第65話 徳川家の秘密
さすがに俺は『諸々の事情』で執事になるのは断った。しかし、徳川が屋敷の『雑用係』としてならどうかと言ってきたので、その提案は喜んで受ける事にした。
いずれにしても屋敷の中でのアルバイトならお客相手でも無く、屋敷内で務めている人達だけとの会話で済むから『陰キャ』&『コミ障』の俺にとっては願ってもない話だ。
時給も高校生とすれば破格の金額で俺からもう少し下げるように徳川にお願いしたくらいだ。
そしてバイトをする時間帯だが、平日は学校帰りに徳川邸に着いた時間から始まり、終わりは夜九時までとなり、休日は隔週の土日で午前九時から午後五時までという事になった。
俺は『執事長』の本多の御爺さんから説明を聞いている中、ふと、ある疑問が出て来たのだが、それも徳川邸で働く俺には知っておくべきだという事で本多の御爺さんから説明をしてくれた。
俺の疑問というのは以前、あれだけ毎日、徳川の家で『勉強会』を行っていたが、一度も徳川の両親、そして『トクガワキヨシ』創業者で徳川の祖父の徳川貴世志さんに会った事が無いということだ。
まず徳川の両親だが母親は徳川が小さい頃に他界していた。それに俺は驚いたが、更に驚いたのは、その他界している母親が徳川貴世志の実の一人娘で父親は婿養子だという事だ。
そしてその婿養子であり現在、『トクガワキヨシ』の社長でもある『徳川芳樹』は数年前に病気をして入院している会長の仕事も兼任しており多忙で有る事。
帰宅は毎日、深夜だそうだ。そりゃあ、俺達がいる時間に会えるはずも無かった訳だ。
それらを聞いた俺は一つ分かった事がある。
それは日常生活の徳川伊緒奈は寂しいという事だ。
もしかすると、そういう環境を少しでも和らげる為に、徳川の寂しさを少しでも減らす為に本多や服部等の幼馴染達が頻繁に屋敷に訪れているのかもしれない。
そう思ってしまうと俺の胸に何かギュっと来るものがある。
俺みたいな男がなんて家族に恵まれているのだろうとつくづく思ってしまう。
話の途中で本多の御爺さんがこう言った。
「竹中さん、どうか伊緒奈お嬢さんを常に笑顔にしてあげて欲しい」と……
『陽キャ』だった頃の俺ならまだしも、今は『陰キャオタク』の俺だからギャグのセンスなんてある訳無いし、トークだってまともに出来るとは思えない。
『雑用係』の中で一番難しい仕事かもしれないな……
「は、颯君……? 早速、明日からお願いね?」
「あ、ああ……よろしく頼むよ……」
「伊緒奈さん!! わ、私もなるべく毎日、来ますから!!」
「えーっ? 太鳳ちゃんは週一くらいでいいわよぉぉ」
「えーっ!? そ、そんな意地悪を言わないでくだしよぉぉ!!」
「フフフ……冗談よ……それに華ちゃんなんて毎日、うちに来ているからね。今も近くにいるんでしょう、華ちゃん?」
えっ? いっ、いるのか!?
「はい、いますよ……」
「うわーっ!!??」
ま、またしても今までどこに隠れていたんだ!?
「もぉぉ……また颯君をビックリさせたわね? 登場する時は気を付けてって前に言ったじゃない華ちゃん?」
「申し訳ありません……以後気をつけます……」
っていうか、服部華子!!
お前、それって不法侵入じゃないのか!?
「ちわーす!! 伊緒奈、今日も来てやったぞぉぉ!!」
「伊緒奈ちゃーん、可愛いお顔を見せて~!? そして私の疲れ切った身体を癒して~!?」
「お、お邪魔します……」
な、何だよ? 結局今日も『徳川一派』勢ぞろいじゃねぇか!!
「皆、いらっしゃーい!! 美味しいケーキと紅茶があるから一緒に食べましょう? 颯君も前田君もね?」
徳川、めちゃくちゃ嬉しそうだな……やっぱ徳川にはこいつ等は必要不可欠だよね。
「おーっ!? い、伊緒奈ちゃん!! お、俺もおよばれして良いのかい?」
「チッ、俊哉もいたのかよ……」
「な、何だよ直人? 俺がいたら悪いのか!?」
「フン、別に……颯さんの友達だから我慢してやるよ」
「あ? 竹中さん、よろしいですか?」
「え? あ、はい……何でしょうか、本多さん?」
「あなたにもう一人紹介させていただきたい者がいるのですが今日はお休みですので明日、紹介させて頂く予定にはしておりますが……」
ん? なんか本多の御爺さん、少し困った顔をしていないか?
「ど、どうかされましたか?」
「は、はい……実はその明日、紹介させて頂こうと思っている者はこのお屋敷の『メイド長』でして……で、そのメイド長の性格が少し変わっているといいますか……なので竹中さんは驚かれるとは思いますが、あまり気になさらないで頂きたいといいますか……」
少し変わった性格? それってキャラが濃いって事かな?
で、その人の事をあまり気にするなと……
それじゃぁ逆に俺は本多さんに『心の中』で問いたい!!
ここにいるメンバーの中に一人でも『濃くないキャラ』なんていますか!?
って事で……
「わ、分かりました……恐らくここ数ヶ月でそういうのは慣れてきましたので……だ、大丈夫だと思います……」
お読みいただきありがとうございました。
次回もお楽しみに(^_-)-☆