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第171話 森蘭子

 応援演説……


 この俺が伊緒奈の応援演説をするなんて……


 あれから結構、俺は応援演説を拒否ったけど、伊緒奈が全然、諦めてくれなかった。逆に颯君以外の応援演説は考えられないから、もし颯君がやってくれないなら応援演説無しで自分だけの演説で選挙に臨むとまで言っていたくらいだ。


 そしてもう一つ……


 上手く演説できなくてもいい。颯君の思っている事を話してくれるだけで十分だからと……


 俺が思っている事……生徒会長に立候補する伊緒奈に対して思っている事を話せって事なのかなぁ……?


 ってか、そもそも俺が全校生徒の前で話なんて出来るのか? いや、無理でしょう!?


 陰キャオタクでコミュ力ゼロの俺が演説なんて……


こういう場面になると毎回思う事がある。人の視線なんて気にせずにコスプレ大会で活躍している茂香さんや華子が羨ましいよなぁ……あんな飢えた狼のような男子共のいやらしい視線を浴びていても平気でポーズとかを決めるんだからな……


 はぁ……とりあえず、今日は久しぶりにアルバイト休みだし、家でゆっくり考るとしようか。



「こんにちは~颯君。とても神妙な顔をしているけどどうかしたのかな~?」


 ん? もしかしてその声は……


「も、茂香さん!?」


「フフフ……そんなに驚かれると思わなかったわ~」


「す、すみません!! 今、ちょうど茂香さんの事を考えていたところだったので……」


「あら~っ!? それは嬉しいわね~私の事を考えてくれていたなんて、これはもう颯君の心は私のことでいっぱいで他の女子はどうでもいいって事だよね~?」


 いや、そこまで言ってないでしょ?


「い、いえそういう事ではなくてですねぇ……」


「ハハハ、冗談よ~さては徳川さんの応援演説について悩んでいるんじゃないの~?」


「えっ、何でそれを!?」


 さすが茂香さんだな。情報がめちゃくちゃ早い。


「当たりでしょう~?」


「じ、実はそうなんです。俺、人前で話をするなんて、めちゃくちゃ苦手ですし……それでたくさんの客がいるコスプレ大会に出場している茂香さん達が凄いなぁ、羨ましいなぁって思っていたんです」


「ふーん、そうなんだねぇ……でもさすがに私だって大勢の前でコスプレをするのは緊張するんだよ~」


「えっ、そうなんですか!? 茂香さんが緊張している様には見えないですけど……」


「まぁ、慣れもあるけどねぇ……でもやっぱり自分が一番やりたいことが出来る幸せを感じているからかしら、意外と大勢のお客さんのことなんて気にならないわ~」


「茂香さんはそうかもしれませんが俺は応援演説が一番やりたい事ではありませんし……やっぱり大勢の前で話をするのはちょっと……」


 俺の場合は好きな事でも恥ずかしくて出来ないだろうけどな。


「それじゃあさぁ……応援演説っていうのは忘れて颯君が一番伝えたい事を話せば良いんじゃないかしら? 今の気持ちとかさ~」


「一番伝えたい事ですか? そうなると勿論、伊緒奈に対してになりますよね?」


「別に徳川さんにこだわらなくても構わないわよ~だって徳川さんは颯君の応援演説の後に自分で演説出来るんだし~だから颯君は何も気にせずに今、感じている事、思っている事、もしくは昔の自分と今の自分を比較したお話をするっていうのもアリかもね~」


 昔の自分と今の自分を比較かぁ……


「ありがとうございます。茂香さんのアドバイスを踏まえて少し考えてみます。今日は茂香さんに会えて本当に良かったです。少し気持ちが落ち着きました……」


「フフフ……颯君のお役に立てて良かったわ~これで私の位置が颯君の中で上位に上がってくれると申し分無いんだけどな~」


「え?」


「ハハ、冗談よ~それじゃあ頑張ってね~? 応援演説楽しみにしてるから~」


 茂香さんはそういうとどこかに行ってしまった。


 あっ!! 茂香さんに聞きたい事があったのに、応援演説の事があってすっかり忘れていたぞ。


 陽菜さんとの同盟を拒否した茂香さんだけど、未だに伊緒奈にも同盟の打診が無いのはどういう事なんだろうか?


 自分で言うのはめちゃくちゃ恥ずかしいけど、『竹中颯争奪戦』に参加する気が無くなったのだろうか……?


 何で俺は聞き忘れてしまったんだよ?


 後からラインで聞くって事もできるけど、なんかちゃんと相手の顔を見て聞かないと失礼な気がするんだよなぁ……そんな俺ってスマホの扱いに向いていないのかなぁ?


 まぁ、とりあえず後悔しても仕方が無い事だし、今日は早く帰って演説の内容を考えるとしようか……いや、まずは久しぶりに録画していたアニメを観てからでも遅くはないよな? それと全然、読めていなかった漫画も……ああ、ラノベを先に読もうかな……?



 そして俺は久しぶりに自分の部屋でゆっくりできるという事でワクワクしながら自宅に帰ると家の前に誰か立っている。


 よく見るとうちの学園とは違う制服を着た女子が立っていた。


 ん? あの顔はどこか見覚えが……あっ!?


「お前は森蘭子!?」


「あ、た、竹中君……お帰りなさい……」


「な、何でお前が俺の家の前にいるんだ!?」


「前に私の話を聞いてくれるって言ってくれたから……本当は夏休み中に会いに行きたかったけど、乃恵瑠ちゃんから竹中君はほぼ毎日、アルバイトに行っているから会えないわよって聞かされていたから……それで二学期に入ってから毎日、この時間に家の前で竹中君の帰りを待っていたの……はぁ、やっと会えたわ……」


 森蘭子は毎日、家の前で俺を待っていたのか!?

 ってか、母さんや詩音には会わなかったんだろうか?


 それに乃恵瑠ちゃんかぁ……久しぶりに乃恵瑠さんの名前を聞いた気がするな。


「そう言えばそんな事、言ったっけな。まぁいいや。それで話って何だよ? 手短に頼むよ」


「う、うん……出来るだけ手短に話すね。で、でも竹中君の家の前で話をしてもいいのかな? 誰かに聞かれたりでもしたら……」


 なんだよ? 他の人に聞かれるとマズイ話なのかよ?

 っていうか誰も聞きゃぁしないだろ?


 でも……


「はぁ……分かったよ。それじゃぁ家にあがれよ。俺の部屋で話を聞くから」


「あ、ありがとう……」(ポッ)


 なんてこった。

 まさかこの世で一番嫌いな女子を俺の部屋に入れる事になるなんてな……

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