#1 : Loser
はじめに
この作品に登場する団体、地名、人物は実際の世界と一切関係ありません。細かいことを言わないでください。作者は所詮にわかです。
仮面ライダー。
これに幼少期の俺は憧れていた。
もちろん幼稚園の頃の話だ。
だが当時のひねくれた俺は気づいていた。
そんなもの実在しないと。
ーー20年が過ぎた今。俺はライダーになった。
#1:Loser
2028年3月27日、俺の人生はまた動き出した。
朝6時40分、いつもと同じように目を覚ました俺に、今日も看守が体調の確認と点呼を取りにやってくる。
ここは千葉県千葉市若葉区にある千葉刑務所。主に重大な犯罪を初めて犯した人間が入れられる刑務所だ。
点呼と体調確認を終え、今日もいつも通り、7時に食堂へ向かうように指示が出ると思っていた俺に、思いがけない一言がかかった。
「今すぐ所長室へ向かうように。」
声も出なかった。所長室に呼ばれる、ということはこの刑務所では釈放の時以外ないことになっていた。俺の刑期はあと3年残っているのに。
確かに、俺は一生懸命作業に励んでいた。この7年間ルールを破ったことはただの1度もないし、ここでは日常風景となっている喧嘩やいざこざにも1度も関わったことがない。
自分史上最速の速さで寝巻きから刑務服に着替え、管理棟へ向かった。自分の部屋の入ったF棟から所長室のある管理棟へはなかなか遠い道のりだったはずだが、今日はすぐに着いてしまう気がする。
結局普通に遠かった。
所長室の扉に着くと、看守が俺を待っていた。
「126番、春島陽平で間違いないな?」
「はい。」
「中で所長が待っている。ノックして入るように。」
無言で頷き、大きく息を吸ってノックをして入室。
緊張で心臓バクバクの俺に、『威厳』の二文字が世界で最も似合うであろういかめしい顔つきが言葉を発した。
「『入れ』の声がかかってからの入室がルールだ。」
ーー忘れていた。この程度のルールを忘れるなんて俺はこの7年何をしていたのか。
「まぁ、この程度のことで今更何か言うつもりもない。あと一人来ることになっているから、まぁそこで待っていてくれ。」
待っていろ、と言ったら座らせるのが普通だが、こういう時でも立たされるのは流石に刑務所と言った所だろう。それにしても命拾いした。普段の所長なら怒号が飛んでいたはずだ。
それから5分くらいたっただろうか、おそらく人生でも三本の指に入る長い5分だっただろう。1人の男がドアを叩いた。
「入れ」
「失礼します。」
彼が律儀なのか、俺が不躾なのか分からないが、彼はルールを忘れずに入室してきた。
入ってきた男は俺でも知っている。神田和明、東大卒で某外資系企業に就職したまさに人生勝ち組ルートな男だった。7年前までは。
7年前、世間がオリンピックだウイルスだと騒いでいた頃、ニュースを賑わせた『川越猟奇殺人事件』の犯人として逮捕され、そのままここにやってきた男だ。
当時はマスコミもこぞって彼を取り上げ、卒業アルバム
の顔写真やSNSの投稿なども容赦なく晒しあげられ、あまり情報を得られないここでも話題になるほどの大事件となっていた。
そんな男と俺がなぜここに呼ばれたのか。
そんな疑問に答えるように所長が口を開いた。
「君たちは、ここ5年で1度も問題を起こさず、言動も常に良好だった。まさに優等生だ。刑務所の中での話、だがな。」
そんなことを言った次の瞬間、驚くべき一言がその口がら飛び出した。
「君たちは外に出たいか?」
2028年3月27日、俺の人生はまた動き出した。
この作品はフィクションです。
続編は不定期配信ですが、1週間に1話を目安に投稿する予定です。