秘密のお茶会の少女
クティ、甘い物がだぁ~いすき。
特にショートケーキのふわふわとした食感がたまらない。
だから今日もたくさんのショートケーキを食べる。
ちょっと食べ過ぎちゃうこともあって、小さい頃はよくお腹周りが気になっちゃってた。
でも今ではそんな不安も抱かなくていい。
だっていくら食べても太ったりしないから、遠慮なくいっぱい食べちゃう。
「んんぅ~! おいしぃ~!! みんなも遠慮しないでもっといっぱい食べていいんだよ?」
ショートケーキを口いっぱいに頬張りながら、クティは他のみんなにもテーブルに盛られた色とりどりの食べ物を勧める。
それにみんなは嬉しそうに思い思いにフォークやナイフ、はたまたスプーンを持って、クティと同じように頬張ってくれる。
みんな子どもに戻っちゃったかのようにはしゃぐ姿はとてもかわいくて、笑っちゃうくらい無邪気だった。
でも、おねえさまたちは言ってた。
「無邪気は良いけど、無知なのはただの愚か者よ」って……。
この人たちはどっちなのかな……?
無邪気なのかな?
それとも無知でただの愚か者なのかな?
だけど、クティは正直どっちでも良かった。
だってみんなとこうやっておいしい食べ物を際限なく、いつまでもどこまでも食べることができるんだもん。
ここにはみんなの大好物がたくさん満ち溢れている。
それこそ、望めばなんでも食べたいモノが魔法を使ったかのようにポッと目の前に出てきてくれて……。
まさにここは夢の世界。
いつまでもいたいって思ってしまうほどの甘美な世界。
クティが生み出した、みんなが幸せでいられる理想郷……。
クティはそんな小さな楽園を創って、みんなをここへご招待してる幼い主催者。
でもこの世界にもちゃんとした、みんなが守らなくちゃいけないルールがあるの。
「うっぷ……も、もう食べられなぃ……」
さっきまで燻製のお肉を無我夢中で頬張っていたひとりの男の人が、突然フォークとナイフを置いて席を立とうと必死にもがく。
まだ食べかけで全部食べ終わってないのに、ホントいけない子。
クティはそんな悪い子の肩を、トントンって軽く叩いてあげるの。
「ダメだよ? せっかく作ったのにこんなに残しちゃ……ねっ? おねえさまたちが言ってたよ。『世の中にはパンもろくに食べられずに死んじゃう子もいる』んだって!」
「わ、悪い……だが、もうこれ以上食べたら――うぐっ!?」
「クスクスッ……ダメだよ、そんなこと言っちゃ! まだこぉ~んなに、いぃ~~っぱい残ってるんだから! 最後まで残さず食べないとねぇ……もしかしてこのセカイのルール、忘れちゃった……?」
クティは満面の笑みを浮かべながら、贅沢を言って嫌がる男の人に無理やりお肉を口の中に詰め込む。
このセカイのルール、それはとっても簡単なこと。
『一度、口にした物は必ず最期まで『残さず』に食べないといけない……』
「ねっ、カンタンでしょ?」
一度でも口にした物は最期まで食べ切らないといけない。
おねえさまたちが言ってた。
「それが命を奪って生きてるあたしたちができる最低限の償い」なんだって。
だから、みんなにもちゃんと残さず食べ切ってほしかった。
もしも残さず、食べ切れない人がいたらその時は……。
「逃がさないよぉ……クスっ!」
「や、やめてくれ……っ! あ、あぁ…‥っ!? ギャアァアア――ッ!!」
そんな悪い子、このセカイにいらない……。
だからそんな子はバイバイしちゃう。
みんながおいしく食べられるようにちゃんとお料理して……ねっ!