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箱庭の物語  作者: 川崎 春
茶番劇
3/10

僕の物語2

 先妻が亡くなった後、王家経由で娶る様に打診が来たのが……侯爵家の令嬢であり、王太子の妃候補だったシルフィ夫人だった。

 大臣達が今の王妃殿下ではやり辛いから推していたが、陛下は選ばなかった。

 物言いは柔らかく、嫌な相手にも笑顔で接して根気強く対応する。いわゆる聖女の様な女性だ。


 公爵としては、先妻とは全く違う女性を夫人に迎え、ディアナ嬢の教育をしたいと考えていた。同じ事が起こっては困るからだ。しかしそんな女性をどうやって探せばいいのかもわからない。そこに来た話だった。


『お嬢様の為に、私は三年は子を産みません。ですのでその間は白い結婚でお願いします』


 公爵家の長子であるディアナ嬢をおろそかにしたくないと言うのが彼女の主張だった。……暗に、もし気に入らなければ結婚を白紙に戻せる状態にしないかと言う提案でもあった。

 公爵家の家政だけでなく領地経営も任せられる程の教養と社交性。そして先妻の子に対して敬意を払う姿勢。公爵は好感を持ち、すぐにシルフィ夫人と再婚を決めた。


 白い結婚は婚約期間の様な役割を果たし、二人は親睦を深めて仲睦まじい夫婦になった。

 そしてメイフィー嬢、カイル殿が生まれた。

 公平に子供達に接しているシルフィ夫人は屋敷でも信頼を集め、侍女長の勧めもあり屋敷を自分好みに変えていく事になった。ディアナ嬢の為に、長く先妻の好みのままにしていたからだ。

 皮肉な事に、ディアナ嬢にとっては母の面影を消していく作業に見えたらしい。


 どこの家でも跡取りが生まれると描かせる家族画も気に食わなかったらしい。

 この国の貴族の風習であり、彼女も公爵の子だと周知させる為の絵でもあったのだが……容姿が似ていない事で酷く傷ついたそうだ。


「幸い……第二王子殿下がディアナを望んで下さっている。できれば嫁がせたいが、このまますんなりと行くとは思えず……」

 父が頷いてから言う。

「王族は公私半々どころか公が多い暮らし。不安にもなられるでしょう」

 相手は王族だ。王子妃が衝動的にベランダから飛び降りる様な事があれば、王族の歴史に残る程の醜聞となるだろう。

「陛下にも相談したが……ではどうするつもりかと問われ、答えられなかった」

 長子の令嬢が何処にも嫁がないで家に居ると言うのは……後に生まれた子供達が困る事になる。


 立場の高いこの手の令嬢は、病弱と言う事で別邸に入れた後で寄子に嫁がせるのが一般的なのだが……ディアナ嬢が話通りの性格なら、間違いなく何かが起こる。その方法は取れない。

 勉学も普通どころか良く出来るし、悪い部分は周囲に知られていない。となると、修道院に入れる理由もない。


 父は言う。

「王宮に入るのは悪い手ではありませんよ。人が多いですから」

「陛下にも言われた」

 監視されているから、勝手な動きはできないと言う事だ。……しかし、それを悟られては厄介な事になる。檻に入れるように嫁がせるのではなく、喜んで檻に入ってもらうべきだろう。


 僕がそう考えていると、父も同じ結論に達したのか言った。

「息子と婚約させ、こやつから妹君に乗り換えたと言わせる訳ですな。そこで王子殿下が求婚をすると」

「宰相にはかなわんな……その通りだ」

 人は窮地を助けてくれた人に惚れるし、一度窮地を経験すると、そうなりたくないと思うものだ。それを利用し、ディアナ嬢に気持ちよく嫁いでもらおうと言う作戦らしい。

(茶番だろ。……でも面白そうだな)

 彼女の為の舞台で悪役を演じる事を、僕は了承した。この奇妙な舞台の行く末が気になってしまったからだ。

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