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窓際騎士レリアの捜査記録  作者: スライム小説家
「騎士」

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14/33

14話

(ああ、にしてもステーキ食べたかったなぁ……)


 ステーキに思いを馳せながら本棚を漁っていると、小難しそうな本が大量に並ぶ中、一冊の分厚いカバーがレリアの目に留まった。


「これは?」


 ページをぱらぱらとめくり、すぐに事情を理解する。そこに収められていたのは、赤ん坊が少女へと成長していく過程を写した写真の数々だった。


「アルバム、というやつか……」


 二本の足でよちよちと立つ赤ん坊に、大はしゃぎするファウルハイト。剣を構えるファウルハイトと、それを真似して構える幼い少女。大会で優勝したのだろう、トロフィーを掲げて満面の笑みを浮かべるフレイ。


 そこには、確かに父から娘へ向けられた愛情が詰まっていた。


「これは中々……」


 本来の目的も忘れ、夢中でページをめくり続けるレリア。当然、そんなに長居していれば気づかれないはずがない。


「貴様が何故ここにいる! レリア・ローゼンベルク!」

「あっ」


 背後から怒声を浴びせられ、思わずアルバムを落としてしまう。振り返ると、屋敷の主人たるファウルハイトが立っていた。


「君、帰れという命令に従わず、それどころか私の私室に不法侵入とは……いい加減にしたまえ!」

「申し訳ない。色々と調べていまして」

「そもそも君は捜査に参加していないだろう! まったく、これも元の場所に戻さなくては……」


 怒りを露わにしながら、ファウルハイトはアルバムを拾い上げる。落ちた拍子に、先ほどとは違うページが開いていた。


「……ん?」


 そのとき、一枚の写真がレリアの目に留まった。フレイと誰かが並んで写っているツーショット写真。ちらりと見えただけで相手の顔ははっきりしなかったが――


「今の写真、見せてもらえますか!」

「はあ? 君、いい加減に――」

「いいから!」


 レリアはファウルハイトからアルバムを引ったくり、問題の写真を確認する。そこに写っていた人物は、やはり予想していた通りだった。


 それだけではない。ページをめくればめくるほど、その人物が写る写真がいくつも現れる。だが、ある時期を境にぱたりと姿を消していた。


(思い出した……私は、重大な勘違いをしていたのか)


 レリアは、フレイを騎士団本部で見かけた時のことを思い出す。なぜ彼女が本部を訪れていたのか――その時は深く考えなかった。だが、今なら分かる。


 ──アネモネの自殺に関わる関係者として訪れていたのだ。


 だとすれば、フレイが何を考えているのかもおおよそ見当がつく。


「君、話を真面目に聞き――」

「そんな話は今どうでもいい!!!」


 突然の剣幕に、ファウルハイトは思わず言葉を失った。レリアは深刻な表情のまま、静かに告げる。


「フレイが危ない」




 屋敷の二階に設けられた簡易キッチン。一階の厨房ほど本格的ではないものの、簡単な料理や飲み物を作るには十分な設備が整っている。

 そこで彼女は紅茶を淹れていた。


 それを物陰から伺う男がひとり。騎士アベルである。


(ここだ……間違いない。このタイミングだ。彼女は、ここでやる!)


 ティーポットに茶葉をひとすくい入れ、円を描くようにゆっくりと熱湯を注いでいく。注ぎ終えると蓋をし、そのまま静かに待つ。彼女の表情はどこか切なく、それでいて強い決意に満ちていた。

 二分ほどが経過した頃だろうか。蓋を外し、スプーンでそっと中をかき混ぜる。茶漉しを注ぎ口に当て、もう一つのティーポットへと移し替える。


(そろそろか……)


 アベルにとっては数時間にも感じられた数分間が、ついに終わろうとしていた。


 一対のティーカップに、静かに紅茶を注ぐ。名残惜しむかのように、じっくりと、丁寧に。

 紅茶を注ぎ終えた直後、彼女は周囲を警戒するように視線を巡らせた。その仕草は「誰にも見られたくない」と語っていた。

 そして懐から小包を取り出し、迷いなく開く。中には白い粉──それをティーカップへ入れようとした、その瞬間。


「何を入れようとしているのか、教えてもらおうか!」


 アベルが声を張り上げる。驚いた彼女は振り向き──




 ──ローズ・シュヴァルツは、静かにアベルへと視線を向けた。


「あなた、いたのね。全然気づかなかったわ」


 決定的瞬間を押さえられたというのに、ローズはどこか楽しげに微笑んでいた。


「その粉、何だ?」

「粉ってなぁに? 私、紅茶を淹れていただけよ?」


 ふふ、と笑うローズ。しかしアベルは引かない。


「さっき、さりげなくポケットにしまったそれだ」

「……バレちゃった。残念」


 おどけるように言って、小包を取り出す。しかしアベルの視線は鋭いままだ。


「それが何かによっては、ただじゃ済まないぞ」

「そうね。でも──あなたが喋らなければ問題ないわ」


 気づけば二人の距離は、手を伸ばせば触れられるほど近づいていた。背筋に冷たいものが走る。


「やめろ! 離せ、離してくれ!」

「逃げちゃダーメ♪ 一足お先に味わってみて?」


 懇願もむなしく、小包の中身がアベルの口に押し込まれる。


「もごっ! もごもごごっ!」


 甘く爽やかな香りが口いっぱいに広がる。意識が遠のく中、アベルは後悔した。


(迂闊すぎた……せめて複数人でかかるべきだった……)


 無念のまま、意識が闇に沈んでいき──







「……あれ? 俺、なんで死なないの?」

「……え? 薔薇砂糖って、死ぬほど危険な品物じゃないわよ?」


 アベルとローズは顔を見合わせ、同時に困惑した表情を浮かべた。

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