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箱庭の物語  作者: 川崎 春
回想・後日譚
9/10

俺の物語2

 かつて陛下には妃候補が二人いた。

 陛下は周囲の反対を押し切って、見た目と仕草で好みだった王妃を娶った。それが王妃とシルフィ夫人の差。陛下は本当に王妃を愛していたのだ。

 候補に挙がる以上、王妃の資質ありとされている。だからどちらを選んでも問題なかった。だから陛下は自分の望み通りにしたのだ。


 問題は、シルフィ夫人なら自ら好きな相手を選べる立場であったのに、王妃の提案に従って公爵家の後妻にしてしまった事だ。

「妃選びでは後悔していない。……ただ、妃の狡猾さに踊らされた事は、死ぬまで悔いるだろうね」

 シルフィ夫人とは幼馴染だったと言う。そんな人に酷い仕打ちをしてしまったのに、何故気づかなかったのか聞いたら答えてくれた。


 当時の陛下の心境は、選ばなかった妃候補が一人でいると落ち着かない、と言うものだった。誰かの婚約者に、いやいっそ結婚してくれてもいい。陛下は愛する妃と幸せになればなるほど、罪悪感にも苦しんでいたのだ。


 そこを王妃は突いて、陛下に決断を迫ったのだ。まるでそれが最善であるかの様に、公爵の後妻に推し続けたのだ。

 陛下は、二年に満たない期間に妻と死別した公爵を不憫に思っていた。だから結婚して王位を継いだ際に、シルフィ夫人に提案してしまったのだ。


 王の提案とは貴族にとっては命令だ。……皇太子と妃候補と言う気安い頃とは、話す距離も身分も違う。ただの侯爵令嬢に戻ったシルフィ夫人は受けるしかなかったのに、即位したての陛下はそれを失念していた。

 蹴落とした女が、別の男の後妻に嫁げと夫に命じられるのを見て、王妃は暗い喜びに浸ったのだろう。


 これによってシルフィ夫人が複雑な環境で生きていると気付いたのは、少し後の事だった。

 冷静に考えれば、後妻と言うのは未亡人がなるのが殆どで初婚の女性がなるものではない。いくら筆頭公爵家の夫人になれるとしても、王族が提案するのはおかしな話だったのだ。

 王妃に唆されたとしても、王として重大なミスだった。


 それで口数の少なくなった陛下を見て王妃が浮気と勘違いした。侍女に化けると言うので、わざと放置した上で、王妃を攫いシルフィ夫人に行った事を咎め、行動を抑え込むのに成功した。その産物が俺だ。


「悋気の強い女は、敵だと思った者を貶め排除しないと安心できない。一途に想ってくれる所は好ましいけれど……自分の平穏の為なら手段を選ばないから、ちゃんと見ていないといけないんだ」

 言葉を切ってから陛下は真剣に言った。

「レオニスがディアナ嬢を愛しているなら覚悟が必要だ。それはできている?」

「多分、できていません。少し時間を下さい」

 陛下は満足そうに頷いた。


 言葉に従い、公爵家について改めて調べ直す事にした。

 公爵を呼んで話を聞いたが、公爵家でもディアナの事は持て余している様子だった。

 一方的に疎外感を覚え、怒りを募らせるディアナをなだめる方法が無いのだ。俺としては……彼女よりも美しい女性はいないと思っているから結婚したい。しかしそれ程となると少し冷静になる。


「メイフィー嬢の嫁ぎ先は国外の方がいいかも知れない」

 王妃がシルフィ夫人に行った事を知っているだけに、ディアナの妹の方が心配になってしまった。

 俺の提案に公爵は頷くと言った。

「実は、頼もうと思っている相手が居るのです」

 考えた末に出来上がったのは、芝居のような筋書きだった。これにクリスが乗り、多くの者が協力した結果、俺はディアナを婚約者に迎えた。

 曇りなく笑うディアナが可愛いくて、茶番をした事はすっかり忘れていた。


 それから歳月が流れ、ディアナがあの茶番に気付いて苦しみ始めた。

「苦しんだところで、相手は思い出して欲しいとも思っていないよ?」

 酷く傷ついた顔をする彼女を抱きしめて耳元で言う。

「大嫌いだったのだろう?もう君の前に二度と現れない」

 ディアナの顔から血の気が失せていく。

「愛しているから君の憂いを払ったのに、嫌だっていうの?」

「ひっ……」

 血筋だろう。俺は性格が悪いのに憶病で、とてつもなく美しいこの女が大好きなのだ。

 どんなに悪女でも、愛している。だからこそ……躾けなくてはならないのだ。

<時系列>

①第一王子の誕生(この直前に公爵の先妻死亡。国を挙げての祝いだったので喪に服せなかった)

②シルフィーが祝辞を述べに来た際に、公爵の縁談が王の勧めで決まる

③シルフィーの立場に王が気づき、王妃の悪意と自分の迂闊さを呪う

④王妃にお灸を据える

⑤レオニス誕生


レオニスはディアナの二歳下です。派手顔な美悪女趣味のヤンレデ王族。

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