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第五夜:影への変貌

影山はタバコの煙を吐き出した。その煙が、まるで生き物のように蠢きながら闇の中へと溶けていく。


「何かが、違う」

 彼は呟いた。自分の影が、いつもと違う動きをしている。まるで、別の意志を持つかのように。


 タバコの火が不自然に明滅し始めた。その光が、影山の影を異様に歪ませる。


「時が来たようね」

 女性の声が、どこか期待に満ちていた。


 影山は動けなくなっていた。影が、まるで触手のように彼の足首に絡みついている。タバコが指からこぼれ落ちる。


「これは...」

 彼の体が内側から熱を持ち始めた。影が徐々に這い上がってくる。抵抗しようとしても、体が言うことを聞かない。


「受け入れなさい」

 女性の声が、遠くなっていく。

「これがあなたの、本当の姿なのだから」


 影山の意識が、深い闇の中へと沈んでいった。

「もう、逃げることはできない」

影山は自分の影を見つめていた。影はゆっくりと立ち上がり、人型から歪な形へと変容していく。

「受け入れろ。お前の本当の姿を」

影が囁く。黒い触手のような物が伸び、影山の体を包み込んでいく。抵抗する術もなく、彼は闇の中へと沈んでいった。


次の瞬間、影山の体が激しく歪み始める。指が伸び、鋭い爪となって伸びる。背中が裂け、そこから漆黒の翼のような影が生えてくる。顔面が崩れ、無数の目が浮かび上がる。


「これが...俺の本当の姿なのか」

もはや人とは言えない姿になった影山は、夜の街を見下ろす。街灯の明かりが、彼の歪んだ体を不気味に照らし出していた。


影山の体が、ゆっくりと闇に飲み込まれていく。抵抗する術もなく、彼の意識は深い暗闇へと沈んでいった。


「これが、お前の選択だ」


 影の声が、彼の全身を包み込む。


 激痛が走る。影山は悲鳴を上げようとしたが、声にならない。体が内側から引き裂かれていくような感覚。骨が軋み、肉が溶け、皮膚が裂けていく。しかし、それは終わりではなく、新たな始まりだった。


 黒い粘液のような物質が彼の体を覆い、新たな形を作り出していく。指が鋭い爪となって伸び、背中が裂け、そこから漆黒の翼のような影が生えてくる。顔面が崩れ、そこに無数の目が浮かび上がった。


「ついに、目覚めたわね」


 女性の声が聞こえる。彼女は恐れる様子もなく、怪物と化した影山を見つめていた。


「これが......俺の本当の姿?」


 影山は自分の姿を確認しようと、近くのビルの窓ガラスに映る自分を見た。そこにあったのは、もはや人とは言えない存在だった。漆黒の体表には無数の目が浮かび上がっては消え、触手のような付属物が絶えず蠢いている。


 しかし、不思議なことに恐怖は感じなかった。むしろ、この姿こそが自然なようにさえ思えた。


 頭の中にはショパンの荒々しくそして心地よい幻想即興曲のようなメロディーが流れていた。


「人々の影に潜む闇が見える......」


 影山は呟いた。街を見下ろすと、人々の影が違って見えた。それぞれの影の中に、その人が抱える闇や苦しみが色となって見えている。


 ある男の影には金への執着が赤く燃え、ある女性の影には孤独が青く染み出していた。そして......


「あれは......」


 遠くに、異様に歪んだ影を見つけた。暴力への衝動が渦巻く影。まさに、今夜彼が追い払った強盗の男のものだった。


 影山は無意識のうちに飛び立っていた。漆黒の翼が夜空を切り裂く。強盗の男を見つけるのは容易だった。その歪んだ影が、まるで光のように彼の目に映るのだから。


 男は新たな獲物を探して路地を歩いていた。その時、頭上から漆黒の影が降り立つ。


「お前の中の闇が......見える」


 影山の声は、もはや人のものではなかった。無数の声が重なり合ったような響きを持っていた。


「な、何だお前は!」


 男は恐怖に震えながら後ずさりする。

 影山は手を伸ばした。男の影が蠢き始める。そして......


「自分の闇と向き合え」


 男の影が立ち上がり、男自身を包み込んでいく。男は悲鳴を上げた。しかしその声は、次第に弱まっていった。


 やがて影が引いていくと、そこには打ちのめされたように座り込む男の姿があった。その目には、懺悔の涙が光っていた。


「これが......俺に与えられた力なのか」


 影山は空を見上げた。今までにない充実感が体を満たしている。


 彼は気づいていた。この姿こそが、自分の罪を償う手段なのかもしれないと。人々の影に潜む闇と向き合い、それを浄化する存在として。


「さあ、行きましょう」


 女性が傍らに立っていた。


「まだ、あなたにしかできない仕事が残されているわ」


 影山は無言で頷いた。漆黒の翼が広がり、二人は夜空へと消えていった。


 この夜から、影山智という存在は姿を消した。代わりに、影の世界と現実の狭間を漂う、新たな存在が生まれたのだ。


 人々は時折、夜の街で異形の影を目撃するようになった。それは恐怖をもたらす存在ではなく、どこか哀しげで、しかし優しい存在として。


(続く)

最近学業が大変で小説を書けていませんでした。

またぼちぼち上げていこうと思うのでみてくださると嬉しいです!

もうすでに伏線を貼ったりしているので考察とかしても面白いかもしれません。。。

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