【4】猪狩邸のお茶会
*** 登場人物紹介 ***
◆荒木希美……訓練校1年。趣味はロリィタ衣装を作ることだが、自分が着ても似合わないのがコンプレックス。都外の専門学校に行き、ファッションブランドを立ち上げるのが夢。
◆猪狩美咲……希美のクラスメイト。背が低く、栗色の三つ編みがチャームポイント。煌桜の御使だが、周りには秘密にしており、普通の少女として学校生活を送る。
◆志田芽琉菜……希美のクラスメイト。都議である父親の権力を振り翳し、マウントを取りたがる。
◆狩野美晴……猪狩家で侍従を務める。美咲が5歳の時から面倒を見ている。
猪狩邸には、次々と送迎の車が到着する。侍従の美晴が車の進路を誘導し、美咲は降りてくる同級生を出迎える。
「メルちゃん、いらっしゃい!」
芽琉菜はハンドバックをクルクルと振り回しながら降りてくる。
「あれっ?もしかしてメルが最後?もー、ママが早く支度してくれないから〜」
「ううん、まだ希美ちゃんが来てないの。大丈夫かなぁ?」
「えぇっ、荒木さんも呼んだの〜!?場違いすぎて嫌になっちゃうんじゃない?かわいそ〜」
美咲はムッとして芽琉菜を睨む。
「そんなことないもん!希美ちゃん、かわいいお洋服で来てくれるって言ったもん!」
美咲の言葉を、芽琉菜は半笑いで受け流す。
「えぇー、荒木さんが、かわいい服で〜?いいじゃん、見てみたいかも〜。じゃ、中入ろ!お邪魔しま〜す!」
美咲は芽琉菜の反応に肩を落とす。
(メルちゃん、希美ちゃんをバカにしてるでしょ!あーあ、私にも兄さんみたいな迫力があればなぁ……)
俯いていると、手首の通信機が通知の光を点滅させていることに気づいた。
車の誘導が終わった美晴に、声をかける。
「希美ちゃんからメッセージが来てて、遅くなるって。先に始めてるから、来たら案内してあげてね!」
「左様ですか。承知致しました」
***
大きなテラスには、白いテーブルが並ぶ。10人弱の女学生たちに向けて、美咲は挨拶をする。
「みんな、今日は来てくれてありがとう!いっぱい楽しんでいってね!」
侍従の女性たちは、茶菓子のケーキやクッキーを運んだり、カップに紅茶を注いだりして回る。
「猪狩さんのお家、本当に綺麗ね!メイドさんたちも、こんなにたくさん!」
「うふふ、私はもっと小さなお家でもいいんだけどね。亡くなった両親が大事にしてたお屋敷だから、兄はここを守りたいって言うのよ」
クッキーをつまんでから、美咲は立ち上がる。
「さあ、早速みんなに見せてもらおっかなぁ!みんなの思う『かわいい』を持って来てねって、事前に言ってたでしょ?名付けて『かわいい』お披露目会よ!」
「じゃあ、メルから!」
芽琉菜は立ち上がり、クマのぬいぐるみを掲げる。
「これ、アメリカに行った時に、現地で買ったの!ここ、足の裏に67って番号が縫ってあるでしょ?世界で99体しか作られてないんだってー!すごくない!?」
女子たちはぬいぐるみを見に近づく。
「わぁ、本当だ!こういうの、高いんじゃないの?」
「まあね!でも、メルの叔父さんが職人さんと知り合いで〜、ちょっと融通してくれたのよ〜!」
女子たちが湧く中、美咲はこっそり通信機を確認する。あれ以降、希美からの連絡は届いていない。
(メルちゃんのは『かわいい』じゃなくて、ただ自慢したいだけでしょ……希美ちゃん、まだ来ないのかなぁ。早く希美ちゃんのお洋服が見たいのに)
「次は私が!」
別の女子が立ち上がり、紙袋から写真集を取り出した。
「わぁ、うさぎの写真集だ!かわいい〜!」
「そうでしょう?猪狩さんが好きかと思って、持ってきたのよ!」
「えっ、そうなんだ……!ありがとうね」
美咲の反応を見て、他の女子たちも続々と披露する準備を始める。
「やった!じゃあ私のも猪狩さんに刺さってると思うわ!」
「えぇーっ、私のはどうだろう?不安になってきちゃった!」
美咲は内心わだかまりを抱えつつ、表向きは楽しそうに取り繕う。
(色々考えてくれるのはありがたいんだけど、私はみんなが思う『かわいい』を見たいんだけどなぁ……)
希美が来ないまま、お茶会の時間は過ぎていくのだった。
数ある作品の中から選んで下さり、ありがとうございます。
物語の行く末を、最後まで見守って頂けますと幸いです。




