Ver.01 Primal Ruby
初めて書きました。よろしくお願いします。楽しんでもらえたら…嬉しいです。
誤字脱字ありましたら教えてください!
まだ魔法のまの字もないですけどこれから出てくるので何卒何卒…
またあの記憶だ、見たくもないのに。
周りの景色はおぼろげなのに、そこだけ何故かはっきりと覚えている。
たまたま早く部活が終わった日。たまたま一人で帰っていた日。
たまたまいつもと違う下校ルートを使った日。たまたま長い赤信号に引っかかった日。
たまたますべてが重なってしまっただけなのに。
全ては不運だった。本当に運がなかった。
住宅街の中で車通りの多い2車線の道路。よくある横断歩道での信号待ちの時間。
自分の前で同じく信号待ちをする見慣れない高校の制服を着ている女子。
立っている位置がやけに道の目の前ギリギリで、かばんは何故か足元に落ちている。
車が来る方をちらちらと見ては、車が近づいてくるたびに身体がすこし前側に倒れては元に戻る。
まるで当たるタイミングを探っているかのように。絶対に失敗したくないという覚悟が伝わってくる程、何度も何度も。
遠くから一回り大きな車が近づいてくる。エンジンの音がやけに大きく感じた。その音が近づいてくる程なぜか背筋の寒気が増した。
ああ、自殺をしようとしている少女に会うなんて、本当に運がない。
「おい!!危ねぇよ!!下がれ!!」
そう叫び足が前に出ていた。身体が前に進んでいた。搭乗者を失い自転車が倒れる。
会った事もなければ名前も顔も知らない。その時の表情すらも見れていない。女子の腕を掴んだ感覚。
けたたましいブレーキ音。鉄の塊が身体の一部を削る音が聞こえる。
そこからは何も覚えていない-------もうすぐ目が覚めるんだ。
赤色に空が染まる。 熱いぐらいの夕日が肌を刺した。
放課後の教室ではっと目を覚ます。久しぶりにあの忌々しい夢を見た。吐き気がするほどクソみたいな夢だ。
窓は閉め切られ、初夏に差し掛かった蒸し暑い空気が教室中に漂っている。時間は6時前、もう部活動も終わりがけだろうか。補習をしているわけではないのに珍しく居残ってしまい、教室には誰もいない。動きの悪くなった右足を少し引きずる様にして立ち上がる。一人の教室に、椅子を引きずる音だけが響く。中身の割に重たく感じるエナメルバックを背負い直し歩き出した。
夕日に当たり続けたからだろうか、光が当たったところだけ燃えるように熱い。肌はじっとりと汗をかき決して心地よい気分ではない。はっきり言って不快だ。小さく悪態をつき、教室を出る。
2階の教室から廊下に出て駐輪場に向かった。よたよたと歳の割にはぎこちない歩き方で廊下を進む。床が赤橙色の光を反射してまぶしい。一度気になるとチクチク目を刺してくる日光は余計にうっとおしく感じた。
あの日以来、自分は走ることが出来なくなった。事故が起きた状況の割には奇跡的に命に別状はなかったが、大切なものを失ってしまった。足の大切な筋を切断してしまい、歩けるようにはなっても走ることは絶望的だそうだ。昔から思いのままに走ることが好きだった自分にとって、走ることが出来なくなるのは致命傷だった。もちろん入ったばかりの陸上部も退部。アシスタントやマネージャーという道もあると言われたが、走っている人を…何よりも自分のしたくても出来ない事を思うがままにしている人を目の前で見る事に心が耐えられる気がしなかった。階段を降りている最中に懐かしい走り込みの掛け声が聞こえる。といってもつい一年前に覚えて数か月間使っただけのもので……思い入れというのも少ない。高校に入って何度も履き潰すまで使う予定だった陸上用シューズはたった数か月で御役御免になってしまった。
一応、あの女子は助かったらしい。周りからは貴方が助けたのよ、と言われはしたが自分自身は助けた実感が無い。なんせあの日あの瞬間以来、あの少女を見ていない。名前も知らない、顔も見ていない。見たことない制服だったのは自分とは違う高校だからだろう。自分が轢かれた後、その女子はその事故現場から一目散に逃げて行ったそうだ。無理もないと思う。死にたくて死のうとしたら、見ず知らずの人間が出てきて自分の代わりに轢かれました、なんてパニックにもなるだろう。ただの横断歩道に防犯カメラがあるわけもなく、車の運転手もその女子を知らない。一切素性の知らない人を助けて、その人から感謝の言葉はおろか、その人が今どうなったかさえ知るが事が出来ない。実感が無いのも当然だ。傍から見れば、女の子を救い後遺症を負った悲劇のヒーローだが、自分にはヒーローは向いてないのを痛感した。それに、結局のところ自分は正しい事を成したのかが分からない。
なんというか……死を選ぶほど追い込まれている人間から死を奪う事は、救いなのだろうか。
もう何度考えたか分からないようなことを頭の中で砕き潰しながら駐輪場にたどり着く。もう半分以上残ってない自転車の中から自分のを探し出すのは簡単だ。なによりもただの自転車ではなく電動自転車だからなのだが、今日は少し違和感があった。
「なんだこれ。赤い…宝石?アクセサリーか?」
自分の自転車のかごの中にそれは入っていた。身に覚えがなく、自転車の名前を見てみるが何度確認しても自分の自転車だ。電動自転車ならよくある、あの四角い箱もサドルの下にしっかりついている。かごに入れられていた宝石は丁寧に加工されており、赤色の半透明で大きめの楕円の形をしていた。そしてその宝石を囲うように周りに金色の金属で装飾がされている。さらに短めのネックレス…というより手首に数周巻けばブレスレットにもなりそうな長さの、細かい金の鎖の輪が付いていた。だが、見るからに高級そうなそれは箱に入れられているわけでもなく、包み紙がある訳でもなく、裸でそれのみが入れられていた。確かに素行の悪い輩が他人の自転車のかごをゴミ箱代わりに空き缶を入れていく事はよくあるが、果たしてこんなものを入れていくだろうか…
「見るからに高そうだけどな…まさか偽物か?」
こんな乱雑に、しかも自転車のかごだ。こんな高価な物をこの学校の奴から貰うようなことはしていないし、あの自殺未遂を助けたお礼だとしても今更過ぎる。自分一人の頭では限界を感じ、とりあえず家に帰って調べてみる事にした。ここで突っ立ってても時間の無駄である。その宝石もどきをポケットにしまうと自転車に跨り帰路についた。