7話
先ほどの騒動のせいか、屋敷中は静まり返っていた。そんな中、ひっそりとレリア達は帰ろうとしていた。
「2人とも、すまない。私の興味に付き合わせたせいでこんなことに……」
屋敷の出口までの長い道のりの間、レリアは部下である2人に謝罪した。
ファウルハイトは、近年犯罪の検挙において着実に成果を上げてきた古株だ。騎士団内での影響力は大きく、第七騎士団の団長も務めている。一応レリア達の部隊は第六騎士団所属であり、直接ファウルハイトの指揮下にはない。だが、第六騎士団も第七騎士団も国内の治安維持と役割は被っており、関係性は強い。彼に睨まれれば、騎士団内での立ち位置は危うくなり、今後の出世にも関わってくるだろう。
元から興味本位で動いている自身はともかく、オルレアとフリージアまで巻き込んでしまったことをレリアは心底後悔していた。
(今回の件は今までとは訳が違う。第七騎士団団長という権力者が関係ある話だったのは分かり切っていたじゃないか。揉めた時のことを考えれば、2人を同行させたのは間違いだった……)
首にかけたエメラルドのペンダントをぎゅっと握り締める。変わり者の親友から贈られたこのペンダントは、レリアに取って一種のお守りの様なものであった。
『いざという時、これが君を助けてくれるはずだよ』
レリアがあの剣狂いと言える親友の与太話に縋るのは、それだけ追い詰められている証でもある。
自身の行いを激しく悔いるレリアに、2人は優しく笑いかける。
「そんな。隊長のご意思とあらばこのオルレア、地獄の果てにだって行きますとも。それに比べればこの程度、気に病まないで下さい」
「そうそう、オルレアさんは言い過ぎっスけど何も気にすることはないっスよ。たいちょーに振り回されるのはもう慣れっこですし」
気にすることはない、と言わんばかりに2人は口々にレリアを慰める。
「こーいうときは切り替えが大事っスよ、たいちょー! 近所に美味しいステーキのお店知ってるんで行きましょう!」
「フリージア、貴女にしては珍しく良い案ですね。隊長、美味しい物を食べて気でも晴らしましょう」
「申し訳なく思ってるんだったら奢ってくださいっス! それでチャラっスよ!」
「……珍しく褒めたらこれですか。フリージア、貴女厚かましいにも程があります!」
わーきゃーといつものように騒ぐ2人。いつもなら呆れるだけだったその光景が、今のレリアにはありがたかった。だからだろうか、レリアの口から自然とその言葉が飛び出した。
「……2人とも、ありがとう」
そう言うと、それまで言い合っていた2人が目を丸くする。示し合わせたかのように2人は、揃って笑顔を見せるのであった。
その時。
「その……そろそろ良いかしら?」
「!?」
唐突に背後から聞こえてきた声に、レリアはピンと背筋を伸ばした。オルレアは声を掛けてきた人物を見て、不思議そうに問いかける。
「あ、貴女はフレイさんを護衛してた……どうして、こちらに?」
「少し頼みたいことがあってね……」
レリアも思わず後ろを振り返る。そこにいたのは、フレイの護衛をしていた女騎士だった。
「私は第一騎士団所属の二等騎士、ローズ・シュヴァルツ。今はフレイ様の護衛をしてるわ。短い間だけど宜しくね?」
「こちらこそ宜しく」
ローズからの握手に、3人を代表してレリアが応える。
早速話を始めようとしたローズに、フリージアが横槍を入れた。
「ローズ・シュヴァルツ、どこかで聞いたような……あ! ローズって、あの裁雷のローズっスか!?」
「フリージア、この方を知っているんですか?」
「知ってるも何も、第七騎士団で数多くの事件を解決してきた一線級の騎士っスよ!」
(確かに、初めてフレイ達と会った時に騎士に見覚えがあると言っていたな……)
そういえば、とレリアが思い出している間にもフリージアは興奮した様子で話し続ける。
「最初は貴族でも商家でもない一般家庭の育ちということで冷遇されていたそうっス。でも、ある事件を解決したのを機に周囲から認められるようになったらしいっスよ。そこからは次々と事件を解決して、最年少の若さで三等騎士に……上流階級以外出身の騎士にとっては、スーパースターみたいな人なんスよ!」
「そんな、スーパースターだなんて……言い過ぎじゃないかしら?」
ローズは照れくさそうに頭を掻く。それを聞いてフリージアはすごい人はやっぱ謙虚なんスねー! とますます目を輝かせる。
「その後も色んな事件をまるで雷のように途轍もない速さで解決することから、『迅雷』なんてあだ名まで付いたんス! 功績が認められて栄転! 第一騎士団に異動して、しかも最年少で二等騎士になっちゃったんスよー!」
「ははは……栄転ね、まあそういうことになるのかしら」
この後サイン下さいっス! と目をキラキラさせて言うフリージアに、ローズは苦笑する。
そんなフリージアを見て、オルレアは呆れ顔だ。
「それで、頼みたい事というのは?」
レリアが聞くと、ローズは真面目な表情で告げた。
「それなんだけどね……単刀直入に言うわ。フレイ様の家出に付き合ってもらえないかしら?」
「……うん?」




