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誰にでも優しい学園一の美少女が、僕の公開処刑を企んできたので返り討ちにした。  作者: 二上圭@じたこよ発売中
1 性癖を満たすために僕の公開処刑を企んできた甘井さんを返り討ちにした
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03 甘井さんと僕らはこうしてすれ違う

「あ、ユユー、おっそーい」


 待ち合わせ場所つくと、いのりが口をすぼめながら腰に手を置いた。そんな友人に優々子は、手を合わせながら謝罪した。


「ごめんごめん、いのり。ちょっと男の人たちに絡まれちゃって」


「え、大丈夫だったの?」


 遅れてきた理由を聞いて、いのりはすぼめていた口を引っ込めた。心配して案じる声をかけた。


 優々子はなんともなさげにかぶりを振った。


「うん、大丈夫だった。ルカくんがね、助けてくれたから」


「へー、真中くんがー」


 心配の次は興味深そうな顔をするいのり。ニヤニヤしながら噂話好きの主婦のように、手のひらを口元に添えた。


「王子様が助けてくれたんだー。よかったねー、ユユー」


「お礼にほっぺにちゅーしちゃった。しかも二回も」


「きゃー、ユユったらだいたーん!」


 ピースする優々子に、いのりははしゃぐように黄色い声をあげる。恋バナが大好きな女の子を体現するかのようだった。


 ただしその盛り上がりは、長くは続かなかった。


「そしたらね、ルカくんの顔が真っ赤になって……すっごいね、可愛かったの。あー、こんな困った顔をするんだって……ゾクゾクってしちゃった」


「本当、拗らせてるわね、ユユってば」


 友人の困ったところを見せつけられたからだ。


 そのときのことを思い出しているのか、優々子は口元に手を添えながら、目をニタニタとさせ、身を震わしているのだ。その様は楽しいや嬉しいを突き抜けて、性的興奮を覚えているそれであった。


 いのりは知っていた。優々子は好きな人の困った顔が好きで、それを見るとゾクゾクっとして気持ちよくなってしまうことを。困った顔の君も好きなんてものではない。それは既に、性癖と呼べるものに昇華していたのだ。


 瑠夏の困った顔でごはんは三杯いけると言われたときは、さすがのいのりもギョッとした。


「いい加減さ、ユユから告白したらいいのに」


 性癖が拗らせているのはともかく、優々子がどれだけ瑠夏のことが好きなのか。いのりはわかっているつもりだった。


 もうとっとと付き合っちゃえと常々思っていたので、いつものように言ったら、


「うん、決めた。告白する」


「え、本当に!?」


 応と返ってきて驚いた。


「いついつ、いつするの!?」


「今度の文化祭で……みんなの前で、あなたのことが好きです、って言おうと思う。いのり、手伝ってくれる?」


「手伝う手伝う! 実行委員のミスコンを私物化してでも絶対に手伝う!」


 友人がついに告白すると知って、その場で跳ねてしまうほどにいのりははしゃいだ。


「ルカくん……どんな顔するかな」


 やっとかー、といのりは思っていると、優々子の顔の異変に気づいた。


「衆人環視に晒されて、いきなり告白されたらすっごい困った顔するよね。今日見せてくれた顔より、もっと真っ赤になって……あぁ、想像するだけでゾクゾクしちゃう」


 恋する乙女の顔なのか、はたまた性癖を満たしている顔なのか。中学以来の付き合いであるいのりを持っても、判断はつかなかった。


「本当、拗らせてるわね、ユユって」


 そんな困った友人に、いのりはただため息をついた。



     ◆



 その報が届いたのは、夕食も食べ終わった七時頃だった。


「大変だルカ!」


 当然のように家に上がり込んでいると思えば、ハルたちが僕の部屋に突撃してきた。


「なんだよふたりとも、いきなりさ」


 いやらしいものを見ていたわけではないので、落ち着いて読んでいた本を閉じた。


「今度の文化祭で、甘井がルカに告白することが決まった!」


「は?」


 ハルが発した言葉の意味が、いきなりすぎて理解が追いつかなかった。


「それもミスコンの最中にだ!」


「はぁ!?」


 アキが続けた言葉で、ようやく理解が追いついて驚いた。


 文化祭のミスコンの最中に、甘井さんが僕に告白する。その意味がわからないほど、僕は鈍感ではなかった。


「それってまさか……」


「間違いない、ルカを見世物にしてミスコンを盛り上げる腹だ」


「クソ、そんなのただの公開処刑じゃないか!」


 やはりアキの言う通りかと、頭を抱え机に突っ伏してしまった。


 もしかして、前回教室で起きたツンデレ意地悪女事件のことを、まだ根に持っているのか。大岡裁きだけでは許せなかったのか甘井さんは。


 そう思ったが、先日のナンパのことを思い出した。


 嫌いな相手にあそこまでしてくれるだろうか? むしろ、実は僕に気があるから、あそこまでしてくれたのではないか。彼女に想われるフシに心当たりがないこともなかった。


「ちなみに……ワンチャン、本当に告白ってことはないの?」


「あるわけないだろ」


「だな、絶対にない」


「おまえら本当に親友か?」


 親友たちが僅かな希望を、ばっさりと切り捨ててきた。


 僕らの友情はここまでかもしれない。そう思ったらハルが口を開いた。


「冷静に考えてもみろ。甘井は結果的に注目されることはあっても、人の注目を浴びて喜ぶタイプじゃないだろ」


「告白するならこんな大舞台じゃなくて、校舎裏でひっそりとやるタイプだ」


「自分の想いを伝える。そんな大事な人生のイベントを、わざわざ見世物にするか?」


「まるで甘井らしくない。間違いなくこれは告白じゃない、公開処刑だ」


「たしかにそれもそうだな」


 甘井さんのような人が、僕のことを好きになるわけがない。というアプローチではなく、ふたりの分析は現実的なものだった。これには僕も溜飲を下げて納得せざるを得なかった。


 アキは腕組みしていた右手を上げると、そのまま人差し指を立てた。


「当日の流れはこうだ。まずは女性部門で一位となった甘井が、男性部門の審査員をやる。そこで参加している俺たちふたりが、甘井に告白するんだが……どちらも選べませんと言って、ルカを名指しにして舞台へ上げる。そこで告白するというわけだ」


「俺たちが出場したら、間違いなくルカは見に来てくれるからな。そこを狙った作戦らしい」


「おい、裏切り者! しれっと向こう側につきやがったな!」


 まさかの裏切りに僕は声を張り上げた。


 やはりこいつらとの友情はここまでかもしれない。


 そう心に決めると、ハルがどーどーと馬を鎮めるように、両手のひらを見せてきた。


「待て待て。俺たちがルカを裏切ると本気で思ってるのか?」


「ルカを裏切るくらいなら、腹を切ったほうが百倍マシだ」


「話を聞こうか」


 とりあえず今後の友情をどうするか、保留した。


 アキは中指で眼鏡をクイッとした。


「いいか、ルカ。こういう場合、なにが一番怖いと思う?」


「なにが一番って……えっと」


「相手がなにをしようとしているのかわからない。それが一番怖い」


 悩む僕に、ハルが引き継いで答えた。


「つまり俺たちが虎穴に入ることで、内情を把握することができる」 


「俺たちが協力しなかったところで、流れはもう変えられない。だが、抗うことはできる」


「いいのか、ルカ。このままやられっぱなしになっても」


 ポン、とハルが僕の肩に手を置いた。


 ようやく流れがわかった。やはり僕たちは親友で間違いなかった。


 なにせ文化祭のミスコンは、男は女装を、女は男装するイベントだ。ふたりは女装してまで僕のために尽くしてくれるというのだ。


 やはり持つべきものはかけがえのない親友である。


「ああ、このままになんかできやしない」


 親友たちがここまでしてくれると言うのなら、僕も立ち上がるしかない。


 僕らは円陣を組んで、気合を入れた。


「今度の文化祭、甘井さんを迎え撃つぞ!」


「「おー!!」」

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