【12】煌めく桜と恋心【終】
*** 登場人物紹介 ***
◆荒木希美……訓練校1年。趣味はロリィタ衣装を作ることだが、自分が着ても似合わないのがコンプレックス。都外の専門学校に行き、ファッションブランドを立ち上げるのが夢。
◆猪狩美咲……希美のクラスメイト。背が低く、栗色の三つ編みがチャームポイント。煌桜の御使だが、周りには秘密にしており、普通の少女として学校生活を送る。
◆獅戸侑理……希美のクラスメイト。美咲の幼馴染だが、ひとりで行動することが多い。外部から進学してきた希美を気にかけている。
◆湊陽輝……推進研究室の研究員。訓練校の講師も務めており、希美たちのクラスで副担任を務める。美咲とは10年以上の付き合いで、幼い頃から彼女の「普通になりたい」という望みを叶えてきた。
◆明石耀一郎……推進研究室の、主任研究員。湊にとっては上司にあたる。煌桜と美咲の状態を見守り、支部に報告している。
*** 用語解説 ***
◆煌都……神木の加護を受けた、日本唯一の特例都。この地に足を踏み入れた者は、身体能力が上昇したり、感覚器官が鋭敏になったりという形で恩恵を授かる。しかし超人的な域に達する者は少なく、大半の都民は「都外の人間より身体が丈夫」程度に収まっている。
◆神木……太古より煌都を守る大樹「煌樹」と、煌樹が生み出した、桜に似ている「煌桜」の2柱が存在する。両神とも宝石のような結晶を生み出し、その結晶は高値で取引されている。また、神木は人間の中から「御使」を選び、その者に託宣を与えるとされている。
◆御使……神木の声を聞ける人物。身の安全を確保するために、正体は極秘である。しかし煌桜の御使は10代の少女であることが判明しており、彼女を「さくら姫」として讃える創作が広まっている。
推進研究室、当直室。
「でも、希美ちゃんも最後の方は侑理ちゃんと普通に話してたし、3人でお泊まり会できそうなの〜!楽しみ!」
湊は頬杖をついたまま、ジトッと美咲を睨む。
「話が脱線しすぎ。それで?」
「ん?全部話したから、これで終わりよ?」
「あのさ、俺は経緯を聞いてんじゃないの。何で誰にも言わずに力を使ったのかって聞いてんの」
「だって、希美ちゃんは私のせいで誘拐されちゃったのよ?私が助けないとって思ったから」
湊の顔が険しくなる。
「美咲。前から言ってんでしょ。自分で判断しない」
「でも、さくらちゃんなら」
「でもじゃない。さくらは最後の手段って約束でしょ」
「最後って何?友達の危険は最後じゃないの?」
「それを考えるのは美咲じゃない。狩野さんや俺に言いたくないなら、明石さんでも成海さんでもいいから、誰かに言わなきゃダメでしょ」
「むぅ……」
美咲はふてぶてしい顔で俯く。
「さくらの力はどんどん強くなってる。だからこそ、使わないように努力しないと、普通でいられなくなるよ」
「大丈夫だもん……湊さんってば、心配しすぎ」
「当たり前だろ!」
湊はギュッと美咲を抱き寄せた。
「わっ、湊さんっ……?」
抱きしめている腕が、微かに震えている。
「俺がいないところで何かあったら……俺が間に合わなかったら……そう思うと、胸が張り裂けそうになる」
湊のハイネックの隙間からは、赤黒いアザが覗いている。幼い自分を凶刃から庇った際の傷跡。消えない愛の証拠。
「俺はずっと心配だよ……今までも、これからも」
美咲はそっと湊の首筋に鼻を当てた。
「ごめんなさい、心配かけて」
「分かりゃあいいの。次からは誰かに言ってよ」
(湊さんのあったかい匂い……お昼のコーヒーと、夜のお酒が混じっていて、昔より大人の匂い……)
この匂いを嗅いでいると、なんだか懐かしい気持ちになってくる。
(湊さん。私、大人になって、今よりうんと強くなる。それで、ずっとずっと、湊さんの側にいてあげるの。そしたら湊さんも、安心できるよね)
美咲は目を閉じて、湊の背中に腕を回す。
大きくて、筋肉質で、固い身体。
(湊さん、好きだよ……私が大人になるまで待っててね)
いきなり扉が開いて、瓶を手にした明石が飛び込んで来た。
「湊くんっ、見てくれ!今ここで急に黒晶が浄化されたんだが、何か──」
そこまで言って、明石はようやく抱き合う2人に気づいた。
「す、すまない、邪魔をした……」
湊が慌てた声を出す。
「明石さん!違います!勘違いしないで下さい!」
「いや、自分は二人の自由にすればいいと思うが……その、どうぞ、続けてくれ」
「明石さん!だから違いますって!美咲、いつまでくっついてんの!離れて!」
湊は美咲を引き剥がそうとするが、美咲は必死にしがみつく。
「やだっ!久しぶりにギューしてくれたもん〜!」
「いいから離れて!」
「湊さぁん!」
湊と美咲が格闘するのを見守りつつ、明石はそっと退室するのだった。
***
明石が出て行った後、湊は美咲との格闘をやめた。
「……じゃ、続きやろっか」
「えっ、続きって?」
「とぼけたって無駄。分かってるでしょ」
(ハグの続き……ってことは……キス!?キスなの!?)
美咲は顔を紅潮させて、アワアワとポケットを探る。
「湊さんっ、ついにその気になってくれたのっ!?嬉しいっ、嬉しいけど、リップしていいっ……?」
慌てる美咲に、湊は何かを手渡した。
「何言ってんの?はい、これ」
「……ん?」
「ん、じゃなくて。報告書」
***
「美咲、聞いてる?」
「聞いてないっ!」
湊に監視されながら、美咲はペンを握っていた。
「だから、報告書の続き!休みの日の午後に起きたこと、ここに書き足して!」
「もうっ、湊さん騙した!一緒にイチャイチャするんじゃなかったの!」
「はぁっ?するわけないでしょ。現実見てくれる?」
「じゃあ、もっかいギューして!ギューしたらやる!」
「ダメ。そう言って結局やったことないでしょ。ほら、書いて!」
***
明石は煌桜の部屋に入っていた。
計測機器と、桜の眩い輝きを見比べる。
(広範囲での浄化が、まだ続いている……また最高値を更新したな)
美咲の善き祈り。ある時は愛情であり、ある時は友情であり、またある時は恋情であり。
(乙女にとっては、恋心が最大の武器というわけか)
***
神木の加護を受ける都市、煌都。
その神木を支えるのは、ある少女のときめく心。
それを知る者は、ごく僅かである。
最後まで読んで頂きありがとうございました!
「煌都」の物語は私の中で何年も眠っていて、今回はその一端を切り取ったものになります。
過去の時系列の話を連載中なので、そちらも読んで頂けると嬉しいです。




