので、すぐに追跡致します」
数ある作品の中から選んで下さり、ありがとうございます。
物語の行く末を、最後まで見守って頂けますと幸いです。




