私の物語2
ディアナ視点の後日譚です。
レオニス殿下との日々は私の傷ついた心を癒やす。王子宮では娘も生まれ、更に幸せは増えていった。
嫁いでから五年が経った。
六歳年下の弟、カイルが家督を継いで挨拶に来る頃には、私は二人目の子を妊娠中だった。久々のお産で心配していたが、子供は元気なようで医師からも心配はないと伝えられている。第二王子であるレオニス殿下は性別を気にしない。だからリラックスしてお産を待っている。
「妃殿下、おめでとうございます」
「ありがとう。カイルも夫人とは仲良くしているみたいね」
茶会で新婚の初々しさを漂わせていたカイルの妻の姿は記憶に新しい。
「はい」
照れながら言うカイルは弟として親しみを覚える。
(?)
どうしてだろうか、その時、急に何かが引っ掛かった。
「殿下?」
怪訝そうなカイルに私は笑顔で言う。
「何でもないわ。少しお腹が張ったの」
「それはいけません。今日はお暇します。健やかにお過ごし下さい」
カイルが去った後、私は妊婦特有の不安感だろうと思い、その事を忘れた。
その後、私は出産を迎え、次女を出産した。
王女だと伝えられた途端、私はその子を受け取っても素直に喜べなかった。
「男の子じゃなくても平気だよ?きっと、産後の気鬱だ。ゆっくり休めば治るさ」
レオニス殿下の言葉に頷きながらも、ひっかかりは取れないままだった。
そして歳月は過ぎていく。
「何故レニアばかり、ずるいわ!」
姉のアニラが涙目で私を睨む。
「レニアは幼いのよ?ほら、いらっしゃい」
アニラが泣きながら私に抱き着くので、二人を抱きしめる。
そして、過去の自分の考えが幼かった事に気付いた。……四歳も年下の妹の行動を「甘え」だと言ったが、年齢が違うから甘えでも何でもなかったのだ。
それを聞いて義母はどうした?思い出せない。
娘達は仲睦まじく育っていく。
「お姉様!私もその色のリボンがいい」
「あなたには少し大人っぽいデザインね」
「私も背伸びしたいお年頃なんですぅ」
「間の抜けた話方をしないの」
「はぁ~い」
「……いい加減にしなさいね?」
「ごめんなさい。こっちのリボンは好きな色だから同じようなものを沢山持っているのよ。だから飽きてしまったの」
「仕方ないわね。今回は交換しましょう」
「ありがとう。お姉様」
私の誕生日に贈られる品とメイフィーに贈られる品はほぼ同じだった。私は好きなデザインを伝えていたが、メイフィーはそれをしていたのだろうか。
こんな風に話をしようともしなかった私には、それも分からない。分かるのは、メイフィーが優遇されていたと言うのは、私の思い込みだった可能性があると言う事だけだ。
愛に飢えた私は、父や義母に実子であるメイフィーよりも自分を大事にしていると主張して欲しかった。子を持った今なら分かる。そんな事出来る訳がないのに、欲しがり続け傷つき悲しんだ。さぞや困った事だろう。
婚約者を奪ったメイフィー。私は悪は消えてしまって当然だと思っていたけれど、悪を断罪出来る程に公平な目を持っていなかったかも知れない。
彼女の人生はもしかして、私と姉妹だったせいで滅茶苦茶になったのではないか?
そうだとしたら、クリス様を奪ったのは私への復讐?
カイルにとっては同腹の姉だ。親し気に見えて、本当は何か思うところがあるのではないか。
私は自分が報われて当然だと思っていた。しかし……本当にそうなのだろうか。
過去の自分が身勝手だった事に気付いた途端、足元がバラバラに砕け散ったような気がした。