表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
167/180

第167話 伊緒奈と魔冬

 二学期二日目の昼休み、またしても驚く事が起こる。


「えっ、伊達さん、どういう事なの!?」


「だから今、言った通りよ。私は今回の生徒会長選挙に出馬はしない。そしてあなたの応援に回るって決めたのよ」


 魔冬のまさかの宣言に伊緒奈グループだけでは無く、一組全員が驚きの表情をしている。


「ちょっと待ってよ、伊達さん? あなたが出馬を辞退してまで私を応援する理由が分からないわ」


 だよな。俺も伊緒奈と同じ気持ちだ。当初、一番ガチガチのライバル同士だった相手を急に応援するなんて素直に信じる事は出来ない。


「徳川さん、理由なんてどうでもいいじゃない? 魔冬だって色々考えた結果、あなたを応援するって決めたんだしさ。だから素直に受け入れてあげなさいよ?」


「片倉さんの言われる事も分かりますが……でも私とすればあまりにも急な展開になったものですから……」


 すると知由がニヤっとした表情で口を開く。


「ははーん、伊達さん……もしかしてさぁ……生徒会長選挙で伊緒奈には勝てないと判断して、こっち側の応援に回ってさ、それで伊緒奈が選挙で勝てば自分も颯君と付き合える権利が残るって算段をしたんじゃないのぉ?」


 なるほど、そういう捉え方もあるよな!?


「酒井さん、あんた失礼ね!? 魔冬がそんな、せこい事を考えるわけ無いでしょ!!」


「そうですよ。魔冬ちゃんに謝ってください!!」


 従妹の伊達忍さんと友人の支倉さんが怒り口調で知由に食って掛かっている。


「二人共落ちついて……?」


「魔冬の事をこんな風に言われて落ちつける訳無いじゃない!!」


「知由ちゃん? 私も伊達さんがそんな算段で私の応援に回ったりするとは思えないわ。まぁ、合宿前のお付き合い程度なら知由ちゃんと同じ思いになったとは思うけど……それに選挙で私に勝てないと思うはずも無いし……」


「ご、ゴメン……言い過ぎたわ……」


 そう言えば伊緒奈と魔冬は合宿期間中に少しずつ打ち解けていって俺からみても普通の友達みたいに見えていたんだよなぁ。


 そして今はお互いにお互いを認め合っている様な雰囲気も感じられる。


「酒井さん、気にしないで。それに徳川さん、ありがとう……でもね……」


 魔冬が小さい声で伊緒奈に話しだす。


「でもね、多少は酒井さんの言っている様な気持ちも私にはあるのよ。だって颯君の事は大好きだし、彼女になりたい気持ちもある。ただ私が徳川さんに選挙で負けるとも思っていないし、最後まであなたと争いたいっていう思いもあったわ……」


「それなら何故、辞退しちゃうの?」


「それは私に生徒会長としての器が無いと思ったからよ。いくら颯君の彼女になれたとしても生徒会長になったからには、真剣に会長を務めなければいけないじゃない? でも今の私には務められる自信が無いのよ」


「え? そ、そんな事は無いでしょう? 伊達さんなら十分に生徒会長は務まると思うわ」


「無理無理……私には無理よ。っていうか私には早すぎるわ。来年ならまだしも今年は無理だと思う。だって高校生になってまだ数ヶ月しか経っていないんだし……」


「それは私も同じじゃない?」


「学年は同じでも中身が違うわ。そう、器が違い過ぎる。これは生まれ持って来たものだと思うわ。合宿の間につくづく実感したもの……私、仕事をしながらずっとあなたの立ち振る舞いを観察していたのよ。お金持ちのお嬢様なのにそういったところを見せないのも凄いなぁって思ったしね」


 そうだったのかぁ……魔冬はずっと伊緒奈の事を観察していたのか?


 そして敵視していた伊緒奈に対して、いつの間にかリスペクトするようになったということか……


 しかし俺からすれば魔冬も大した人だと思うけどな。こうやって素直に伊緒奈の事を認められるんだからな。


「伊達さん、本当にそれで良いの? 後で後悔しちゃうんじゃ……」


「ハハハ、徳川さん、それは大丈夫だよ。私達もそこらへんは魔冬にしつこいくらい確認しているからさ」


「小町ちゃんの言う通りよ。生徒会長になる事に対して私は後悔しないわ。でも絶対に徳川さんに生徒会長になってもらわないと困るのは確かだからね? そうじゃなければ『竹中颯争奪戦』で一騎打ち出来ないしね……」


 一騎打ちって……


「ハハハ、それは責任重大だなぁ……」


「そうよ。責任重大よ。フフフ……」



「これは凄いですよ!! 伊達さんが味方についたって事は一年生の票の大半は伊緒奈さんに入るという事じゃないですか?」


「太鳳ちゃん、それはまだ分からないわ。一年生には島津さんや長曾我部さん、それに上杉カイト君などの人気者がいるからね。その人達を慕っている人達は羽柴さんや直江さんに投票するだろうし……」


 しかし、カイトは陽菜さんに投票するのは当然として佳乃や千夏が本当に陽菜さんに投票するのだろうか?


 自分で言うのも恥ずかしいけど、慕っているはずの先輩が俺の事を好きだと言っているのにも関わらず応援するどころか俺に告白をしてきた二人だからな。


 恐らく陽菜さんの性格なら二人の事はあまり信用していないと思うんだけど……きっと陽菜さんはそんな二人よりも中等部の美月の作戦の方を期待しているんじゃないのか?


 あっ、でもその期待の美月まで合宿の時に俺に告白してきたんだったな?


 って事は陽菜さんが信頼できるのは同学年の弟のマーサさん、宇喜多さん、そして弟の陽呂さんくらいになるのか?


 ただ陽菜さんの事だから乃恵瑠さんを支持していた人達を引き込む可能性が高いとは思うけども……



 ガラッ…ガラガラッ


 ん? 華子が少し焦った顔をしながら教室に入って来たぞ。


「伊緒奈さん、大変です」


「華ちゃん、どうかしたの?」


「はい、これは一大事です。二年の直江カノンさんが生徒会長選挙に出馬しないみたいです」


「 「 「 「えーーーっ!!??」 」 」 」


 魔冬だけじゃなくて直江さんまでもが……


 ってことは……


 生徒会長選挙は伊緒奈と陽菜さんの一騎打ちじゃないか!?


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ