蜜盗人
『あなたは蜜だけが欲しかったのでしょうか。』
小鳥、小鳥
花の咲く頃やってくる
花ごとわたしを食いちぎり
蜜だけ手に入れ飛んでいく
風の中に聞こえる
あなたの羽ばたき、さえずる歌
暖かい陽射しを呼ぶ、それはまるで
(葬送の歌)
ころころ、ころころ
道に転がる花たちは
食い散らかされて横たわり
誰が弔うこともなく
あなたは
花が咲いてはやってきて
花が散っては消えてゆく
咲く花追いかけ次の町へ
小鳥、小鳥
呼んでいる
風がお前を、共に行こうと
次の町にはきっといる
お前が探すあの人が
だからそれまで蜜を啜って命をながらえ
さささと風に流れる美しい花びらの中、
ころころ転がる花たちは
どこか重たく見苦しく
美しく花開いたまま捨てられて
必要なのは、蜜だけだったのだと
そしてまた来年、風と一緒に戻ってくる
春がきたよと、戻ってくる……
小鳥、小鳥
風の中に聞こえてくる
戻ってきたよと繰り返し、
あれはきっと弔いの歌
これから道に花をさらす、
彼女たちを誘惑する弔いの歌
戻ってきたよと繰り返し繰り返し……
そして花は
(わたしは)
また咲くのです
(陽気に囚われて)
あなたに
(陽射しに)
誘われて
(渇いて萎れ)
風の中繰り返す葬送の歌を聴いて
(春の声に目覚める事なく微睡んでいたい)
ひとり、そっと
(でもまたきっと)
ことり、ことり………