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箱庭の物語  作者: 川崎 春
回想・後日譚
7/10

私の物語3

 気になった私は過去の資料を調べてみる事にした。

 結果……クリス様が元々隣国の公爵家を継ぐ事が決まっていた事を知った。その時期は私と婚約する前。つまりクリス様は元々この国を去る予定だったのだ。


(何故私には教えてくれなかったの?)


 思い返せば、私は自分の事ばかり話して、クリス様の話を殆ど聞いていなかった。聞いていたとしても……覚えていないのだ。

(私は自分の知っている事やしたい事を話して、彼は聞き役に徹していた。楽しそうに話を聞いてくれるから楽しい時間だと思っていた。けれど、公爵家の嫡男であるクリス様が……宰相様のご子息であるクリス様が、まさか外国へ行くなんて思わないじゃない)

 しかし改めて思い返せば、私はクリス様の事を知らない。


 そして……私に伝えられた事実などどこにも無かった。メイフィーが断罪されたと言う事実も無く、ただ隣国へ婚約者として旅立ち、数年後に公爵夫妻になった。それだけ。

 クリス様はあちらでクリストファーと改名し、メイフィーもメイフィーアと改名していた。会った事がないから語感が似ていても気づかなかった。


(私とは婚約すらしていなかった)

 浮気も何も……私はレオニス様以外の婚約者を持っていなかったのだ。

 確かにあちら有責で婚約破棄した末に、国外追放になったと聞いたのに。当時は婚約破棄のショックが大きくて、あらゆる話を聞いていなかったのも原因だ。覚えている事が少ない。


 どうしてこんな事をしたのか……分からない。

 答え合わせがしたくて、引退した父に手紙を書くと返事が返って来た。内容は衝撃的だった。


 高位貴族の令嬢だと言うのに、その資質を持っていないと判断されていたからだった。

 多忙で帰れない事を繰り返し謝罪し、言葉を尽くした父を無視し、お腹に私が居るにも関わらずベランダから飛び降りた母。そんな人と同じ気質だと……そう思われていたのだ。


 貴族が血税で裕福な暮らしをするのは、それだけ仕事が多いからだ。子を産む以外は贅沢をし、夫の愛に溺れていればいいなんて考え方は女であっても許されない。王子妃になってその事は学んで経験した。

 しかし、実家に居た時はその事を分かっていなかった。分かっていないどころか、与えられない愛を欲しがり続けていた様は、実母そのものだ。


 それを持て余し、王家と公爵家で考えたのだ。私を望んでくれたレオニス殿下の元に、不満なく私を嫁がせる為の茶番を。それで私の悪意や敵意を全て……クリス様とメイフィーに押し付けて国から追い出す事にしたのだ。私と関わらない場所へあの子を逃がすにも好都合だったから。


 顔を覆う。大嫌いなメイフィーが国外追放になったと聞いた途端、公爵家を離れて王宮に行くのが惜しくなった。メイフィーの居ない屋敷で、義母とお茶をして和やかに語り合い、花嫁道具を揃えて幸せに嫁いだ。メイフィーが居なくても、私が幸せになれば母は元気になる。そう安易に考えていた。

 ……義母にとって、地獄の様な時間だったに違いない。実の娘にそんな役目を押し付けて国から出したのだから。しかし、それを義母は微塵も見せなかった。


 弟とはクリス様と婚約した頃から、一緒に食事をとっていなかった。それどころか……爵位を継ぐまで一度も会っていなかった。剣術の指導で食事の時間が合わないと言われていた。実際は違ったのだ。

 弟は、王族になる異母姉を気分良く送り出す為に実姉が使われた事を怒っていたのだ。子供だったから顔や言葉に出る可能性がある。両親は私に悟らせない為、弟に会わせなかったのだ。

「あぁ……」

 溢れる涙を止められないまま、その場で泣く事しか出来なかった。


 メイフィーとカイル、彼らの誕生日は知っていても、好きなものが一つも分からない。それが答えだ。

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