王都ラズベル②
「約二日間、お疲れ様でした。本日はもうお疲れでしょうし、宿をとってありますので、そちらでゆっくりとお休みなさってください」
「はい……」
「明日の朝、またお迎えに参ります」
去っていく馬を見送り、その場に座り込む。
はあ、気持ち悪い——。
宿から出てきた酔っぱらった客の騒々しい声が頭に響いて、さらに体調が悪化する。
「兄ちゃん、大丈夫か?」
そのまま座り込んでいると、酒を片手に持った中年の男が話しかけてくる。
「とりあえず、中に入るか?」
話そうとすれば、吐きそうになる。
頷こうにも頭を上下に振れば、吐きそうになる。
そんな最悪な状況を嘲笑う、悪酔いした客の集団が絡んでくる。
酒に溺れた同士だと思われたのだろう。
兄ちゃんも酒飲みすぎたか、とか。
僕の顔を見るなり、未成年なのにダメじゃないか、と説教してきたり。
終いには、肩に手を回して体を揺らしてくる。
「おい、そんなことしたら————」
当然吐く。
悪酔いした客は、吐かせるだけ吐かせてどこかにいってしまった。
吐いた後、しばらく親切なお兄さんが介抱してくれた。
ベッドで少し休んだ方がいいと言われ、フェイルさんがとってくれた部屋で休んだ。
ベッドに横になって吐き気もなくなってきた頃、誰かが部屋を訪ねてきた。
「あ、先ほどは」
どうもありがとうございました、と頭を下げる。
介抱してくれた親切なお兄さんだった。
「下で一緒にどうよ」
一階の酒場に誘われる。
この宿は吹きぬけ構造の三階建てで、部屋を出れば下の階がよく見える。
どうにも乗り気になれない。第一、お酒が飲める年齢じゃない。
にもかかわらず、気付いたら酒場にいた。
空いている席がなかったので、二階へと続く階段に座る。
「宿の前で座り込んでるから何事かと思ったよ」
「乗り物酔いしてしまって」
申し訳なさそうに僕が言うも、へぇ、と興味がなさそうだ。
僕の隣に座り、きょろきょろし始める。
一階の酒場にはいろんな人がいた。
冒険者、騎士、門番など。
誰かと待ち合わせしているのかもしれない。
と、いきなり嬉しそうに大きく手を振る。
「あれ、俺のお気に入り」
聞こえないように、耳打ちをしてきた。
呆れた。
ここは、キャバクラじゃないんだぞ。
探していたのは、メイド服を着た可愛らしいウェイトレスのお姉さんだった。
身長が低めで、垂れ目の少しむちっとした巨乳の子。
おじさんの口角は上がりまくっている。
お姉さんからお酒を受け取り、お前もどうかと勧められる。
「僕未成年なので」
お酒は十八歳からしか飲めない。僕はまだ十七だ。
やっぱりか、と。
ならなぜ勧めた!と思わずツッコみたくなった。
もらったお酒をすごい勢いで飲み、僕の顔をじっと見てくる。
「ここらじゃ見ない顔だけど……。お兄さんどこ出身?」
ああ、言われてみればそうかもしれない。
学校では、地方出身の子もいて、僕の見た目はそう珍しくはなかった。
黒髪に茶色い瞳。肌も少し焼けている。
対してここは王都ラズベル。
周囲を見渡してみると、ブロンドが多い。瞳は青だったり、緑だったり。肌も白い。
まるで異世界に来たみたいだ。
「ディコイです」
「ディコイ、ね。聞いたことないな」
それもそのはず。
ディコイは今も昔も、地図に存在しない村なのだから。
あまり聞かれたくないことを聞かれて、居心地が悪くなる。
「そろそろ僕は……」
「もう行くのかよ」
明日も早起きしなければいけない。
しつこく引き止められると思ったが、あっさり受け入れてくれた。
「次会ったときは飲もうな」
目の前に拳が出される。
僕はそれを無視して、会釈してその場を離れた。
部屋に戻り、ベッドに横になる。
おさまった吐き気も少しぶり返し、その夜はあまりよく眠れなかった。
翌朝になると、吐き気はおさまり気分も良くなっていた。
窓を開けると、気持ちいい風が入ってくる。
こういう日は散歩したくなる。
窓から少し身を乗り出すと、フェイルさんの姿があった。
急いで支度をする。
寝癖も直さず、荷物をとにかく鞄に詰め込み、外に出る。
「おはようございます!」
「おはようございます、ナイル様」
「では、王都ラズベルの案内をさせていただきます」
いよいよ、今日。
僕の冒険が始まる。




