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異端の紅赤マギ  作者: みどりのたぬき
第1章:異世界と吸血姫編
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第38話:聖女

序盤、特に1章辺りはすみません、初投稿でかなり拙文であったりしますので、時間があればその内表現や台詞回し等大幅に変更予定です。

それまでは何卒、生温かい目で見守ってやって下さい。

 マナストーンを買ったりミスリルを買ったり、アリシエーゼの買い食いに付き合ったりと色々あったが、そろそろ本題のお買い物の続きをしないとなと思い、皆に切り出す。


「そろそろ、他の買い物も済ませちゃおう」


「そうじゃの、少し腹は満たされたからの」


「・・・少し、か」


「なんじゃ?」


「いや、何でもない。後買う物は何だったか?」


 俺はナッズにそう尋ねる。


「後は毛布と、皆の普段着くらいじゃ無いか」


「ああ、そうか。服も買うんだった」


 俺は勿論、篤も明莉も地球で着ていた服でそれはそれで目立つし早々にこっちの平服を購入しておきたい。


「普段着って何処で買うんだ?服屋とかあるのか?」


「服屋はあるけど高いぜ。それに平民が着る様な服を店舗で売ってるところはなかなか無いと思うけどな。店舗で売ってるのは、貴族が着る様なものってイメージだ」


「なるほどね。じゃあ平民はどこで買ってるんだ?」


「露店で売ってたりするし、後は自分達で作るとかじゃないか?」


 露店と聞いて辺りを見渡すが、見える限りでは服を売っているところは見当たらない。


「後は雑貨屋で売ってる場合もあるけど、何なら俺が探して買って来ようか?」


「んー、女の子の明莉は自分で選びたいとかも有るだろうし、そっちは俺達で探すからナッズは毛布をお願い出来る?」


「おう、分かった!」


「あ、あの、私は服は何でも大丈夫ですよ・・・?」


 明莉が恐縮した様に俺に語りかけて来るが、服自体は別に俺も何でもいいんじゃないかと思う。

 パンツかスカートかくらい指定すればいいだけだろうし。

 しかし、下着もナッズに買わせるつもりだろうか・・・


「まあその辺は自分で色々選びたいでしょ。俺は選びたいし」


 俺は敢えて下着については触れずに服は自分達で買いに行くと伝える。


「そうです、ね・・・分かりました」


「私は何でもいいぞ」


「うん、文句なんて言わせないつもりだよ」


「な、何故・・・」


「わ、妾はちゃんと店で買いたいぞ!」


「いや、お前は何着も持って来てるだろ。買わないよ」


「な、何故じゃ!?」


「だから今言っただろ。別にそんな持ってても仕方無いじゃないか」


 アリシエーゼにそう言って会話を切り上げ、ナッズに向き直る。


「じゃあナッズは毛布をお願いね。お金は後で精算で大丈夫かな?」


「要らねぇよ、大銀貨貰っちゃったし」


 そう言ってナッズは苦笑いする。


「そうか、じゃあお願いね。買い物終わったらアルアレ達と合流しちゃっていいから」


「おう、分かった。じゃあ!」


 そう言ってナッズは手を挙げて人混みの中へと消えて行った。


「じゃあ俺達も服を探しに行きますか」


「待て、何処に売ってるかも分からんのじゃろ?」


「そんなのこの辺の人に聞けばいいじゃないか」


「「「えッ・・・」」」


「うん?なんだ?」


「暖、いきなり現地住民に話し掛けるなんてハードルが高過ぎやしないか」


「そ、そうじゃぞ。皆が皆親切であるとは限らんぞ」


「いきなり話し掛けるのなかなか勇気が要りますね・・・」


 いや、何なの?

 お前らどんだけコミュ障なんだよ!


「全然ハードル高く無いだろ・・・」


 俺は心底呆れた。

 別にその辺に居る人に道を尋ねるのと同じで何が難しいのか理解出来ない。


「はあ・・・とりあえずこの街の住民っぽい人探そう」


 そう言って俺は中央広場から北門へ向かう大通りへと向かって歩き出した。

 途中で露店に服が売って無いかをチラ見して行くが無さそうだった。

 中央広場と北門へ向かう大通りの丁度境目辺りにこじんまりとした八百屋だろうか?野菜を扱っている店舗があり、店の軒先で商品の整理をしている女性が目に付いたので女性に話し掛け様と近付いた。


「あの、ちょっとすみません」


「はいよ、いらっしゃい!」


 俺が声を掛けると女性が振り向き、飛びっきりの営業スマイルで笑って見せた。


「あ、商品購入じゃ無くて申し訳ないんですけど、ちょっとこの辺りの事で聞いても大丈夫ですか?」


「うん、何だい?」


 女性は歳の頃は四十代中盤から後半くらいの見た目で若干ふっくらしている、昭和の匂いを感じさせる風貌であった。


「この辺に、庶民が着る様な服を売ってる所って知らないですか?」


「服かい?」


 女性は少し考え込んでから答えた。


「中央広場に露店で売ってなかったかい?偶にそう言うのを扱ってる店が出てるんだけどね」


「中央広場は一通り見てみたんですけど無かったんですよね」


「そうかい、偶にしか出ないから仕方無いね。だったらこの道を北門へ向かって行くと左側にドリーってのがやってる雑貨屋があるんだけど、そこで少し扱ってたかと思うよ」


「ドリーさんのお店ですね、わかりました。ありがとうございます!」


 そう言って笑顔で立ち去ろうとする俺を女性は呼び止めた。


「待ちな坊や」


 ぼ、坊や?


「あんた何も買って行かないつもりかい?」


 そう言って女性はニヤリと笑った。

 それを見て俺も思わずニヤけてしまった。


「わかりましたよ、じゃあこのトマトっぽいの下さい」


「何だい、トマトっぽいのってのは。トマトでいいんだね」


 そう言って女性はトマトっぽいトマトを人数分の四つ取って俺に手渡した。


「一つ小銅貨一枚だよ」


「はいよ」


 俺はそう返事をしてトマトをとりあえず明莉に渡して代金を支払う。


「まいど!美味しかったらまた買いに来ておくれ!」


「はいよ~」


 俺は手を振って応え店を後にした。

 明莉に持って貰っていたトマトを一つずつ配り、自分の分を口にする。


「ん、美味いじゃん」


「ホントですか。私も食べちゃっていいですか?」


「いいよ、そのつもりで全員分買ったしね」


「ありがとうございます―――ん!ホント美味しい!」


「だよね。何か生野菜を身体が欲してたってのもあると思うけど凄い美味しく感じるよ」


「そうですね。この分だとお米もすぐ恋しくなっちゃいそうです・・・」


「そうだね・・・」


 確かに日本人としては米が無いのは非常にキツい・・・

 聖典の数々では都合良く何処かで見付かったり、自分で作ったりしけていたが、日本米の様な物を一から品種改良繰り返して作り出すなんて無理だ。


 何処かに都合良く日本米みたいな米を育てて無いだろうか・・・


 そんな会話を明莉としつつ教えられた店へと向かう。大通りを歩いているとすれ違う人皆が俺達を見て振り返ったりしている。


 まぁ四人全員が歩きながらトマトをムシャムシャと食べてたら振り返るか・・・


「ここではないか?」


 思案に耽っていると篤が声を掛けてくる。

 篤が指差す店を見ると確かに教えられた様な雑貨屋がこじんまりと佇んでいた。

 辺りを見渡すが他に雑貨屋は無さそうなのでここで合っているだろう。


「そうみたいだね、入ってみよう」


 俺はそう言って閉まっている店の入口の木の扉を押し開ける。


「すみませーん」


 店に入り声を掛けるが特に反応は無い。


「あれ?休みなのかな。す、み、ま、せーん!」


 もう一度大きな声で挨拶をしてみると、店の奥から小さく返事が返って来た。


「――ちょっと待っててくれ!」


「はーい!」


 ドリーさんであろう人を待ちつつ、店の商品を見てみる事にした。


「雑貨屋って感じだな」


「そうじゃの」


 俺の言葉にアリシエーゼが反応するが、本人はつまらなそうに店の物を見て触っている。

 雑貨屋だけあって色々な物が売られている。

 旅の必需品だったり、生活必需品だったりと様々だ。

 その中に服はも売られている事を確認した。


「服が置いてあるのはこの辺りだけみたいだね」


 そう言って篤と明莉に商品を見てもらう様に自分は一旦端に寄る。


「わッ!スカートもありますよ!」


 そう言って明莉は売られている服からスカートの商品を手に取り嬉しそうに言って来た。

 篤は服を手に取り、サイズを自分の身体と合わせて確認している。


「おう、待たせて悪かったな」


 服を物色していると突然声を掛けられそちらを振り向くと、背が小さく、ずんぐりむっくりとした髭を生やした中年男性がそこに居た。


 お、おい、まさか・・・


「ドワーフではないかッ!!」


 服を見ていたはずの篤が突然大きな声を上げる。


「な、なんだ?ドワーフで悪いか!?」


 小さな男はそう言って若干身構える。


「すみません。俺達、ドワーフの方と会うの初めてなんで驚いただけです」


「ドワーフを見た事無いって一体どんな田舎から出て来たんだ?」


「あはは・・・」


 笑って誤魔化す俺をドワーフは訝しむが、目の前にはあのドワーフだ。

 髭モジャでずんぐりむっくりな体型。絶対酒好きそうだし、俺だって叫び出しそうだ。


「それで何か用か?」


 ドワーフはまあいいと切り上げて問い掛けてきた。


「ここはドリーさんの雑貨屋で合ってますか?」


「おう、俺がドリーでこの店は俺がやってる」


「俺達、普段着る様な服を探してるんですが、中央広場と北門への大通りの角にある野菜売ってる店の女性にここなら扱っているって聞いて来たんです」


「あぁ、アイツの紹介か。服ならお前さん達が見ているところに置いてあるのが全てだ」


「そうですか、ちょっと見させて貰いますね」


「おう、何かあったら声掛けてくれ」


 そう言ってドワーフのドリーはカウンターへと引っ込んで行く。


「って訳でここにあるのが全てだってさ。予備含めて2セットか3セット買えたら買おう」


「もう決めたぞ」


 そう言って篤は見繕った服を俺に手渡して来る。


「早い!?とりあえずそれは自分で持っててよ。俺だって選びたいし」


「そうか」


 そう言って篤は選んだ服を自分で持ち、他の商品を見る事にした様で離れて行った。


「明莉は決まった?」


「一つは決まったんですが、もっと買ってもいいんですか?」


「うん、気にせず買っちゃって」


 そう言って俺は明莉が持っている服を見ると、シンプルなシャツとスカートを選んだ様であったが、どうやら下着は・・・持ってはいない様だ。

 言った方がいいんだろうかと迷うが俺はアリシエーゼに任せる事にした。


「アリシエーゼ、ちょっと」


 俺はアリシエーゼを呼び、明莉から少し離れる。


「なんじゃ?」


「明莉なんだけどさ、下着の予備も買う様に促してくれないか?」


「何故じゃ?」


「何故って、明莉下着の替えなんて持ってないだろうし、買った方がいいだろ」


「じゃから何故妾が促さないとならんのじゃ」


「買うつもりなさそうだし、ここで買わないといつ買えるか分からないし、そこ気付いてないなら気付かせてあげた方がいいだろ」


「・・・ふーん、随分と優しいのじゃな」


「そう言う訳じゃないが・・・まあ頼むよ」


「・・・ふん」


 アリシエーゼは不機嫌そうに鼻を鳴らし明莉の方へ戻って行った。


 何でそんな事で嫉妬してんだよ・・・

 めんどくせぇな・・・


 とりあえず明莉の事はアリシエーゼに任せるとして、俺も服を選ぶ事にした。

 暫くして全員が予備も含めた服を選び終えたのだそれをカウンターに居るドリーの元へと運び、代金を支払って店を出る。


「ありがとよ!また来てくれ!」


 ドリーは良い笑顔でそう言って俺達を送り出そうとするが、俺はどうしてもドリーに聞いておきたい事があった。


「主人、ちょっといいか」


 そう思っていると篤がドリーに尋ねた。


「うん?なんだ」


「主人は鍛治はやらないのか」


 お、おお、俺が思ってた事ぉ!!

 俺もそれを聞きたくてウズウズしてたのだ!


「鍛治?何でんな事やんなきゃなんねぇんだ?」


「なに?」


 篤の質問にドリーは心底分からないと言った表情を浮かべて返す。


「だから何で鍛治なんてやらなきゃなんねぇんだ?」


「む、むう・・・」


 ドリーの返しに篤は押し黙った。

 いやいや、ドワーフと言えば髭もじゃでずんぐりむっくりな体格で酒好きで鍛治が得意に決まってるだろう!


「ドワーフは鍛治が得意な種族だって聞いてたんだけど」


「はあ?誰がそんな事言ったんだ。探せば鍛治をやってる奴もいるだろうが俺の知り合いには居ないぞ」


 えー

 マジかよー


「そうか分かった、ありがとう」


 そう言って俺はドリーに手を振り店を出た。

 篤も釈然としないながらも着いてくる。

 店を出て暫く歩いて漸く篤に話し掛ける。


「この世界は俺達の常識が通用しない様だな」


「・・・その様だ」


 だが俺としては武器だろうが防具だろうが良い物を作ってくれれば別に種族なんて関係無いと思うのでこの世界ではそうなんだろうくらいにしか思わない。


「この分だとエルフも考えてるものとは違う可能性もあるな・・・」


 篤の言葉に俺は頷き考える。

 確かに、ここに来てから体感した事や感じた事は俺の聖典と照らし合わせても色々と噛み合わない。

 だったらエルフも・・・


「イケメンだけどもの凄い女ったらしとか有り得るのか」


「そもそも、エルフと言う種族は美男美女揃いと言うところから違うかもしれない」


 おう・・・

 その可能性もあるな確かに・・・


「それだと何だか色々とこう、残念だな・・・」


「そうだな」


 そんな会話を篤としつつ歩いていると後ろからアリシエーゼと明莉の会話が聞こえてくる。


「二人は何の話をしているんですか?エルフ?」


「むう・・・まあ、その、暫くそっとしておいてやるんじゃ」


「はあ」


 明莉は結局何も分からず釈然としないながらもアリシエーゼの言葉に従う。

 俺はエルフの問題はとりあえず出会うまで棚上げにしようと気持ちを切り替えた。


「よし、とりあえず服は手に入ったけど他に欲しいものとかあるか」


 篤を見てそして後ろを振り返りアリシエーゼと明莉にも尋ねる。


「私は特に無いぞ」


「私もありません」


「妾は肉が食べたくなって来たぞ」


「アリシエーゼは自分で稼いでそのお金で買い食いしなさい・・・」


「嫌じゃ!働いたら負けじゃ!」


 負けって・・・


「じゃあ我慢しろよ」


「嫌じゃ!むーッ!じゃったらアルアレ達に金は貰うわ!」


「それ禁止」


「な、何故!?」


「いや、アルアレ達は自分達で稼いだ金を遣り繰りしてる訳だし、その金からお前に使う分も捻出してきたんだ。可哀想だろ」


「可哀想な訳あるかッ」


「お前・・・さっきのナッズが半泣きになってたの見てただろ・・・」


「そうじゃったか?」


「そうだよ」


 アイツらを何だと思ってんだこいつは・・・


「兎に角、何も無いならこのまま北門に向かおう。あ、途中で見たい店があったら言ってね」


 俺がそう言うと篤と明莉は頷き、アリシエーゼはぶーすか文句を垂れる。

 そんなアリシエーゼは安定のシカトをして俺達は北門へと歩き始める。

 途中の店をチラリと覗くが特に立ち止まって見たい程の物は無く、篤と明莉もそうであったのかそのまま北門へと歩を進めた。

 大通りから北門広場へ到着すると広場中央辺りが何やら混雑しており、人が沢山居るのが目に付いた。

 他の広場と違い、北門広場にはオブジェクトやらは存在せず、露店や出店の類も見当たらない。

 広場と外を隔てる高い塀に沿って、色々な店は存在しているが、中央広場よりは賑わいは感じられなかった。


「何か人が集まってるね」


「そうじゃの。何か催しでも開催しとるのかの」


 とりあえずそれは後で確認すればいいかとまずはアルアレ達を探す事にした。


「まずはアルアレ達を探そう。馬車は二台のはずだけど・・・」


 そう言って広場をぐるりと見渡すが端に寄せた馬車が至る所に停めてあり、どの馬車も一目見たくらいでは外見の違いもそう分からないのですぐにアルアレ達を発見する事は出来なかった。


「探して回るしか無さそうですね」


「そうするかね」


 明莉の発言に俺は頷きとりあえず手近な馬車から見て回ろうと歩き出すが、そこにアリシエーゼが待ったを掛けた。


「待たぬか。お主もう忘れたのか?」


「ん?何が?」


 そう言ってアリシエーゼに振り返るとアリシエーゼは、自分の右手の人差し指で鼻を指していた。


「・・・あぁ!もう忘れてたよ」


 俺はそう言って笑い、中央広場でのやり取りを思い出す。

 アリシエーゼは匂いで人を嗅ぎ分けられる、探し出せると言っていた。それは種族固有のスキルみたいなものらしいので俺にも出来るはずだ。

 そう思い俺はとりあえず鼻で大きく息を吸い込んだ。


「・・・・・・」


「どうじゃ?」


「・・・いや、分からんよ」


「何故ッ!?」


「こっちが聞きたいくらいだ。そもそもアルアレの匂い(・・)なんて覚えてないし」


「あぁ、そうか・・・妾も確かに、初見では意識して匂いを覚える様にするのう」


「匂いを覚えるってなんだ?こいつは焼肉の匂いがするだとか、こいつはフェロモン出てるなとかか?」


「なんじゃ焼肉の匂いとは・・・」


 そう言ってアリシエーゼはジト目を向けて来るが、匂いを覚えると言われてもあまりイメージが出来ない。


「だから匂いってなんだよ?全然イメージが出来ん」


「何だと言われてものう・・・うーん」


 アリシエーゼは唸りながら考えを纏めようとしているのか腕を組みながら頭を左右にフラフラと降っていた。


「匂いを覚えるってただ嗅ぐだけじゃないのか?」


「体臭とかそう言った話では無いぞ?」


「じゃあ何なんだ?」


 やはりフェロモン的なものなんじゃ・・・


「・・・えーい!わからんッ」


 そう言ってアリシエーゼは頭をガシガシと掻いた。


「とりあえず鼻の奥の辺りを意識して匂いを嗅いでみるのじゃ!」


 アリシエーゼは自分の鼻背を指差しヤケクソ気味に俺にそう告げる。


「鼻の奥・・・?」


「そうじゃ、水が鼻に入った時ツーンとするじゃろ?あの辺りを意識するんじゃ」


 なんじゃそりゃ・・・


 それを聞いた俺は訝しむが、とりあえず言われた通りに実践してみる事にした。

 先ずはと言われた事を意識してアリシエーゼに近付く。

 暫く鼻背辺りに意識を集中していると自分の中で何か変化を感じた気がした。


「・・・どうじゃ?」


 アリシエーゼの語り掛けを敢えて無視して更に意識を集中させる。

 周囲の雑音がまったく気にならなくなった頃にそれは突然訪れた。

 匂いの残り香と言うか先端と言うか、何かを掴みかけてる気がする。


「・・・なんかもう少しでいけそうな気が・・・」


「おぉ!?本当か、どうじゃ?妾の匂いはどうじゃ!?」


 そこから数秒で本体を見付けた気がした。

 今だ!と最後に勢い良く鼻で息を吸い込んだ。


「・・・あ、何かき―――」


「き・・・?」


「あんぎゃああぁぁぁぁぁぁあああッッ!!!」


「う、うわ!なんじゃ!?」


 突然の激臭に俺はその場で叫んでゴロゴロと転げ回った。

 アリシエーゼは突然の俺の奇行に驚いて飛び退き俺と距離を取る。


 明莉と篤は・・・

 いや、そんな事を気にしている余裕は無い!!

 何だ!この臭いは!?

 臭い!臭い!!臭ぇ!!!


「お前ぇぇッ!何だこの臭いは!?ふざけんなよ!」


 俺は涙目になりながらアリシエーゼに攻め寄る。


「な、なに!?妾が臭いと言うか!?」


「臭いなんてもんじゃねぇぞ!?マジでふざけんなよ!」


 とりあえずこの臭いは意識して嗅がないようにし、効果があるのかは分からないがハアハアと口で息をした。


「そんなバカな・・・」


 アリシエーゼは俺の剣幕に圧されてか、小さく声を出し俺の言葉を否定する。


「お前、自分で自分の臭いを嗅いだ事あんのか?」


 若干落ち着いたのでアリシエーゼに聞いてみるが、当人はその問い掛けに目を上に横にと動かし首を傾げた。


「・・・はて?そう言われると無い様な気がするの・・・」


「おい・・・」


「待て待て、自分の匂いなど覚えても仕方あるまい?」


「・・・む、まあそうか。でもとりあえず自分で嗅いでみろよ」


「良いがそんな酷い臭いがするはずあるまい」


 そう言ってアリシエーゼは鼻でスンと息をした。


「・・・ほれ、なんとも――」


 ほーら叫び出すぞぉ

 それとも白目剥いてぶっ倒れるかい


「――ないぞ?」


「あ、あれ?」


 予想外の言葉に俺は絶句する。


 いや、そんなバカな・・・

 この世のものとは思えない様な臭いだったはずだ


「お前痩せ我慢してるだろ」


「しておらんわッ」


 じゃあ何でそんな平気な顔をしているんだろうか。あの臭いを嗅いで平気な顔をして居られるやつは宇宙を探しても一人も存在しないはずだ。


「あれではないか?嗅ぎ手によって感じ方が違うとか」


 いや、嗅ぎ手ってなんだよ

 語り手みたいに言うなや


「そんな事があってたまるかッ」


「じゃが実際まったく不快な臭いはせんかった。寧ろふろーらるな匂いじゃ」


「・・・・・・」


 本当にアリシエーゼの言う通り、俺とこいつとでは匂いの感じ方に差異があるんだろうか


「・・・とりあえず、お前の臭いはもう嗅がん」


「まぁ別にアルアレ達の匂いは妾が覚えておるから別に良いんじゃが、この能力かなり便利じゃぞ?」


「あんな思いは二度とごめんだ・・・」


「まぁ、お主がそう言うなら・・・では妾が探して良いのだな?」


「あぁ頼む」


 そう言ってアリシエーゼに探索を頼みアリシエーゼが直ぐにアルアレ達がいる位置を特定した為そちらに歩き出した時、広場の中央辺りからこちらに駆け寄る数人が目に付いた。


「お前達!何を騒いでいる!」


 全身を金属鎧に身を包んだ如何にも騎士風の男が三人駆け寄って来てその内一人が怒声を発する。


 あれ?こいつら昨日俺が金を巻き上げた奴らじゃないか?


 騎士風の男達は俺達の傍まで来ると再び大きな声で問い詰めて来た。


「答えろ!何を騒いでいる!」


 そのデカい声に明莉は身を震わせて小さくなってしまった。篤とアリシエーゼは無表情で男達を見詰め無言であったが、俺は明莉の萎縮具合を見て無性に腹が立った。

 俺もシカトしたかったがそれはそれでまたデカい声で叫び出しそうだったので仕方無く答える事にした。


「何でも無いですよ、ちょっとふざけてただけですよ」


 それを聞いたデカい声で問い詰めてきた男が舌打ちをした。


 あぁ?なんだこいつ


「チッ、今聖女様が大事な演説をされている最中だ。これ以上騒ぐなら牢にぶち込むからな!」


 知らねぇよそんな事


 そう思ったが面倒臭い事に自ら足を突っ込む事も無いかと自分を諌め、勤めて冷静に対応する。


「わかましたよ、どうもすみませんでした」


「チッ、次は無いからな」


 男はもう一度舌打ちをして他の者を従えて広場中央に引き返して行った。

 男達が離れたのを確認して俺は口を開く。


「なんだあの舌打ち野郎」


「よく我慢出来たの」


「あぁ、明莉とかが居たし無用なトラブルは避けたかったしな」


 イラつきを抑えながら俺達はアルアレの元へと進んで行くが、明莉は少し怖がった自分を恥じたのか、それとも俺に謝らせてしまった事に対して何か思ったのかは分からないが、しきりに謝って来た。


「ごめんなさい・・・」


「いや、だから明莉が謝る必要は無いだろ。騒いだのは俺だしさ」


 何故にこんなにもイラつくのか、イラつきが収まらないのか。自分でもあまりよく分からなかったが、考えてみるとあの男の態度は気に食わないと言うのはあった。

 あったのだが、ここまでイラつくだろうか。

 そこまで考えて俺は思い至る。


 きっと明莉が怖がっていたからだ


 それは明莉に対しての特別な感情等では無く、友人と言うよりも仲間が虐げられている様な状況に腹が立っているのだ。


 友人・・・仲間・・・

 いや、そんなバカな


 人を信じられず今まで生きてきた俺がこんな簡単に仲間意識など芽生えるのだろうか。

 分からないが、苛立っている事は事実である事に否定したくなる気持ちが湧き上がる。


「いえ、でも――」


「いいんだって。次絡んで来たら殺してやるから」


「そんな怖い事言わないで下さいよ・・・」


「あはは、冗談だって」


 俺は満面の笑みを明莉に返しながらおどけた。

 とりあえず自分のこの感情は棚に上げておく事にした。


「・・・冗談ではないくせに」


 隣からアリシエーゼの小さな声の呟きが聞こえたが俺は聞こえないフリをしてそのまま歩き続けた。

 途中、広場中央付近を横切った際に男が言っていた聖女の演説と言うものが目に入った。

 そこには、やはりと言うべきか、昨日中央広場で有り金を巻き上げた一行がおり、あの高慢ちきな女が何やら大声で集まった人達相手に息巻いていた。


「―――今代のこの遠征で全ての終止符を打つ時なのです!」


 丁度演説は佳境を迎えた時だったのだろう。声高々に大袈裟な身振りを混じえて声を張る聖女に周囲の人達は惜しみない拍手と歓声を贈り、聖女は演説途中の雄々しく頼もしい表情から慈しみ深い表情に替えてそれに応えた。


「今代の聖女の遠征は今なのか」


 演説の様子を横目で流しつつ歩を進めるとアリシエーゼが呟く。


「今代?」


「聖女は代替わりをするんじゃよ」


「へぇ、先代といつ入れ替わったんだ?」


「んー、五年程前だったかの」


「遠征ってのは?」


「聖女はの、魔界へ遠征する決まりがあっての、先代は五年程前に遠征しとったよ」


「へぇ、教義でそういう式たりがあるって感じなのね」


「そんな生易しいものでは無いぞ。何せその遠征は本気で魔界攻略を目的としているでの」


 おいおいマジかよ


「本気で攻略に掛かるわけか。まぁでもどうせ聖女とか言っても騎士達に護衛されながら進んでいくだけの簡単なお仕事だろ?」


 ここでアリシエーゼは溜息を一つ吐く。


「ふぅ、じゃからそんな生易しいものでは無いんじゃよ。この代々続く遠征は過去一度足りとも成功しておらんし、その過去の遠征でも生き残って魔界から出てきた者は殆どおらぬ」


「・・・・・・・・・」


 マジですか・・・

 毎回全滅って、じゃあ聖女は・・・


「じゃあ、遠征に行った聖女は・・・」


「生きて帰った聖女は初代以外にはおらんそうじゃ」


 うわぁ

 それってもう生贄だよね

 その遠征をする事により、魔物の活動が沈静化されるとか、その後暫くは豊作が続くとかって話が続くのなら確実だろ


「聖女と言うのは何代続いているのだ?」


 そこで篤が会話に割って入って来た。


「およそ千年。今が何代目かは知らん」


「「!!??」」


 俺と篤は絶句する。

 千年前からこの参加すると必ず死ぬデスゲームみたいな事が続いているのだ。一体何人の聖女が犠牲になったのだろうか。

 聖女だけでは無い。一度の遠征でどれ程の人数が参加するのかは分からないが、毎回ほぼ全滅なのだ。犠牲者はかなりの数に登るのだろう。


「つまり遠征で死んだら次の世代の聖女って事か・・・」


「そうじゃ。代替わりまでの期間はマチマチの様じゃがな。今まで通りならば今代から時代への代替わりはかなり早いとなるじゃろうの」


「そこまでして魔界を攻略する意味は何なのだ?」


「聖女は全てエル教会に所属しておっての。このエル教会が魔族、魔物、つまりは魔に連なるもの全てを是としない。必ず滅するべき存在であると位置付けておるからじゃ。教会としては魔界攻略は悲願なんじゃよ」


「二つ聞いたい」


 今の篤とアリシエーゼの会話からどうしても聞いておきたい事があった。


「なんじゃ?まぁ大体想像は付くがの」


 そう言ってアリシエーゼは少し寂しそうに笑った。


「一つは、そのエル教会の規模。もう一つは吸血鬼はエル教会にとってどんな存在だ?」


 ここでまたもアリシエーゼは溜息を一つ吐く。


「ふ、まぁ想像通りじゃな。エル教会の規模はこの大陸に住む八割はエル教徒だと言われておる。そして勘違いして欲しく無いのだがの、エル教は人間だけの宗教では無い」


「それはつまり他の種族、エルフだとかドワーフもエル教徒だって事か?、」


「そうじゃ。人族は須らくエル教徒じゃよ。異端はハイスタード帝国じゃ。あそこは国教自体を設けておらず国民は宗教の自由が約束されておるそうじゃ」


 へぇ、宗教の自由とか聞くと何だか近代的な感じはするが


「それはどんな宗教でもなのか?」


「そうじゃ。例え世では邪教と呼ばれるものであったとしてもじゃ」


 篤の問にアリシエーゼはキリリとした表情で答える。


 おい、顔・・・


「そうか・・・」


 篤はその答えに押し黙った。


「まぁ彼国の国民は無宗教の人間が多いと聞く。邪教と聞くと国自体が荒れていたり、腐敗していそうなイメージではあるが、どちらかと言うと日本に近いんじゃなかろうかの。妾のイメージじゃが」


「なるほどね」


 確かに日本みたいと聞くと悪いイメージはそんなに沸かない。アリシエーゼの主観ではあるが、一応気には止めておこう。


「ハイスタード帝国以外はこの大陸にもまだ未開の地は残っておる様じゃからその辺りの現地人などには流石にエル教は広まっておらんかもと言ったところかの。ちなみに、かなりの規模じゃが、十割と言う訳では無いからの。光あれば影がある様に何事にも相対するものは存在する。それが邪教や精霊教だと言うだけじゃ。それに本気でエル教に心酔しておる者はどれ程おるのかのうと言う感じじゃ」


 アリシエーゼは一呼吸置きそのまま続けた。


「もう一つはエル教から見た吸血鬼じゃったか。まあお主の想像通りじゃよ。完全に滅するべき悪じゃ」


 そう言うとアリシエーゼは自嘲気味にふふと笑った。それを見て俺と篤は顔を見合わせてそして――


「「完全に理解した」」


 そう言って三者いれば三つの様よろしくばりにそれぞれニヤリと笑った。

 ここまでの話、所謂テンプレ的内容だと理解したので、ここからの立ち振る舞いも自ずと決まり、この三人の場合は認識齟齬等は起きないであろう。

 そこでそれまでまったく会話に参加していなかった明莉だが、ちゃんと話は聞いている事は確認しているので話を振ってみた。


「明莉はどう思う?」


「え、どうとは・・・?」


 自分から質問しておいて何だが、今の質問は無いか・・・


「話に出てた通り、エル教ってのがここでは一大宗教みたいなんだよね。ここにいる人殆どがエル教徒って訳だ」


「はい、それは分かります」


「じゃあどうする?」


「え、あの、質問の意味が全然分からないんですけど・・・」


「その話を聞いて俺達はどうするべきだと思うって事」


「えと・・・みんなその宗教に入信?していらっしゃるのなら私達も入っておいて損は無いのかなと思うんですが・・・教義とかまったく知らないですけど」


「「「ぶっぶー!」」」


「えぇぇ!?」


「寧ろ逆だよ。距離を取りたい。末端の唯の信者の人達と距離を取るって事じゃ無くて何て言うか核心部には触れたくない」


「はあ・・・」


「明莉はエル教に興味ある?」


「いえ、別に興味は無いですが・・・」


「じゃあ、付かず離れず、のらりくらりと行こう」


「は、はい・・・?」


 そうこうしている間に俺達はアルアレ達が待つ場所までたどり着いた。

 こちらに気付いたパトリックが向かって歩いて来る。


「ハルくん、買い物は大丈夫だった?」


「あぁ、うん。問題ないよ」


「そっか、良かった。ナッズが戻って来た時には迷子になってたらどうしようとか考えちゃったよ」


 そう言ってパトリックは屈託のない笑顔で笑った。

 確かに一人くらいは残しておいた方が良かったかと思ったが今更だ。


「もうすぐに出発する?」


「ちょっと待って欲しいかな。アルアレが今向こうに行っちゃってるから」


 そう言ってパトリックは広場中央に目を向けた。


「なんじゃアルアレは聖女の演説を聞きに行ったのか」


「あ、いえ、寄付をしに行きました」


「寄付じゃと?」


「はい、何でも今代の遠征は歴代類を見ない程教会も力を入れているらしく、規模もかなり大きいと。それで人員も資金もこうして聖女様がホルスに向かう途中でも掻き集めているらしいんです」


「・・・のう、これはもしや?」


 パトリックの話を聞いてアリシエーゼが俺の脇を肘でつついてくる。


「あぁ、昨日俺が巻き上げたせいだな」


 旅の資金がいきなりゼロになったので苦渋の策として演説を行って寄付金と言う名目で金を集めているんだろう。

 そんな事とは露知らずアルアレは徳を積む為にお布施に行った訳か・・・


 まぁいいか・・・


 暫くするとアルアレが戻って来たのでそのまま宿場町を出る事にした。


 いやぁ、あの串焼き肉は美味しかったなぁ


 二台の馬車に別れて乗る間際、アルアレとぱとりっくの会話を耳にする。


「聖女様とお話し出来たの?」


「いえ、流石にそれは無理でした」


「これだけ人が集まってたらそうだよね」


「えぇ、ですが演説を聴いていて改めて思いました。今代の聖女様はお若いのに人徳も有り、とても素晴らしい方ですね。噂は兼兼聞いていましたが、神聖魔法も相当な使い手だとか」


「これは今代は本当に期待出来るのかもね!」


「そうですね、あの方ならばと期待せずには居られません」


 そんな会話をしつつ二人はそれぞれ別の馬車の御者台に座った。



 聖女はクソなんだけどなと思ったり思わなかったり

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