19話
「フレイ様ー!」
「フレイ様、返事してくださーい! ……くそっ、教団が怪しい動きをし始めたってのに、これじゃロクに捜査出来ねえ」
「しょうがないだろ。今はフレイ様を探すのが先さ。フレイ様ー! どこですかー!」
騎士団だけでなく、使用人含めて総出でフレイを探す。だが、全く見つからない。なんのアテも無く探しているのだから仕方がないが、レリアは焦りを隠せなかった。
「はぁ、はぁ……まずい、いち早く見つけねば」
「ええ。ですが隊長、こう闇雲に探しても見つかる気が……」
「そうっスよ、今はみんなで屋敷の近隣を探してるけど、もう遠くに行っちゃってるかもっス」
──もし脅迫状を送ったのがフレイであれば、彼女は自殺する気かもしれない。
そんなレリアの推測は受け入れられ、今はこうして全員で探しているのだが……
「確かに、あまりに探す範囲が広すぎる……せめてどこに行ったか推測出来れば良いのだが」
探す側の人手に対して、探さなければならない範囲が広すぎた。何せ、フレイがどこに行ったかは分からないのだ。騎士を目指して訓練をしていただけあって、フレイの身体能力は本物だ。短時間だろうとその行動範囲はかなり広い。
それどころか、今こうやって探している間に更に遠くに行ってしまったかもしれない。あるいは、もう既に……
「……ともかく、今は手を動かすしかないか」
レリアは、脳裏に浮かんだ最悪な想像を振り払う。彼女達が今出来る事は、ただフレイの無事を信じて探すことだけだった。
「せっかく作戦会議がいいとこだったのに、こんなのあんまりっス、疲れたっス~」
「つべこべ言わずに探しなさい。疲れたのは分かりますけど。ああ、せめて何かアテがあれば……」
オルレアがそう呟くと、レリアは考え込む。
(アテか。自殺する場所……そんなもの考えた事も無かったが、もし私ならどう選ぶのだろうか)
レリアがパッと思いついたのは、思い出の場所だ。
(私なら、初めてオルレアと会ったあの場所にするかもしれないな。色々と思い入れがあるし……)
だが、問題はフレイにとってどこが思い出の地なのか分からない事であった。何せレリアとフレイは知り合ったばかりなのだ。過去にお互い面識はあった様だが、まともな交流を持ったのはつい最近。1つも思い当たる場所は……
(……ひょっとして、あれか?)
レリアの視線の先には、かつてフレイと共に登った山があった。
だが、本当にそこなのか。推測する材料が無い為、イマイチ判断がつかない。それに、あの山を登るにはそれなりに時間がかかる。もし推測が外れていれば、大幅なタイムロスになるだろう。
(このまま探しても埒が明かん。一か八か行ってみるか)
ペンダントをぎゅっと握り締める。手元のエメラルドは淡く輝いた。
「オルレア、フリージア」
レリアが呼ぶと、2人は直ぐにレリアの方を向いた。
「あの山の山頂に行こう」
レリアは、賭けに出る事にした。
幸か不幸かレリア達は賭けに勝った。全速力で山を登り、疲労困憊なレリア。そんなレリアが山頂で見つけたのは、他ならぬフレイであった。
「……出来れば、最初に来るのは親父であって欲しかったよ」
山の切り立った斜面を背後に、悲しそうに話すフレイ。レリアは問いかける。
「どうしてこんな事を?」
「あんたの事だ、だいたいは見当ついてるだろ?」
そう苦笑するフレイに、レリアは話し始める。それと同時に、密かに目で合図を送る。
「君の友人である、アネモネの自殺。それが全ての始まりだったんだね」
レリアがフレイと話して気を引き、時間を稼ぐ。その間にフリージアとオルレアが気づかれない様に近づいて、確保する。そういう手筈だった。
「元々、彼女は貧しい平民という出自だ。貴族や裕福な家ばかりの学園では異質な存在だった。彼女は、いじめられていたんだね」
「……ああ。あたしはその事を知っていた。軽く止めに入りはしたが、真っ向からあいつらに止めろとは言わなかった。……言えなかった」
幸いな事に、この山はあまり整備が行き届いていない。かつてレリア達が雨宿りした巨木を中心に、高木や背の高い雑草が生い茂っている。隠れるには打ってつけだ。
(あまり上手くいくとは思えないが……もうこれしか無い)
「いじめはエスカレートし、遂には彼女に対する性的暴行まで起きてしまった。主犯は公爵家の子息だ。それもあって、周囲は事を荒立てようとしなかった」
「全てが終わるまで、何も知らなかったよ。アネモネはあたしを……頼ってくれなかった。頼りなく見えたんだろうな、あたしが」
どうか2人に気付かないでくれ──半ば懇願とも言えるような事を思いつつも、レリアは口を開いた。
「だが、アネモネはそれでも訴えた。騎士ローズを中心に捜査は進み、あと一歩という所までいったが……
──君の父、ファウルハイトがそれを潰したんだな」
そこまで言うと、それを聞いてフレイは軽く笑って見せた。
「そうだよ。アネモネを殺したのは、親父だ」




