15話
「……薔薇砂糖? 何だそれは?」
アベルの疑問に、ローズは答える。
「……魔法で抽出した薔薇の成分が入った、上質な砂糖よ。貴方だって知ってるでしょ」
「はあ? 何でたかが砂糖を紅茶に淹れるのにあんなビクビクしてたんだ? バカなのか?」
「何でって……そんなの私を取り締まりに来た貴方が1番知ってるでしょ」
そこまで話すと、ローズは悲しそうな表情を浮かべた。
「薔薇砂糖を作れるのは、高い魔法技術を持つ王国だけ。帝国と王国は犬猿の仲だから、これは帝国では禁制品なのよ」
「……じゃあそれは、フレイお嬢を殺す為の毒じゃないのか?」
恐る恐るアベルが問うと、ローズは信じられないと言わんばかりの様子で非難する。
「はあ!? さっきから貴方は本当に何を言ってるの!? 貴方こそ馬鹿なんじゃないかしら!」
少しキレ始めたローズに対して、言い訳するようにアベルは口を開く。
「いや、だって……君がフレイお嬢を狙ってるかもしれないって、騎士レリアから聞いたから……」
「なるほどね。彼女にあんな話をしたら、そりゃ疑われるわよね。あながち間違っているとは言えないし」
「何だって? 昔は本気で考えてたみたいな言い草だな、おい」
何かの聞き間違いかと聞き返すアベルに、ローズは語る。
「……昔はそんな事を考えたこともあったわ」
改めて薔薇砂糖を紅茶に入れると、ローズは窓の外を眺める。夕日が、窓越しに彼女を照らした。
「でもフレイ様も、あの娘と……アネモネとおんなじ。まっすぐで、勇敢で、どこまでも優しいの。そんな娘を恨める訳、無いでしょ?」
「……分かるよ」
2人して無言で、フレイの部屋に向かう。紅茶を持っているローズの代わりに、アベルがドアを開けた。
「フレイ様、頼まれてた紅茶が出来たわよ……あら?」
「うん?……お嬢?」
──そこには、誰も居なかった。
慌てて2人が周囲を探すと、机の上に1枚の紙が。
「こ、これは……!」
フレイが危ない。
唐突にレリアが口にしたその言葉を、ファウルハイトは強く否定する。
「む、娘が危ない?……あの娘はそんじょそこらの騎士では太刀打ち出来ないほどに強い! 私が鍛えたのだ、そんな事は有り得ん!」
「今回の場合は彼女自身の武力など全く役に立たない! むしろ逆効果だ!」
「待て、それはどういうことだ! 説明しろ!」
そう言うや否や、レリアは全速力で走り出す。それを追うようにファウルハイトも走る。
「待て! 何処に行く!」
「フレイを探しに行くんだよ!」
その行き先は、フレイの私室。だが、そこに居たのは焦った表情のアベルとローズだけだった。
「2人とも! フレイは何処に!?」
「わ、分からない……だが、机の上にこれが!」
アベルが指す先には、1枚の紙があった。何やら文字が書かれている。
『失う痛みを思い知れ』
「なっ……」
新しい脅迫状を見て絶句するファウルハイト。
「ま、まさか本当に娘が誘拐されたのか! そんな、有り得ん!」
アベルとローズもこれを見て平常心ではいられない様だった。
「わ、私が離れたあの一瞬で、何者かがフレイ様を……3度も屋敷に侵入されたというの!?」
「警備していた騎士達は何をしてたんだ? ああ、にしてもまさかフレイお嬢が誘拐されてしまうなんて……犯人の目的は何だ!?」
「……ファウルハイト、フレイが思い入れのある場所は何処だ!」
動揺するファウルハイトに、レリアは焦った様子で問いただす。
「な、何……? そんな話を今してどうする! 今はともかく、誘拐犯がどこに行ったかを考える必要が……」
「だから聞いてるんだろうが!」
「な、何を言っている! 全く意味が分からん!」
狼狽えるファウルハイト。その一方で、ローズはレリアの言おうとしている事を察したようであった。
「まさか……」
「ああ。3度の脅迫状を送ったのも、こうしてフレイが居なくなったのも……
──フレイ自身の仕業だろうよ」




