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窓際騎士レリアの捜査記録  作者: スライム小説家
「騎士」

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9/33

9話

「唐突に辞令が出たの。階級の昇進と共に、騎士団の花形である第一騎士団への異動が決まったわ」

「……捜査は何処まで進んでいたんだ?」

「佳境に入ったところだったわ。後少しで、捕まえられたのに……!」


 加害者は大貴族の子息、捜査に非協力的な外部、王国上層部からの圧力。そんな中で、捜査から中心的人物が外れた。

 捜査がどうなったかなんて、レリアにも分かっていた。それでもレリアは、自身の最悪な予想が現実と食い違っていないのかどうか、『答え合わせ』をする。


「一部の貴族に都合が悪い事を探っていた騎士がクビになる、部署を飛ばされる。少し前まで散見された話だ。だが、近年の帝国でそんな事が許されるとは思えないが……?」

「だから『栄転』させられたのよ。捜査から外された文句を言おうにも、明確な昇進では言いようがないもの……」


 帝国騎士団にとって、皇帝の名の下に発される辞令は絶対だ。実態はともかく、形式的には帝国内の全ての騎士が皇帝ただ1人を主としている。

 少し前まで、拒否する選択肢は無かった。従うか、騎士を辞めるかの2択。


 流石にそれは問題があるという事で、最近は辞令に異を唱える事も出来るようになった。それ専門の部署まで出来たのだ。権力者によってあからさまに左遷させられた騎士が、辞令を取り下げさせたケースだって幾つか存在している。


 だが、昇進に異を唱えたところでそれが通るかと言えば……


「その後は、どうなったんだ?」


 ぽつぽつと雨が降り出した。ついさっきまで遠くにあったはずの灰色の雲が、もう辺り一面を覆い始めている。


「異動になった私は、当然捜査から外れたわ。私の後を継いで指揮を取った騎士は、捜査に消極的だった……何週間もしないうちに、捜査は打ち切られたわ」

「アネモネという少女は、どうなった?」

「あの子には、誰も味方が居なかった。親でさえ捜査に反対したんだもの。公爵家の工作は絶大な効果があったわ。学園でも孤立していたんですって」


 そんな状況でもアネモネが生き続けられたのは、一縷の望みがあったからだろう。加害者が捕まれば、この状況も変わる。平民が、弱者が耐えるだけだったこれまでが変わる。そんな思いがあったのだろうか。

 だが、その一縷の望みが絶たれたとすれば。苦しみを耐え続ける意味すら見失ったとすれば……


「……捜査が打ち切られた翌日に、首を吊ったわ」


 ざあざあと雨音がする。痛いほどに激しい雨が、叩きつけるように降り注いでいた。。







 晴れていれば、そろそろ日が沈む頃だろうか。

 雨は止むどころか勢いを増して、辺り一面にざあざあと降っていた。普段は換気のために広げられている窓も、今はその全てが固く閉じられている。

 それは雨を防ぐためだけでなく、防犯の意味もあった。屋敷の周りを警備する衛兵は2倍以上に増え、その中には騎士も散見される。屋敷内部も同じように多くの騎士が詰めかけており、メイドや執事まで武装する始末だった。

 まさに厳戒態勢、その警備には一分の隙も無し。外からの侵入者は蟻1匹も通さぬ構えだ。……だが、屋敷から出て行こうとする少女の前には、その警備は無いも同然だった。


 きぃぃ、という小さな音が雨音に掻き消される。屋敷の裏、比較的警備が手薄な北側の2階にある窓が1つ開けられた。

 窓からはするすると縄が垂らされ、ついにそれは地面に着く。次の瞬間、赤髪の少女が窓から飛び出し縄をつたって降り立った。


 屋敷から出ればすぐ外という訳ではない。ゾンネ邸は中庭も広く、そしていつもより多くの衛兵が見回っている。だが、もうこうなればこっちのものだ。

 少女にとってここはホームグラウンド、脱出は何度も成功させてきたイージーなミッションだ。


 勝利を確信した彼女は、それでも油断する事なくゆっくりと周囲を伺い━━




「見事なものだ。流石は団長の娘なだけある」

「……マジかよ。あんた、やっぱ凄腕だったんだな」


 背後から掛けられた声に、がっくりと項垂れた。




「ってか、なんであんたがここに居るんだよ」

「ローズ殿から君の家出に付き合ってやってくれ、と言われてね」

「あいつかぁ……別に教えたわけじゃないのに、なんで毎回バレるんだよ……」


 レリアとフレイが話している間に、オルレアとフリージアが近づいてくる。


「やっぱり()()()は北側だったんスねー。たいちょーだけズルいっス~」

「最も可能性が高い場所を、最も実力がある隊長が担当しただけでしょう。悔しかったら貴女ももっと強くなりなさいな」


 相変わらずの2人にレリアが呆れていると、フレイはむすっと頬を膨らました。


「待て、あんたら3人別々の場所に居たのか?」

「ああ。君がどこから屋敷を出るのか分からなかったからね。警備が1番厚い屋敷の正面…南側は捨てて、東、西、北にそれぞれな」

「つまり、あんたら全員あたしを1人で捕まえれる自信があった……ってことかよ」


 悔しそうに吐き捨てるフレイに、レリアは苦笑いする。


「我々とてプロだからね。そう簡単にはいかないよ」


 フリージアもそれに続いて、ドヤ顔で胸を張る。


「舐めてもらっちゃあ困るっスよ!」

「……貴女は何もしてないでしょうが」

「あー! 言ったっスね! このこのぅ!」


 また揉め出した2人を放っておいて、レリアはフレイに語りかける。


「君の家出、我々も付いて行って良いかな?」

「それ、断れねーやつだろ……はぁ」


 しょうがないなあ、と言わんばかりにフレイは笑ってみせた。

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