表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
窓際騎士レリアの捜査記録  作者: スライム小説家
「騎士」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

10/33

10話

 屋敷を出てどこかに向かうフレイに、レリア達はついていく。


「にしても、あの動きは凄かったな。ただの素人に出来るものじゃない」

「あたしをあっさり捕まえたあんたに言われてもなあ……」


 フレイは分かりやすく肩を落とし、溜息をつく。先程の事はフレイにとって余程悔しいらしかった。


「何か訓練でもしているのか? そうでないとあれだけ出来るのは説明がつかない」

「……昔は騎士になるのが夢でさ。ちょっと前まではマジメにやってたんだよ」

「ちょっと前までは、という事は今はもうやっていないのか?」


 レリアがそう聞くと、フレイは素直に頷いた。


「もったいない。私が君くらいの歳だった頃はここまで出来なかったぞ」

「ホントかあ? あんたとあたしってそんなに歳変わんねえだろ……」


 2人の歳の差はせいぜい5年。長い人生からしてみればそこまでの差ではない。だが、肉体的にも技術的にもその5年の影響は大きい。何せ成長期なのだ。

 レリアだってその5年を経て、大きく変わった。


「どうして、訓練をやめたんだ?」

「言っただろ、騎士になるって夢が昔はあったんだよ」

「……じゃあ、どうしてその夢を捨てたんだ?」


 途端に、それまで笑顔だったフレイの表情が曇る。いつもは喧嘩してばかりのオルレアとフリージアも、今回ばかりは2人して止めに入る。やり過ぎだと思った様であった。


「たいちょー、会ったばかりのフレイっちにアクセル飛ばしすぎじゃないっスか?」

「そうです隊長、幾ら何でも踏み込み過ぎでは……」


 フレイはそんな2人に、気にするなと言わんばかりに手を振る。


「良いよ良いよ……あんたのことだ、どうせ察しはついてるだろ?」

「まあ、な。君の父……ファウルハイトの悪評に関連していると考えているが、どうだ?」

「だいたいそんなとこだよ」


 そうぶっきらぼうに答えると、フレイは顔を上げる。彼女に釣られて他3人も、視線の先を追う。そこには小高い山があった。

 黙々と山を登るフレイにレリア達も着いていく。数分すると、見晴らしの良い山頂に辿り着いた。


「着いたぞ。あたしはしばらくここに居るから、あんたらも好きにしろ」


 それだけ言うと、フレイは腰に携えた木剣を構え、素振りを始めた。

 びゅんっ、びゅんっ、という風切り音が雨音の中に消えていく。これだけの雨にも関わらず、ひたすら彼女は剣を振り続けている。

 レリア達の方は、大樹の木陰に雨宿りすることにした。


「ひょえー、何もこの雨の中でやる必要あるんスかね?」

「凄まじいですね……フリージア、貴女もフレイさんを少しは見習ったらどうですか?」

「勘弁して欲しいっス。流石に無茶っスよー」


 雨は徐々に勢いを増し、風も強くなってきた。それでもフレイは一向に訓練をやめようとしない。


「……大したものだな」

「大したものっていうか、ここまでいくと異常っスねー」

「前言を撤回します。フリージア、流石にあそこまではしなくても良いですよ……」

「元々するつもりないっスよ!?」


 一心不乱に剣を振り続けるその姿に、オルレアもフリージアも引き気味だ。

 勿論、レリアとて同意見だ。


(疲労が大きいのだろうな、動きが緩慢になってきている。これ以上はまともな訓練になるまい)


 ただでさえ寒くなってきたこの季節に、これだけの大雨だ。おまけに風まで吹き始めた。感覚で言えば相当寒く感じているはずだ。この環境でいつも以上に消耗しているにも関わらず、まだ訓練を続けられる根性は大したものであった。


(が、そろそろ止めねばなるまい。これ以上は危ない)


「流石にもう無理だろう、止めてくるよ」

「っスねー……無茶し過ぎっスよあの娘」

「低体温症が心配です。火魔法で温めてあげた方が良いかもしれませんね」


 レリアは木陰から出て、一直線にフレイに近づく。出来る限り雨に打たれない様にそうしたのだが、一瞬でずぶ濡れになってしまい無駄だった。


(これは寒い。到底訓練どころではないな)


 レリアは剣を振り続けるフレイに声をかける。


「随分頑張るな。だが、もう限界だ。訓練にならん」


 そうして初めて、フレイはレリアに気づいたらしい。突然の声にフレイはびくっとした。


「……あ、あんたか。わりい、もうちょっとだけやらせてくれ」

「これ以上は命に関わる。そもそも、騎士になる夢を捨てた君がなぜここまで必死にやる?」

「……別に捨てたわけじゃねえよ」


 そこで初めて、フレイは剣を振る手を止めた。レリアの方をちらりと見て、また剣を振り始める。


「昔の親父は凄かった。強くて、勇敢で、清廉潔白で。騎士になりたいって夢も、親父の背中を見て育つ中で自然に芽生えた。それがより強くなるきっかけはあったけどな」


 びゅん、びゅんと風切り音が聞こえる。その剣先は今になってさらに勢いを増した様に見えた。


「だが、母さんが死んで親父は別人になった。昔より強くなったし、偉くもなったけど……それだけだ」

「それで、騎士への憧れは捨てたのか」

「言っただろ。捨てたわけじゃねえって。あたしはただ……何も守れなかった奴が騎士になれる訳ないって思ってるだけさ」


 何も守れなかった。それは、随分抽象的でピンと来ない言葉だった。フレイは話を続ける。


「親父に思うところはある。でも今は、親父が昔みたいに戻ってくれればそれで良いんだ。昔みたいに本物の騎士だった頃の親父に……」


 意外だった。あのファウルハイトにそんな時期があった事も。そしてこの少女が今になって、父への思いを垣間見せた事も。


「そのためなら何だってするさ。今はただ、その覚悟が足りなくて……でも、もう大丈夫だ」

「覚悟はついたか?」

「ああ。あんたと話してるうちに、心は決まったよ。ありがとな、ホントに」


 そう言ってフレイは笑ってみせた。大雨が降り、風が吹き、辺りは真っ暗だ。

 それでも、彼女の笑顔は一際輝いていた。




「フレイ様、それに3人共! 良かった、ここに居たのね!」


 聞き覚えのある声にレリアは目を向ける。そこにはやけに焦った様子のローズが居た。よほど急いで来たのか、鎧の所々が泥に汚れている。


「どうかしたのか?」

「大変よ! 屋敷から2枚目の脅迫状が見つかったの! それに近場で、ローブを着た怪しい男の目撃情報もあって……」


 予想外の出来事に、2人は目を合わせた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ