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第2話 桜田門外の変

 試衛館の門弟となった土方歳三は、年下の沖田総司と仲良くなり、


「総司、稽古の相手をしてくれよ」


 と、声をかけ、よく一緒に稽古をしていたのだが、


「土方さんは、熱心ですね」


 そう微笑みながら応じる沖田は、天賦の才があり、


「本気で立ち合えば、師匠の近藤勇より、上なのではないか」


 とまで、噂されている剣士だ。


 その沖田に、荒削りな土方は喧嘩殺法で挑んでは、軽く、あしらわれていたのだが、


 そのうちに互角の勝負をするようになった。


 

 日に日に強くなる土方を見て、試衛館の先代、近藤周助も感心したように、


「あの土方歳三という男は、真剣で斬り合えば、そうとう強いな。今が戦国の世ならば、名のある武将にも成れたものを」


 と、惜しがる。だが、その頃であった。江戸で大事件が起きたのは。


 

 1860年。三月三日。桜田門外の変。


 水戸藩の脱藩者十七名と薩摩藩の脱藩者一名が、彦根藩の行列を襲撃、大老・井伊直弼を殺害したのだ。


 井伊直弼は、その独裁と弾圧で、尊王攘夷派から『安政の大獄』の恨みを一身に受け、


「井伊直弼を暗殺すべし!」


 との声が上がる。それに呼応したのが水戸藩の志士で、彼らは脱藩して、井伊を討つために江戸に向かった。


 

 事件当日。季節外れの雪が、前夜から降り、辺りは真っ白になっている。


「この雪を、血で、真っ赤に染めるのか」


 一人、薩摩藩から参加した有村次左衛門が、白い息を吐きながら、呟く。


 この頃には、大名行列の見物のために、多くの江戸町民が沿道に集まっていたのだが、


 まだ二十二歳と若い有村は、町民に混じり、身を潜めながら、


「この大勢の見物人の目の前で、井伊の赤鬼の首を討ち取ってやる」


 と、心のなかで意気込んでいた。


 そして、標的の井伊直弼の行列がやって来る。供回りの徒士かちは六十人ほどか。


 雪で視界は悪く、彦根藩の供侍たちは雨合羽を羽織り、刀の柄、鞘にもに袋をかけているようだ。これでは瞬時に、反撃できないだろう。


 数で劣る襲撃者側が、格段と有利になる条件が揃った。


「天の理は、我らに有りだ」


 有村の独り言の直後、駕籠直訴を装った一人の志士が行列に近づき、いきなり彦根藩士に斬りかかった。


「うがっ、何奴」

「天誅だぁっ!」


 そして拳銃が、


 バアーン。


 発砲され、これを合図に、襲撃者の志士は一斉に、井伊直弼の駕籠へ襲いかかる。


 有村次左衛門も抜刀し、


「うおおおぉぉぉぉっ!」


 叫びながら走った。走りながら、一人か二人を斬り、井伊直弼の駕籠へと迫る有村。


 大勢の江戸町民の見物人が、


「あ、ありゃ、な、何だ?」

「斬り合いだ。斬り合い!」


 見ている前で、血飛沫の飛ぶ死闘は、くり広げられた。


 激しい乱戦の中で、井伊直弼の駕籠は襲撃者から滅多刺しにされる。


 ズボオッ!

 ズバアッ!


 最後は有村が、血まみれの井伊を駕籠から引きずり出し、気合一閃、薬丸自顕流で首を斬り落とした。


「奸賊、井伊直弼、討ち取ったり!」


 有村は刀の切っ先に井伊直弼の首を突き立てて引き揚げようとしたが、


 斬られ昏睡していた箱根藩士・小河原秀之丞が、有村の勝ち名乗りを聞いて蘇生する。


 主君の首を取り返そうと、有村の背後から、後頭部を斬撃した。


 ガヅッ。


「なっ、後ろから……」


 すぐに小河原は他の志士から斬り殺されたが、この一撃で、有村は重傷を負い、歩行困難となる。


「いかん、こ、これまでか」


 倒れ込んだ有村は、切腹しようとするが、すでに、その力が残っておらず、救出された。しかし、間もなく絶命する。


 この前代未聞の衝撃的な事件により幕府の権威は失墜し、泰平の江戸時代も終わりを迎えるのであった。

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