【11】親友だから
*** 登場人物紹介 ***
◆荒木希美……訓練校1年。趣味はロリィタ衣装を作ることだが、自分が着ても似合わないのがコンプレックス。都外の専門学校に行き、ファッションブランドを立ち上げるのが夢。
◆猪狩美咲……希美のクラスメイト。背が低く、栗色の三つ編みがチャームポイント。煌桜の御使だが、周りには秘密にしており、普通の少女として学校生活を送る。
◆獅戸侑理……希美のクラスメイト。美咲の幼馴染だが、ひとりで行動することが多い。外部から進学してきた希美を気にかけている。
◆志田芽琉菜……希美のクラスメイト。都議である父親の権力を振り翳し、マウントを取りたがる。
*** 用語解説 ***
◆煌都……神木の加護を受けた、日本唯一の特例都。この地に足を踏み入れた者は、身体能力が上昇したり、感覚器官が鋭敏になったりという形で恩恵を授かる。しかし超人的な域に達する者は少なく、大半の都民は「都外の人間より身体が丈夫」程度に収まっている。
◆神木……太古より煌都を守る大樹「煌樹」と、煌樹が生み出した、桜に似ている「煌桜」の2柱が存在する。両神とも宝石のような結晶を生み出し、その結晶は高値で取引されている。また、神木は人間の中から「御使」を選び、その者に託宣を与えるとされている。
◆御使……神木の声を聞ける人物。身の安全を確保するために、正体は極秘である。しかし煌桜の御使は10代の少女であることが判明しており、彼女を「さくら姫」として讃える創作が広まっている。
休み明けの学校。午前の授業が終わった後、希美は教官室へ訪れていた。
担当教官・近衛が、心配そうに出迎える。
「荒木、色々と大変みたいだったな。授業は問題なく受けられたか?」
「はい、別に怪我したわけじゃないですし……」
「そうか……実は今年のクラス分けをしたのは俺なんだが、それで責任感じてる部分もあるんだよ」
希美は、芽琉菜の言葉を思い出す。
『あのね、このクラスはほとんどが内進生なの!何でか分かる?メルのパパの計らいで、メルみたいなお金持ちや、由緒ある家柄の子が集まってるの!』
「あの、先生、このクラスにお金持ちやお嬢さまが集まってるって、聞いたんですけど」
近衛は苦い顔をする。
「ああ、そうなんだよ。やれ庶民を近づけるなだの、やれ身元を調査しろだの、何かと口うるさい保護者が多くってな。だが、内部進学生だけで囲うのは露骨だろ?どの外部進学生を入れるか、本当に悩んだよ」
(そっか、だから私みたいに外から来た子が少ないんだ)
希美は近衛に疑問をぶつける。
「でも、どうして私が?親は学校の先生だし……」
「違う違う。金じゃなくて、愛だな!何人も見てると、親御さんから大事にされてる感じが分かるんだよ。そういう子の方が、あのお嬢ちゃん連中の波長に合いそうだって思ったのさ」
近衛は希美に優しく問いかける。
「どうだ、あのクラスではやっていけそうか?」
希美はしっかりと頷いた。
「はい。猪狩さんも、私のこと親友だって言ってくれたので、頑張れそうです」
「そりゃあ良かった。猪狩は色々あるからなぁ……家に呼ぶなんて、よっぽど荒木が気に入ったんだろうよ。仲良くしてやってくれよな」
「……はい!」
***
教室で、美咲は侑理と話していた。
「ねえ侑理ちゃん、今度のお泊まり会、希美ちゃんも一緒にいい?」
「荒木さん?美咲がいいなら、私は構わないわ。でも彼女、萎縮しそうよ」
「お話すれば大丈夫!希美ちゃん、どこだろ?」
美咲は教室を出て、廊下を見回す。
「近衛先生と話してくるって言ってたけど、遅いなぁ……」
廊下から中庭を見渡していた侑理が、中庭の隅を指差す。
「いたわ。あそこ」
木の陰になっていて見えにくいが、背の高い少女が、複数人の少女に囲まれている。
「やっぱり志田さん。本当、嫌な人……美咲は目立たない方がいい。私が行ってくるわ」
階段を降りようとする侑理を、美咲が引き留める。
「美咲?」
「私の友達は、私が大事にしなきゃ。ここで待ってて」
***
教官室から教室へ帰る途中、希美は芽琉菜たちに呼び止められていた。
「あのさぁ。荒木さん、美咲ちゃんと仲良くできるとか思ってないよね?」
「えっ……?」
彼女の取り巻きは、希美に不憫だと言わんばかりの視線を送る。
芽琉菜に従っているのは不本意であるようだ。
「美咲ちゃんはね、いいとこのお嬢さまなの。庶民が気軽に話せる相手じゃないの。まあ、お茶会に来なかったあたり、弁えてるのかもだけど?お呼ばれしたからって、いい気にならないでよね」
(志田さん、私のこと、下に見てるもんね。私が美咲ちゃんと仲良くするのが気に食わないんだ。でも……)
希美の頭の中で、美咲の言葉が響く。
『希美ちゃんとはお友達を超えた、親友になりたいの!』
「……美咲ちゃんは」
芽琉菜の眉がピクリと動く。
「はぁ?」
「みっ、美咲ちゃんは、私のこと、親友だって、言ってくれたもんっ……!」
芽琉菜は希美の足を踏みつけた。
「いたっ!」
「何言ってんの?妄想も大概にしてよね!」
そこへ、美咲が現れた。
「ねえ、何してるの」
いつもとは違い、声のトーンが低い。
芽琉菜は美咲に向かってヘラヘラと笑う。
「別に〜?ちょっと、この学校のルールを教えてあげてるって感じ〜」
「そう。希美ちゃん、行こっ」
美咲は希美の手を取り、その場を立ち去ろうとする。
芽琉菜はその前に立ち塞がった。
「荒木さんさぁ、まだメルと話してる途中なんだ〜。後でね?」
「ごめんねメルちゃん、私、急いでるんだ。退いてくれない?」
「何それ?そんなに荒木さんに──」
美咲はぐっと詰め寄り、芽琉菜の目をじっと見据えた。
「おかしいなぁ、私の言うことが聞こえなかった?」
「み、美咲ちゃん……?」
たじろぐ芽琉菜に対し、美咲はさらに詰め寄る。
冷たい瞳はそのままに、口角だけにこやかに上げる。
「メルちゃん、やたらと附属にこだわってるみたいだけど、附属なのは小学校からだよね?幼稚園は附属じゃないでしょ」
「うっ、それは……」
「自分が言われたら嫌なこと、人に言っちゃダメだよ」
美咲は芽琉菜の取り巻きに目を向ける。
「みんな、どうしてそんなに遠慮するの?仲良くなりたい子と、仲良くすればいいんだよ」
美咲は希美の手を引いて、取り巻きの間を割って歩く。
「行こっ、希美ちゃん!」
美咲と希美が去って行くのを、女子たちは呆然と見送った。
「今の猪狩さん、支部将さまにそっくり……」
「やっぱり兄妹なのね……」
***
「さ、お昼お昼〜!」
美咲は何事もなかったかのように、明るい振る舞いを取り戻す。
「美咲ちゃん、ありがとう」
「いいのいいの!兄の真似、意外と上手くできたでしょう?」
(さっきの美咲ちゃん、怖かったけど……お兄さんって、あんな感じなの?)
希美の隣に、華奢な身体が並ぶ。
「荒木さん、ご機嫌よう」
「えっ、獅戸さん!?」
侑理は真っ直ぐ前を見たまま、姿勢良く歩く。
「美咲、凛々しかったわよ」
美咲は恥ずかしそうに笑う。
「え〜、侑理ちゃんも見てたの〜?」
「もちろんよ。荒木さん、入学早々に美咲の信頼を獲得するなんて、やるじゃない。馴染めるか心配だったけど、杞憂だったようね」
「う、うんっ、ありがとう」
侑理の表情は、心なしか柔らかいように見える。
(獅戸さん、初日から私に話しかけてくれたもんね。私のこと、心配してくれてたんだ)
「侑理ちゃん、今日は一緒にお昼食べる?」
「ええ。志田さんも懲りたでしょうし、これで2人と行動しやすくなるわね」
「よーし、行こ行こ!」
「お、お嬢さまと、お嬢さま……!」
その日の食堂には、猪狩家の令嬢と獅戸家の令嬢に挟まれて、青ざめた女学生の姿があったという。
数ある作品の中から選んで下さり、ありがとうございます。
物語の行く末を、最後まで見守って頂けますと幸いです。




